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インターネットの労組“ジャパンユニオン”が来年、サービス残業追放に向けてキャンペーン

1999年12月27日 00時00分更新

文● 若菜麻里

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誰でも1人でも加入できるインターネットの労働組合“ジャパンユニオン”は来年、労働大臣にサービス残業追放の要請書を提出する。その際に、インターネットで署名運動を展開していく予定だという。

ジャパンユニオンは、今年7月末に、全国労働組合連絡協議会(全労協)系の地域合同労組である東京東部労働組合のメンバーが中心となって設立した団体だ。東京に活動を限定せず、日本全国および海外在住邦人などに対して、労働者の権利保護のための組合活動を行なうのが設立主旨。労働組合が周りにない人でも、インターネットを通じて活動に参加でき、また地域ボランティアを活用して、実際の現場での労働相談に応じていくといった活動を計画中だ。

東京東部労組副執行委員長の石川源嗣氏は、市民団体“民衆のメディア連絡会”が主催した22日の例会で、“電脳労組ジャパンユニオンの試み”というテーマで近況を報告した。その中で、来年はインターネットで署名活動を展開することを明かにした。

ジャパンユニオンの石川氏。「不況で労働相談が増えた。ホームページへのアクセス数も年々増えている」
ジャパンユニオンの石川氏。「不況で労働相談が増えた。ホームページへのアクセス数も年々増えている」



ジャパンユニオンは組合運動の手段としてインターネットを重要視しているが、インターネットの活用法については同団体にとってまだ未知の分野である。運動を盛り上げるためのメーリングリストの活用方法などについて、市民運動へのパソコン活用歴がより長い一般参加者らとの間で活発に意見交換を行なった。

電子メールによる労働相談は全体の42パーセント

石川氏によると、東京東部労組に寄せられる労働相談の件数は増加傾向にあり、'95年は1ヵ月に平均10.3件だったのが、'99年は、平均151.3件に上るという。相談内容は、会社の倒産やリストラ、賃金などに関してだ。

東京東部労組が活動の一環として、ホームページで労働相談センターを開設したのは'96年。インターネット経由での相談件数も年々増加している。ホームページを見て、同労組を知り、問い合わせしてくる人は、全体の75パーセント、次いで、電話帳を見て問い合わせしてくる人が17パーセント。また、相談方法は、電話が54パーセント、電子メールが42パーセントだという。またホームページへのアクセス数は、現在月に約1700件だ。

石川氏らが主に相談を受ける中小や零細企業の労働者の約8割は、有給休暇がきちんと支給されず、また残業代に関しても、法律に基づいてきちんと支払われていないケースが圧倒的に多いという。

「社会経済生産性本部の昨年5月の発表によると、労働者がサービス残業をやめれば、約90万人分の雇用が生まれ、また手当が出る残業も含め全てやめれば約260万人分の雇用が生まれるとしており、それにより失業問題が解決できる」

ジャパンユニオンでは、労働大臣に対し、サービス残業をなくすよう各企業に指導し、また労働基準法に基づいて残業代が支払われるよう、各地労働基準局などに指導することなどを来年初頭に要請する計画だ。その際にインターネットで、要請書に対する署名運動を行なう。

石川氏は、「今年6月に問題化した“東芝クレーマー事件”は、福岡の一消費者が立ち上げたホームページに対し、数百万というアクセスがあり、さらに、東芝の副社長が福岡に出向いて謝罪をするという画期的な出来事だ」として、「今後の労働運動の方向性を考える上で、インターネットの可能性に注目している」と語った。

インターネットを活用して新たな組合活動を模索

ジャパンユニオンの活動報告に引き続き、フリーディスカッションが行なわれた。参加者からは、労働組合の結成方法や、会社との団体交渉などについて質問があった。

また、ジャパンユニオンからは、石川氏の他、2名が参加し、「サービス残業追放キャンペーンなどをどうやって盛り上げていくか検討中だが、我々は、パソコンやインターネットに関しては初歩的な知識しかない。メーリングリストという存在を知ったのは、つい1週間ほど前だ。インターネット上での活動には、どういった方法が効果的か、ぜひ助言してほしい」という声があった。

参加者ら19人は日常的に市民運動などの情報交換の手段としてパソコンやメーリングリストを活用しているため、具体的な意見の交換があった。以下、その一部を紹介する。

「メーリングリストとホームページは運動体にとって基本的な道具」と、盛り上がる意見交換
「メーリングリストとホームページは運動体にとって基本的な道具」と、盛り上がる意見交換



参加者 「労働をテーマにしたメーリングリストを立ち上げれば、1000人くらいのメンバーはあっという間に集められるだろう。ニュースレターを郵送すると、1回80円かかるので、メーリングリストはコスト的なメリットもある。しかし、コンピューターを知らない人には情報が届かないという格差が出てしまう」

主催者 「民衆のメディアで運営しているメーリングリストには、現在350人が参加している。情報を毎日流せて便利だ。参加者が自由に意見を出せるため、変な意見もたまにあるが、メーリングリストを3年間やってきて、これはものすごい武器だと思っている」

ジャパンユニオン 「メーリングリストにどんな意見が入ってくるか分からず、(意見を)修正できないのにはどう対処したらいいか」

参加者 「変な人(経営者側の人など)からの書き込みの可能性がゼロとは言えないが、その対処方法のノウハウは、これまでの経験から提供可能だ。それよりむしろ、誰でも下から意見が言えるというメディア特性に対し、上意下達的でない新しい組合運動をどう作っていくかを前向きに考える必要があるのでは」

参加者 「インターネットのメディア特性と、これまでの組合活動の方向性は、ぴったりマッチするかは分からないが、マイナス面にひるむと、新しい可能性を逃すことになる」

参加者 「労働運動には、多くの人に知ってもらいたい情報と、オープンにできない情報と2種類ある。オープンなメーリングリストでは、経営者側の人も参加でき、嫌がらせなどに使われる可能性もあるので、オープンなメーリングリストと、メンバー限定のクローズなメーリングリストなど、複数あってもいいのではないか」

ジャパンユニオン「10年前は街頭でビラをまいて活動したものだが、そうしたやり方には限界がある。ジャパンユニオンの加入者はまだ数名だが、従来の運動のやり方を出発点として、インターネットを利用した新しい運動を今後広げていきたい」

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