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オープンフリー化に向け、来年の動向が気になるeBook――日本電子出版協会定例セミナー“eBook Publishing:A Vision of the Future”より

1999年12月14日 00時00分更新

文● 編集部 井上猛雄

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13日、東京・千代田区の日本電子出版協会において、“eBook Publishing:A Vision of the Future”と題する、電子ブックの未来を展望するeBook特別セミナーが催された。講師はマイクロソフト研究開発本部デスクトップアプリケーションズ開発統括部グラフィックス&メッセージング部のジョン源河氏と、イースト(株)の下川和男氏。

今年9月に“Seybold San Francisco 99”で発表されたマイクロソフトの電子書籍閲覧ソフト『Microsoft Reader』。来春には英語版が発売される予定で、電子出版業界でも大きな注目を集めている。今回のセミナーは、そのMicrosoft Readerの開発責任者であるマイクロソフトのジョン源河氏がeBookに関して説明を行なった。

マイクロソフト研究開発本部のジョン源河氏。開発した『Microsoft Reader』を前にマイクロソフト研究開発本部のジョン源河氏。開発した『Microsoft Reader』を前に



eBookの標準化の動きと“Frankfurt eBook Awards”

セミナーは、eBookの展望における“悪いニュース”の話から始まった。ジョン源河氏は、ディスプレーの表示技術が出版物を追い抜けていないこと、新しい電子プラットフォームに、出版物のレイアウトをあえて移植するような必要性がまだ見えてこなかったことなどを挙げた。これに対して、明るい話題としては、スクリーン技術とディスプレーの解像度が大幅に向上してきたこと、コストの低減により、手ごろな価格で製造できるようになったこと、タイトルが増加していることなどについて触れた。

マイクロソフトは、2000年の第1四半期には2万タイトルのeBookコンテンツが用意され、総計100万タイトルが販売されるとしている。パブリッシャーとの協力体制についても、いい方向だと力説する。英国のPenguin books、イタリアのMondadori、フランスのHavasや、米国のR.R.Donnelly & SonsなどがMicrosoft Readerを支持している。

また、マイクロソフトは、eBookコンテンツの普及を目的に優秀な作品を募るコンテスト“Frankfurt eBook Awards”にもスポンサーの1人として名乗りを挙げている。最優秀賞には10万ドル、そのほかの優秀な6タイトルに1万ドルを授与する。来年の1月から作品を募集し、来年の“Frankfurt Book Fair”において受賞作品を発表する。こういった動きが優れたコンテンツを生み出し、eBookのブレークスルーになるだろう。

今年10月に米国では、eBook関連メーカーと、マイクロソフト、アドビシズテムズなどが、オープンフリーの思想にのっとったeBookの標準化へ向けて“Open eBook Publication Sturcture1.0”を策定した。HTMLやXMLをフォーマットのベースにし、JPEGやJavaのサポートなどを検討しているが、コピープロテクションや配信、多言語化などに関しては、これから議論するという段階。ルビ、縦書き、外字など、日本語拡張に関しても提案されているが、来年以降に詳細が明確になるという。

Microsoft Readerの具体的な機能

Microsoft Readerの機能面に関しては、デモを交えながら具体的な説明があった。

Microsoft Readerは、ClearTypeフォント技術を利用している。この技術によって、画像解像度を従来より300パーセントほど改善できる。テキストを指定し、マウスを右クリックすると出てくるポップアップメニュー表示から、“検索”、“注釈付け”、“マーカーによる強調”などが指示できる。

ポップアップメニューを表示。“Bookmark”、“Highlight”、“Note”、“Find”などのメニューが並ぶポップアップメニューを表示。“Bookmark”、“Highlight”、“Note”、“Find”などのメニューが並ぶ



また、辞書を内蔵し、コピープロテクト機能なども備えるという。マイクロソフトのeBookは、将来、コンテンツ側とデバイス側に2重のプロテクトをかける方向を検討している。データの配信については、コンテンツをOpen eBook(OEB)フォーマットに変換、そのデータを圧縮し、さらに暗号化する。それをサーバーから転送し、電子デバイスで受信、データを解凍(復号、伸張)するというプロセスを考えている。

後半の質疑応答では、Internet Explorerとの関係や、OEBフォーマットに関する質問などがあった。

ジョン源河氏は、Internet Explorerとの関係について、「Internet ExplorerはOfficeで利用されているテクノロジーを取り込んでいくが、MS Readerとは統合しない」と明言した。また、「閲覧ソフトではPDFフォーマットが既に普及しているが、OEBフォーマットの相違点は何か? 」という質問には、以下のような点を挙げた。すなわち、PDFフォーマットが紙に出力したデータを中心にオンスクリーンで見るのに対し、OEBはXMLベースであり、デザインやフォントを容易に変更できる点、音声や画像データの埋め込みなどマルチメディア化できる点(ただし、Reader側で機能をサポートするかは未定)などである。

ジョン源河氏。MS ReaderはInternet Explorerには統合しないと説明
ジョン源河氏。MS ReaderはInternet Explorerには統合しないと説明



2020年までのシナリオ

次にイーストの下川氏より、eBookの展望に関する補足的な説明があった。下川氏は、マイクロソフトの副社長Dick Brass氏が“Seybold San Francisco 99”のキーノートスピーチで述べたeBookの予測を引用して、今後の展望について語った。

eBookの展望について語るイーストの下川氏eBookの展望について語るイーストの下川氏



マイクロソフトは2000年にリーダーソフトを発売、初年度で100万本以上のeBookタイトルが販売されるとしている。2002年には、ClearType技術を利用し、解像度は約500dpi相当に向上する。下川氏は、このような状況においてウェブ上でもコンテンツが急増し、読むことに特化した専用デバイスが出てくるだろうとした。

2004年にはタブレットPC、2006年には電子ニューススタンド(eNewsstands)が登場し、雑誌は個人の端末からダウンロードする時代になる。さらに、2009年には作家個人が読者に向けて直接出版する時代になると予測しているが、下川氏によれば「すでに音楽の世界では、このようなことが実際に起きており、少し早い段階で書籍も同じような動きがでてくるのでは?」と予測した。

また、2011年にはテラビットチップなどの不揮発性記憶素子が進歩し、400万冊以上の本や、あらゆる新聞が記憶可能になる。ついに2018年には“eBook”が“Book”になり、従来のBookは“paper books”と呼ばれ始める。2020年には90パーセント以上が電子媒体になり、紙で印刷されるものはグラビアなどの写真集のみになる。

下川氏は、このような電子化への認識の変化を“時計”に例えて説明した。

「ひと昔前までは時計と言えば機械式だったが、クオーツ式が出てきて、現在はそれが当たり前になっている。機械式は、今や一部の高級時計の代名詞になってしまった。印刷業界は500年もの歴史があるので、クオーツ時計やCDのように急激な変化はないかもしれないが、徐々にゆっくりした動きで変化していくのではないか」と述べた。

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