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【年末特別対談Mac編Vol.3】難しい来年の展望。将来を見据えたMacOS Xか。あるいはコンシューマー寄りのMacOS 9.Xか? 

1999年12月27日 00時00分更新

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MACPOWER・MacPeople誌アドバイザーの林信行氏と、MDOnline編集長の新居雅之氏をお招きしお届けしている年末特別対談Mac編の第3回目。引き続き、今年1年の総括と来年の展望について語ってもらった。

優れたアプリケーションができるAPIが用意されている

林「ぼくが、もう1つ面白いと思っているのが、まだ対応ソフトが少ないんですけど、パッケージ。流行るんですかね、これから」

新居「どうでしょうね。隠せるっていうのがね。たとえばメーラーなんて、たとえばOutlook Expressもそうだけど、アプリケーションと同じところに作って貯め込んでしまって、ユーザーが動かしてしまうことはないですね。パッケージにしたら動かされるしね、Outlook Express5はちょっと変わりましたけど。そういう枠組みを考えたら、パッケージっていうのは意味があるかなと思います」

林「要らないものを隠してシンプルにするっていうのは、Macのリソースの発想とほとんど同じですよね。iMovieって、実はそのまま簡単にパッケージ形式になってしまうって知っていますか?」

新居「パッケージなの?」

林「フォルダーの構成が丸っきりパッケージの構成になってるんです」

新居「パッケージはCore Foundationに関わるんですけど、リソースサービスでしたっけ? ファイルシステムに関係なくリソースを使うっていうCore Foundationで、それこそUFS(Unix Filing System)であろうが、みんなリソースを使うようにするというシステムがあって、それと完全にリンクしてますよね。

【プロフィール】新居雅行(にい・まさゆき)氏。(株)ローカスの情報メディア出版局編集長。慶応義塾大学講師。テクニカルライターとして、MacintoshやWindows関連の書籍や雑誌記事等を手掛ける。100冊を超えてからは、著書の数を数えていない。Macintosh分野の開発情報やシステム管理情報などを日刊のニュースレターで届けるMacintosh Developer Online(http://cserver.locus.co.jp/mdo.html )を'99年9月に創刊した【プロフィール】新居雅行(にい・まさゆき)氏。(株)ローカスの情報メディア出版局編集長。慶応義塾大学講師。テクニカルライターとして、MacintoshやWindows関連の書籍や雑誌記事等を手掛ける。100冊を超えてからは、著書の数を数えていない。Macintosh分野の開発情報やシステム管理情報などを日刊のニュースレターで届けるMacintosh Developer Online(http://cserver.locus.co.jp/mdo.html )を'99年9月に創刊した



林「ここ1、2年ぐらいの動きというのはすごい面白い。スティーブ・ジョブス的な言い方をすれば、OS側に20階のビルで10階ぶんぐらいに相当する新しい技術が詰まっていて、ディベロッパーがちょっと手を加えれば比較的簡単に優れたアプリケーションができるようになっている。たとえばテキストエディットに代わるマルチリンガルテキストエディットのMLTE」

新居「32Kを超えるやつ」

林「ええ。けっこういいアプリケーションができるような土台というか、APIが用意されています。それを使えば、まるっきり新しい時代のアプリケーションが作れる。過去の互換性もしっかりしている。ディベロッパーは、過去の互換性もあるから、安心して、とりあえずカーボンだけ対処するという方向でいくのか、それともCore Foundationとか、新しいマルチリンガルテキストエディットとか、そういうのを使っていくのか、けっこう面白いところですよね」

新居「なんか、力量を問われてるんじゃないのかな。力量を問われてるって言い方は、ちょっとつき放したような言い方だけど、それでやりようができればね。どうやるか、まだみんな分からないから」

林「こういった状況だからこそ、いままでいろいろなアプリケーションを作ってきた人たちって、これまでのリソースにしがみつきがちなところがあるんじゃないですか。逆にかえって小さなディベロッパーにとってはチャンスだという気も、ちょっとするんですね」
新居「そうですね」

林「いままでアップルの歴史には、いくつものこうした小さなヒーローがいた。例えばQuickDraw GXっていう技術が出たときにはシェアウェアなんかも作っていたPierce Software(ピアス・ソフトウェア)やラリー・ソフトウェアっていう会社、どっちも社員は1人とか2人くらいなんだけれど、真っ先にQuickDraw GXの先進機能を使ったソフトを開発して、世界中のマスコミの注目を集めた」

「確かにマスコミがとりあげたのはQuickDraw GXを真っ先に採用したっていうのも理由の1つだけれど、実際、これらのソフトはそれまでの類似ソフトに勝るとも劣らないパワフルな機能を提供していた。たった1人や2人の開発者でそんなソフトが作れたのはアップルが提供した新技術を熟知して、OS内に用意された資源を使えるだけ徹底活用したから。QuickDraw 3Dを徹底活用した英マイクロスポットの“3D World”っていうソフトもそういったソフトの1つ。OpenDocが登場した時も頑張ったのは小さな開発者だった」

新居「ちょっと難しいのは、フレームワークレベルが、いまいち見えないこと。Core Foundationがオブジェクト指向になってるんですよ。だから、フレームワークにうまく組み込むのか、フレームワークとしてつけるのか。下手に変更しちゃって、逆に長期的な意味で乗り遅れてしまう可能性もありうるのかな。なんか怖い、みたいなのはありますね」

REALBasicが今年1番のトピックス

林「開発ツールで言えばREALBasic*の国内正式発売が1番のビッグニュースかな? ただ、アプリケーションだけでなく、機能拡張やライブラリーなども開発できる本格的な開発環境がいつのまにかMetrowerksのプログラミング統合開発環境CodeWarriorだけになっちゃって他の選択肢がなくなってしまったのにはちょっと不安を覚える」

*REALBasic:Mac用のオブジェクト指向開発環境。ビジュアル・インターフェース・ビルダーを備えて、ドラッグ&ドロップで簡単にウインドーやダイアログをデザインできる。BASIC言語でプログラミングでき、Windowsプラットフォームで広く使われているMicrosoft Visual Basicのフォームもインポート。Windowsでの資産をMacintoshに移行する

新居「Metrowerksって、本当にユニークな会社だと思いますよ。こういう言い方したら怒られるかもしれないけど、がまんにがまんを重ねて、残り勝ちしたみたいな会社じゃないですか(笑)。Macではもう完全に残り勝ちしたでしょう。シマンテックは完全にMacから手を引いてるし。Windowsもその傾向はあるんですよね。もう旧ボーランドもCはあきらめちゃった。Jビルダーは健闘してるいるけれど、やっぱりあとはMetrowerksさんだけですか、みたいな(笑)。もしかして最後に残っちゃうんじゃないの」

新居「JavaのRAD*がやっと今年になって付いた段階で、C言語の開発となるとRAD的なものはほとんどないに等しい。ないって言ったらまあ、向こうはあるとは言うと思いますけど、ほかのツールに比べると非常に劣っているにもかかわらず、やっぱり支持を集めてるっていうのは、ある意味驚異的。やっぱり基本的なデバッグとか、ソースや核になるところが、しっかりしてないと、あの世界でいかに受け入れられないかってことですよね」

「Macの世界でも長期的には、Interface Builderとか、次の製品が出てるけど、今後Metrowerksと一緒に本当に次世代の決定打みたいなものを作るようなことをチラリと聞きました。でも、どうなるか知りません。要はカーボン化に関しては、PowerPlant*で作ってた連中はラッキーでしょうね」

*RAD:Rapid Application Developmentの略。高機能なプログラム開発ツールによるプログラム作業の自動化や、GUIツールによる画面設計のサポート、ソフトウェアのモジュール開発とそれらモジュールの組み合わせなどを可能にすることで、ソフトウェア開発を容易にするための仕組み

*PowerPlant:Metrowerksのプログラミング統合開発環境CodeWarriorに添付されている Macintoshソフト作成用C++クラスライブラリー。小規模なモジュール化が行なわれており、必要な部品だけを組み込んで使うことができる

林「そうですよね」

新居「何もしないでってわけには、いかないかもしれないど。いずれにしても、REALBasicの話題が今年の1番のトピックですよね。久々に」

林「ええ、面白かったですね。文法とかはVisual Basicに似ているけれど、Macらしいよさをちゃんと取り込んでいる。もともとはCrossBasicっていうシェアウェアだったんですが、このシェアウェアそのものが結構いいできだった。連載で取り上げたはいいけれど、しばらく更新されないんでどうしたんだろうと心配していたら……」

新居「ええ。最初クロスベーシックはシェアウェアだった。それをジェフ・パールマンが、これ面白そうだなって買い取ったんですよ」

林「開発者ごとね、うちに来いって言ったとか。ジェフ・パールマン自身もしっかりしたビジョンを持っている人間だし、とにかく開発というか改良のペースが早い。それにまさかクロスプラットフォームのアプリケーション開発ができるようにするとは思いもよらなかった。ただ、残念なのは日本語の処理とかをText Encoding Converterまかせにしてしまったことで、日本語対応ソフトはWindows対応させられないことかな? あれ今はできるのかな?」

【プロフィール】林信行(はやし・のぶゆき)氏。フリーランスコンピュータージャーナリストで、MACPOWER・MacPeople誌アドバイザー。両誌では海外ニュースのセレクションなども手掛け、過去9年間米国で開催したすべてのMacWorld EXPOに参加。アップルの20年の歴史がすべて分かる『アップルコンフィデンシャル』(著者:オーウェン・リンツメイヤー、翻訳:林信行、柴田文彦)を12月24日に発売したばかり【プロフィール】林信行(はやし・のぶゆき)氏。フリーランスコンピュータージャーナリストで、MACPOWER・MacPeople誌アドバイザー。両誌では海外ニュースのセレクションなども手掛け、過去9年間米国で開催したすべてのMacWorld EXPOに参加。アップルの20年の歴史がすべて分かる『アップルコンフィデンシャル』(著者:オーウェン・リンツメイヤー、翻訳:林信行、柴田文彦)を12月24日に発売したばかり



Win版のText Encoding Converterがないという問題

林「Mac、 Winを両方開発している人たちが、結構苦労するのがMacの先進APIを使用してしまうと、アプリケーションのクロスプラットフォーム化が難しくなるという問題でしょう。例えばText Encoding ConverterにはWindows版がない。このためこれを使ったMac用ソフトをWindows対応させるには、それと同じ機能を自分で用意しなければならない。クイックタイムなんかはWindows版もあるんだけれど、Text Encoding ConverterやATSUI*、CoreFoundationみたいな先進的で便利なAPIを使うと、その時は楽ができるけれど、Windows版をつくる時に苦労する」

*ATSUI:Apple Type Services for Unicode Imagingエンジンの略。Unicode文字をモニターに表示したり、印刷したりする機能が含まれる

新居「そこでアップルは独自性を出したい、みたいなところもあるんでしょうからね。本当にWindowsでやらなきゃいけないものは、REALbasicは使わないでしょうね」

林「そうなんですけど、たとえばCとか C++とかで開発するにしても、結局Text Encoding Converterっていう便利なツールがあるにしても、MacとWindows両方開発するからといって、それを使わなかったりするわけじゃないですか」

新居「ええ」

林「あるいは使ったら、結局、Windowsのほうで二度手間になっちゃうとか。結局いいものがあっても宝の持ち腐れになっちゃう気がするんですよね」

新居「避けて作ったりとかね、しなきゃいけなくなってね」

林「そうやって考えると、ますますアップル独自の先進API技術を使うのは、両方のプラットフォームに対応したハイブリッド製品を出す大手の開発者ではなくって、『うちはもうMac製品しか出さない』って言うような小さな開発者のような気がしてならない」

新居「まあ、コーシン(コーシングラフィックシステムズ)さん的なビジネスモデルの会社では(笑)。でもATSUIに至っては、なんかかなり技術的な興味を満足させるっていうと怒られるかもしれないけれども、なんかここまでできるぞ、みたいなね。かなりUnicodeにもコミットしてるし、昔から例のね、WorldScriptでコミットしてるから、うちはこういうのできるというのを示すわけです。それを出してからのビジネスモデルっていうのは、あまり考えていないテクノロジーかなっていう気はしますけどね。特にいまのUnicode系。いっぱい出てきてるじゃないですか」

林「そこでたとえばアドビとかをね、引き込んで」

新居「そうそう」

林「Macの場合にはText Encoding Converterがあるからすぐ出せるけど、 Windows版はそれに対応するものをいま作っている最中だから製品を出せるのは1年後とかっていう話になれば、Macも非常に心強いですよね。あと、Mac版とWindows版で製品機能に差をつけてしまうとかね、やってくれる開発者がいるとMacコミュニティーとしては非常にうれしいんだけれど。そういう製品を作ったらWindows市場ではひんしゅく買っちゃいますかね? 」

「実はここいらへんで1番、面白い製品開発戦略を展開しているのが、マイクロソフトだと思う。MSは1年おきにMac版オフィスとWindows版オフィスを交互に出すことにしている。'98年はMac版のOffice 98を出したし、'99年はWindows版のOffice 2000だった。Mac版のOffice 98にはいくつかMacらしさを強調した斬新な新機能があったけれど、それがOffice 2000にも影響を与えている。そしてOffice 2000に加えられたWindows的な新機能は、おそらく次のMac版Officeに影響を与えるはずです。それぞれのOSの良さを生かしながら、それをもう片方のOS版にもうまく吸収させようとしている。まあ、もっともMS製品への好き嫌いは大きく分かれるところでしょうが」

MacOS8.6もありました

新居「実はMacOS8.6も今年ですよね」

林「ああ、そうですよね」

新居「もう、忘れちゃう(笑)。これも今年なんです」

新居「賛否両論ありますが。これ持って来ましたけどね。でも、なんかWindows版とMac版の差が悲しいですよね。今年はとっても」
林「Windows系の会社にMacのものをちょっと試しでいいから作ってみろって(笑)言いたいですね。iMacは8月からYAHOO! のトップ10でずっと1位でしょう。ソーテックのe-one*が何回か1位になったぐらいで。全部合わせたら、日本ではかなりの数いきますね」

*対談では時間切れになってしまったが、'99年のアップル周辺では、ソーテックのe-oneに対する裁判は大きなイベントとなった。言ってみれば“パクリ”はいけないという判断がなされたと言うことでは、デザインを売り物にするアップルにとって今後の優位を保証されるということにもつながり、大きな意味を持つ。一方、アップルが対決する相手、つまり“敵”はWindowsやUNIXとかいう大くくりなものではなく特定の商品であったというのも、パソコンという商品の位置付けがよりコンシューマーに寄ったものとして注目できるポイントだと言える(新居)

新居「エンジニアにとって、MacOSっていうのは、技術的にいろいろ興味のあることが多いと思うんですよね。特にWindowsやってると平凡で何んだこれ? みたいなところが、ああ、こういうのがあるんだと分かる。WindowsはMSDN(Microsoft Developer Network)とか、とりあえずこれだけ見ていればいいというものがある。いまアップルは、情報をあまり出さない状態なので敷居が高いけど、そういうことを抜きにしても、やっぱり面白いテクノロジーが集まってるから見てほしいですよね」

「アップルがコンピューターの世界で活躍しているのは、シェア以上に強いけん引力を持っているからでしょう。Macの世界で起こったことは、そのうち Windowsの世界でも起こるわけだから、いいポジションを持っていてもらいたいし、そういう見方でWindowsの人からも見てもらいたいなというのがありますよね」

新居氏(中央正面)と林氏(左)
新居氏(中央正面)と林氏(左)



来年のMacOSの行方を占う。企業寄りか、コンシューマー寄りに向かうのか?

新居「来年の話が1番、肝なんですよ。どっちに振れるかまだ予測できない。MacOS Xのクライアントは絶対出さざるを得ないと思うんですね。きっとWindows2000と同じぐらいに出す。いま来年前半と言ったら、たぶん後半になると。後半の早い時期に出すぐらいかな。でも、もしかしたらユーザーの支持を得られない可能性があるじゃないですか。持論を述べせてもらうと、iMacやiBookのユーザーに、プリエンティブマルチタスクだとか、そういうことは必要ないですよ。ニーズもないわけで」

「じゃあ、だれが使うの? って言ったら、管理もいるから個人向けじゃなくて、やはり企業でしょう。企業向けというと、いまアップルの1番弱い市場ですよね。もし支持を得られないとなれば、製品が出てこないという悪循環に陥る。となると難しい。MacOS Xサーバーも出したけれど、言っちゃあ悪いけど出しっ放し。アップデートも全然されなくなってくるし、どうするのかな? っていうのもある」

「だから、来年はMacOS Xが出てくれば大丈夫ですよ、みたいなことはとても言えない(笑)。客観的な事実を積み重ねると、どっちかというと暗いんだけど、そこをどう推進して、たとえば5年後、10年後を見据えてMacOS Xをやるのか。とりあえずMacOS Xは約束したから出すけれど、コンシューマーに強くなるために、MacOS 9をもっとアップデートしていくのかが読めないんですよ。どちらも言えるんで。たぶんね、どちらもやる。ただ、どっちに比重があるかというと、来年はMacOS 9の継投だと思うんですね。それは多分、当たるかな(笑)。自信がないけど」

「だってコンピューターの世界って、何か大きいイベントが起こったところで確実にその方向に流れるっていうことは必ずしも言えなくなってるから。それを考えると、来年のアップルっていうのは最も予想がつきにくい。1年後に、おまえこんなこと言っただろうとか、責任を追及されると困るなというのがある(笑)」

林 「まず、MacOS Xは、まだだというのは同じ見解ですね。プリエンティブマルチタスクやメモリー保護の利益はそれなりにアピールできると思うけれど、それ以前にたぶん十分なドライバーが提供されないでしょうね。MacOS Xにしたとたん、エプソンのプリンターが使えなくなって、キヤノンのスキャナーが使えなくなった、どうしてくれる! とか文句が殺到したら困るので、アップルとしてもなかなかMac OS Xをコンシューマーには売り込めないと思います。逆に他を出し抜いてウチはいち早くMac OS Xにも対応っていうハードメーカーが続出してくれるとうれしいんですが、ドライバーモデルとかが今までと大きく違うので、開発をするまでの最大静止摩擦係数というのが大きい……」

「実はオブジェクト指向な仕組みになっていて、慣れれば開発はずっと楽になっているはずなんだけれど……。ただ、2000年前半、多くの開発社はWindows 2000対応とかにも追われるはずで、結構手一杯なところが多いかも。こうしたハード側の制約からも、2000年は、むしろMacOS 9の後継OSの方に注力してくると思う。来年もう1つ気になるのはハードですよね。アップルは、'99年5月のWWDCで発表したハード戦略をほとんどすべて'99年中に実現してしまった。おかげで、こっちとしては2000年のアップルの動きは予想がしにくい」

新しいハードウェアにも期待。マルチプロセッサー仕様になるか?

新居 「AltiVec*がこんなに早く出るとはだれも思わなかった(笑)」

*AltiVec:“Velocity Engine”のこと。同じ機構をアップルは“Velocity Engine”、モトローラは“AltiVec”と呼んでいる。Power Mac G4プロセッサーに組みこまれた、複数データを一括処理するSIMD機構。これにより、1GFLOPS(ギガフロップス:1秒間に10億回の浮動小数点演算能力)を実現した

林「1998年のWWDCでは、'99年の5月までにはベースクロックを100MHz超にするというのがあった。残念ながらこれはまだ実現していないけれど、その他の公表済みの目標はほとんどすべて果たしてしまった。iBookやPowerBook G3へのFireWire搭載とか、PowerBook G3のAirPort対応とか予想できるものもあるけれど、特に次のiMacがどうなるかは予想がつかない」

「最近になって17インチディスプレー内蔵iMacの情報が出てきた。これは現実に登場するかも知れないけれど、そこでそれ以外にどんな新技術を搭載してくるのか? AirPortのような“あっ”と言わせる新技術が搭載されているのかはまったく予想がつかない。消費電力を減らしてくるとか、静穏性を重視してくるとか、全体として目指している方向性は分かるんですがね。いずれにしても、2000年ですし、次のiMacは何かすごい技術を搭載しているかも知れない」

新居「夏に向かって熱を出さないように(笑)」

林「もしかしたらデザインを大幅にチェンジするかもしれないですよ。iMacDVでもけっこう変わったけれどていて、もう丸っきりガラッと変えちゃうっていうのもアリかな? 液晶になれば1番理想ですけどね」

新居「ああ、平べったいやつね」

林「iMacの液晶化はいずれ実現するでしょうね。いろいろなデザイナーがいろいろなアイデアをウェブページとかで発表しているけれど、僕は液晶版iMacはアップルシネマディスプレイに似たデザインになると思う。平べったくて、ちょっと浮いてような感じのデザイン。ジョナサン・アイブはデザイン言語にはこだわらないっていうけれど、今のアップル製品に共通したデザインの特徴がこの浮遊感を演出することで、軽そうな印象やパソコンの流動的性質とかを表現するというもの。アップルシネマディスプレイはまさにその究極の姿という感じがする。だからアップルが目指す液晶型デスクトップ機が目指すデザインもあれなんじゃないかって思う」

「あともう1つ気になるのは、MacOS Xが出たので、それに合わせたハードが出てくる可能性もあるかも。もしかしたら、単に現在のPower Mac G4の筐体でマルチプロセッサー仕様にしただけの製品かも知れないし、それがどういうものになるかは想像がつかないけれど、ハードとソフトが密接に融合してこそアップル製品だと思う。だからこそOSがハードウェアの設計に影響を与えることは十分ありえる」

MacOS X ServerとApple Share IPが融合したら……

「それからマルチプロセッサー仕様は出てきてもおかしくないと思いますよね。実は、MacOS 9の段階で既に、マルチプロセッサー対応ってちゃんとOS基本機能として実現しているんですよね。MacOS Xもね、マルチプロセッサーに対応するっていうようなこともあるし、これだけ準備しておきながらマルチプロセッサーマシンを出さないっていうのは、ちょっと考えにくいですよね。あとサーバー関係も面白そう。MacOS X ServerとApple Share IP が、もしかしたら来年5月ぐらいに融合するかもしれない」

新居「そうですね。あれは融合すべきなんですよ」

林「ええ。そのとき本当に気になるのは今のMac OS X Serverが備えている開発環境をどうするかっていうことですね。Interface Builderにしてもそうだけれど、ネクストの技術から派生した開発環境って非常に優れていると思う。オブジェクト指向をあそこまで純粋に美しく表現した開発環境は、他にはなかなか見あたらないんじゃないかな。AppleShare IPと融合して純粋なサーバー製品にするとかいう理由であの開発環境をなくしたり、機能を減らしたりはして欲しくない。おそらくWebObjects用開発環境として、それからCocoa(ココ)の開発環境として生き残るとは思うんだけれど、もっと、前面に押し出して積極的にアピールして欲しい。そしてWWDCが開催される度に、不満を積もらせているNeXT系開発者たちを満足させてあげてほしいですよ」

新居 「今年はすごかったですね」

林 「今年は本当すごかった。Objective Cはね、今後はサポートしないっていうのが大問題になった。もっとも、少数派のNeXT系開発者の間での話題なので、Mac雑誌なんかにはあまり大きく取り沙汰されませんでしたが。Objective Cはきれいな言語ですしね、Javaよりか優れた面も多々あると思うし、魅力はいまだに決して失せることはないと思うんだけれど」

新居 「Javaのほうのマインドシェアが高いからっていうことはあるんでしょうけどね」

林 「やはり両方をサポートするのはアップルとしても荷が重かったのだろうか」

新居 「Javaのほうが、ほかの環境から移ってきやすいと思うんですよ。たぶんそれをねらっていると思いますけど。でも、まあNeXT系の人たちは、おれたちはずっとObjective Cでやってきたんでという自負みたいなのがあるだろうし。でもそのへんどうなるのか予測できないし、何とでも考えられる。きっとアップルも考えていることは一緒だと思うんですよ。本当にMacOS Xをどういうふうに売るのっていうのか、ビジョンをぼくらにぜんぜん見せてくれていないし。でも、少なくとも来年は見せざるを得ない。製品が発売されるわけだから」

林 「来年1月のMacEXPOではっきりするんじゃないですかね」

新居 「だから、たぶん1年後には、みんながどう評価してるかっていった話が出るようになっていないと。評価もされないようでは、もうだめ(笑)。MacOS 9についても、ワンサイドしかないでしょう、まだMacOS 9.1とかMacOS 9.5とかね、フォルテシモとか」

林 「'99年のWWDCでは、Mac OS 8の後継OSもしばらくは開発を続けると明言していましたよね――今で言うとMac OS 9の後継OSとううことになりますが」

新居 「ええ」

林 「今後、MacOS 8.Xのほうに、プリエンティブマルチタクスだとか取り入れていくようなこと言ってたでしょう。ますますMacOS Xとどう違うのか分からなくなる?(笑)」

新居 「本当に大昔のMacOS 8が9.5ぐらいなのか。なんかわけ分かんなくなってきちゃったね(笑) 。 結局コープランドを作ってたみたいな話になるわけでしょう。5年遅れだってなるわけですけどね」

対談を終えて。林氏(左)と新居氏(右)
対談を終えて。林氏(左)と新居氏(右)



2000年以降の課題は次世代インターフェース

林 「2000年以降は次のインターフェースに期待したいですね」

新居 「音声系が完成していくでしょうね。ダイヤログボックスっていうのは音声操作とはまるで違う世界でしょう。GUIから変えていかなきゃいけないとは思うんですね。音声化するには」

林「ちょうどコープランドを開発していた時、アップルはセカンドインターフェースという概念を提唱していた。これは何かというと今あるGUIをそのまま残して、その1つ上の層で煩雑な処理をユーザーに代わって代行するインターフェース。例えばファイル共有を開始するまでって、まず共有フォルダーを新規作成して、共有を開始して、それからフォルダーの共有設定をして、アクセスするユーザーの名前とパスワードを登録すると結構、実際に操作を行なうとステップが多い。セカンドインターフェースではあらかじめこうした一連のよく行なう処理がコマンドとして用意されている」

「実はMac OSだとAppleScriptという強力なスクリプト機能があるので、こういったことは非常にやりやすい。コープランドを開発していた当時はこのセカンドユーザーインターフェースを“アクティブ・ユーザー・インターフェース”なんて呼んでいたけれど……。こうしたセカンドユーザーインターフェースの充実こそが本当に実用的な音声インターフェースを実現する上での第一歩だと思っている。だって、せっかくViaVoiceを使っても“新規フォルダ作成”、“共有設定を開く”、“共有開始”、“フォルダの情報を見る”なんてGUIの操作1つ1つを声で命令していたらかえって大変なだけでしょう」

「セカンドユーザーインターフェースが充実すれば“共有フォルダーを新規作成”とか言えば、こうした面倒な処理が一発でできてしまう。セカンドユーザーインターフェースがGUIの上に被さることで、ユーザーは細かな操作には目を向けずより自分のやりたいことだけに注力できるようになる。セカンドインターフェースが音声で操作できるようになれば、それが1番理想的ですよね」

新居「思うけど、音声だけの研究だけは製品には至らないとは、ずっとみなさん思ってるんですよ。ここの部分はもうすごく研究されてるんだけど、全体的にはこれからコンピューターシステムとしての研究がある。それが200X年代の課題じゃないですかね」(了)

【関連記事】【年末特別対談Mac編Vol.1】'99年はMac新製品の洪水の年。統一アーキテクチャも一巡
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【年末特別対談Mac編Vol.2】MacOS 9以降は小規模ディベロッパー達の製品で活気づく献身的な時代になるか
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