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【世紀末マシーン・サーカス!! Vol.1】“考え深い関係:病的な娯楽についての気まぐれな計算”――SRL日本公演「まさか」の実現


1999年12月27日

ヤアヤアヤア! SRLがやってくる
「SRLが来るって知ってる?」「日本に? まさか!」情報がひと目をはばかるスキャンダルのようにネットに広がり出したのは11月半ばからだろうか。日本でSRLが見られるなんて信じられない。情報を得た人間は必ず聞き返す――。この手の話題ならお任せのYuko Nexus6が、総重量30トンの機械が激突する、パフォーマンスについて報告する(敬称略)。

「どこが呼んだの?」「ICCだよ」

そこで大抵は納得する。NTTが経営する電子美術館なら、可能なのかも知れない。パフォーマンスは、'99年12月23日18時30分から国立代々木競技場オリンピックプラザの特設会場で行なわれること、その模様はサテライト会場であるICCに超高速ATM専用線で中継されること、観覧は無料だがメーン会場の入場制限は3000人で事前予約は一切とらないことなどが電話で、メールで、掲示板で伝えられる。情報を得た人はあわてて公式ウェブにアクセスする。あった。どうやらデマでも冗談でもなく本当らしい。

「3000人しか入れないんでしょ、何時から並ぶ?」
「SRL知ってる奴なんてそんなにいないよ。宣伝もネットでしかやってないし」
「会場がらがらだったりして(笑)」
「でもやっぱり早めに行った方が……」

どうせなら生で見たい。地方組は車に便乗して出かけるか夜行に乗るか、と上京の算段をしている。

「わざわざ東京までいって中止になったら嫌やな」
「消防署に邪魔されたりして」
「ありえるありえる」
「やっぱ行かんとこか」
「でも……」

世紀末を飾るにふさわしい極めて危険なSRLのパフォーマンス。誰もその実現を予測すらしていなかった
世紀末を飾るにふさわしい極めて危険なSRLのパフォーマンス。誰もその実現を予測すらしていなかった



本拠地サンフランシスコでは長らく公演を禁じられてきたパフォーマンス
もちろんSRLと聞いてもピンとくる人間なんてそうはいない。

SRL=Survival Research Laboratoriesは首謀者マーク・ポーリンを中心に、'79年以来サンフランシスコに拠点を置くグループ。ICCのちらしには“世紀末マシーン・サーカス!!”と銘打たれているが、もっと簡単にいうと手作りのジャンクロボットが互いに殺し合う見せ物だ。

総重量30トンにも及ぶ油まみれの醜悪な機械どもがぶつかり合い、鉄の爪で殴り合い火を噴く。バイクのドライブチェーン、軍余剰品のガラクタ、どこから手に入れるのかジェットエンジンも。そんなジャンクに機械いじりに対する異常な情熱と、ほんのちょっぴりマイクロチップやロボット工学をトッピングすればSRLのロボットができあがる。

彼らはアメリカ各地、ヨーロッパ各国で40回以上ショーを行なってきたが、本拠地サンフランシスコでは長らく公演を禁じられてきた。

マーク・ポーリンいわく「俺たちは警察と消防に愛されちゃってるのさ」。日本の消防署がマークを放っておくわけがない。というわけで、'80年代以降日本での開催は何度も試みられたものの実現しなかった。そしてビデオや雑誌でSRLのありさまを知ったファン自身が「日本で出来るわけがない」と、はなから諦めていたのだ。

12月23日午後5時半。こうこうと照らし出された特設会場はすでに人々で取り巻かれている。この時点で軽く3000人に達していそうだ。意外とはたち前後の若い人が多い。ある学生は「学校で先生にビデオ見せられたから来た」という。見せた先生だって“10年前からSRLを待っていた”クチだろう。

長蛇の列。1番のりは午前1時、2番手は始発に乗って5時に来た。並びながら鍋や麻雀に興じる人もあったとか
長蛇の列。1番のりは午前1時、2番手は始発に乗って5時に来た。並びながら鍋や麻雀に興じる人もあったとか



会場は外からも丸見え。そこで列につかず舗道からの見物を決め込んだ人々も。開場後街路樹によじのぼる人、多数
会場は外からも丸見え。そこで列につかず舗道からの見物を決め込んだ人々も。開場後街路樹によじのぼる人、多数



受付前でたむろしているのはパスをもらえるプレスやアーティストなど。メディアアートやパフォーマンスに関わるような人物はほぼ顔を揃えている。列の中にもそのスジの著名人が散見される
受付前でたむろしているのはパスをもらえるプレスやアーティストなど。メディアアートやパフォーマンスに関わるような人物はほぼ顔を揃えている。列の中にもそのスジの著名人が散見される



心中穏やかでない空間のなかで、嫌がおうにも期待が膨らむ
午後6時、ご陽気な音楽が鳴り響く。そろそろ開場だ。ポップコーン、ザ・セイヴァーズ、バロック・ホウダウン、カジノロワイヤル……脳天気なパーティー向けのポップスをBGMに、我々はだだっぴろい空間にぬぼーっと立つ無用機械たちを目にする。

そして強面なマシンとは別に奥にはトランプを重ねたお城、学芸会で登場しそうな銀紙を貼ったライオン(?)、中央には流行らないジャングル風呂から拝借してきたような擬岩にイミテーションの竹や葉っぱを飾りつけた壁が……。

マーク・ポーリンは今回のショーにあたって「俺たちがやってみたいのは、派手な大道具や背景を使って、でかい神社の漫画みたいなイメージを作りだすことなんだ」と述べているが、ひょっとしてこれがその神社だとしたらあまりにも……(苦笑)。

さらにこれら張りぼての“神社”にはあちこち日曜学校のお誕生日会よろしく風船が飾りつけてある。ずさんで安っぽくてダサダサの見てくれ。まるで「俺たちがやってんのは、アートとかいうシロモノじゃないぜ」と宣言しているかのようだ。

そんな殺風景な会場でも、あちこちで奇声があがる。せっかくSRLが見られるんだもの、盛り上がらなきゃソンじゃないか。そんな風に無理からにも気分を高揚させているのかもしれない。フェンスによじのぼりスタッフに制される客。だってこんなにギッシリ詰め込まれちゃ何も見えないよ。

プレスには耳栓が配られた。SRLのクルーも耳栓の上に防音用の耳あてをつけている。「鼓膜が破れますから」とICCのスタッフが注意を促す。

入場後、観客が最初に目にするのはこの看板。何をかいわんや
入場後、観客が最初に目にするのはこの看板。何をかいわんや



スカスカでお寒い飾り付けがなされた空間にマシンが点在する開演前の風景。こんなマヌケな場所でじきに殺し合いが始まるとは想像できない?
スカスカでお寒い飾り付けがなされた空間にマシンが点在する開演前の風景。こんなマヌケな場所でじきに殺し合いが始まるとは想像できない?



世紀末のカタスロフを共有する瞬間
さっきから何度もアナウンスが流れている。

「会場内は禁煙です。本公演では大音量、低周波、素早い光の明滅などが行なわれます。ご気分の悪くなられたお客様は至急お近くのスタッフまでお申し出ください」

騒いでいる客も静かに待っている人も、心中穏やかでない空間のなかで、SRLのクルーが整然と下準備を進めている。その姿は空港で働くエンジニアのように普段どおり無駄なく動き、軍隊のように規律正しい。あまりにリラックスしているので、逆に芝居じみて見えるほどだ。彼らは“自らの技術的知識に絶大な自信を持つプロフェッショナル”を演じている。

東の空に赤い月がのぼる。開演時間の6時半を過ぎてもまだまだショーは始まらない。観客席から「やれー! 殺せー!」の絶叫。今夜ここでで機械同士が殺し合うという筋書きを誰もが知っているのだ(事実、それ以外に筋らしい筋などない)。

そんな客席を無視するかのように静かに黙り込むマシン群。我々はすでにこの機械たちにいいように操られている。ハイテク産業の中枢にいる人だけでなく、市役所や町内会もこぞって「2000年問題の対策を」と訓練を繰り返す、いまの日本そのもの。コンピューターが何かどえらい間違いをするかもしれない。そのカタストロフを恐怖するというより、なにかワクワクするような気持で待ち構える人々。なんだ、SRLの観客と同じじゃないか。

興奮のあまり全裸になってしまった観客も。大抵の人は黙りこくって身をかたくしている。とにかく寒く、人々はじらされている
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自転車でメッセージを伝えるクルー、粋な手つきで機材やガスボンベのゲージをチェックするクルーなど。SRLのパフォーマンスはもう始まっているのだ
自転車でメッセージを伝えるクルー、粋な手つきで機材やガスボンベのゲージをチェックするクルーなど。SRLのパフォーマンスはもう始まっているのだ

(文:Yuko Nexus6/撮影:EV)


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