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ネットワーク時代の著作権のあり方を考える――日本文芸家協会シンポジウムより(前編)


2000年2月25日

22日、東京・青山のTEPIAにおいて、日本文芸家協会の主催により、“活字のたそがれか?ネットワーク時代の言論と公共性”というテーマでシンポジウムが開催された。作家であり、同協会の電子メディア委員会委員長でもある島田雅彦氏が司会役をを務め、それぞれのパネリストによって、ネットワークの言論と新しい社会基盤の公共性に関する報告があった。

著作者の営利を阻害せず、文化を守っていくために
まず、司会の島田雅彦氏が、「電子出版時代を迎え、著作権をどのように守っていくか。著作権の問題を含めて現状を整理することが、このシンポジウムの目的である」とした。

作家であり、同協会の電子メディア委員会委員長でもある島田雅彦氏。左はソフトビジョンの中村正三郎氏
作家であり、同協会の電子メディア委員会委員長でもある島田雅彦氏。左はソフトビジョンの中村正三郎氏



これを受けて、国立国会図書館、電子図書館推進室の田屋裕之氏から発言があった。

田屋氏は、「ネットワーク時代に電子図書館が果たせる役割を公共的な立場から考えている。書物には、表現や思想など文化のバックグラウンドとして存在するものがたくさんある。公共的な基盤として、図書館をいかに活用できるかを考えたい」とした。

一方、本を電子化する際には、すべての書物を電子化できるわけではないが、現状ではまだ制度が確立されておらず、法的なルールもできていない、と問題点を指摘。「著作者の営利を阻害せずに、どのような形で権利を守っていけるのか、そして文化的な基盤として図書館がどのように発展していけるのか、そのコンセンサスを求めていきたい」と述べた。

紙を主体とした著作権制度のままでは成立しない時代に
朝日新聞の松浦康彦氏は、まず、活字文化を振り返りながら著作権問題について論じた。グーテンベルグの活版印刷から始まり、長い年月を経て発展してきた活字文化だが、いま新しい状況が生まれようとしている。「たとえば、アイ・ビー・エムでは、紙と同じような使い方ができる電子新聞を研究している。たぶん10年以内にはシートタイプのフレキシブルな紙ディスプレーが出てくるだろう」と予測した。

こうした状況を踏まえ、「従来、紙を主体として考えられていた著作権制度では、もはや対応できず抜本的な改革が必要になってくるだろう」と述べた。既存の技術や常識が根幹から揺らいでいる。しかし、松浦氏は“活字自体はたそがれない”であろうと考えている。なぜならば、人間が感情的、創作的な活動をするうえで、活字は必要不可欠なものだからだという。

弁護士の柳原敏夫氏は、著作権はもともと著作者のためではなく、企業側を守るための権利として作られたものだという。柳原氏は、その主客を逆転できないか、を考えている。現行の著作権法では、契約に関する規定がなく、契約書のみに左右されてしまう。また、ネットワークを使用すれば、著作権侵害の問題も国際化してくるだろう。そのため、世界を視野に入れた問題として考える必要がある、とした。

右から国立国会図書館の田屋氏、米子今井書店の永井氏、朝日新聞の松浦氏、弁護士の柳原氏、
右から国立国会図書館の田屋氏、米子今井書店の永井氏、朝日新聞の松浦氏、弁護士の柳原氏、



個人が発信源になり、従来型メディアはマネジメントへシフト
実際に本を販売する立場である、米子今井書店の永井伸和氏からは、「ネットワーク社会になって、一人ひとりが情報発信元になる時代に入り、オンライン書店なども含めて流通のさまざまなバイパスができるようになってきた。これからは“地域”がキーワードになるだろう」と発言。

スポンサー筋から圧力を受けないで、何かできないかをずっと考えてきた(株)ソフトビジョンの中村正三郎氏。氏は早くからパソコン通信による情報発信、そしてインターネットを活用してきたが、活字でDJをやっているような感じがするという。

ウェブの運営は'96年から始め、現在では1日1万4000人ぐらいのアクセスがある。それで分かったことは、ネット上では情報の連鎖があるということ。人気のあるサイトには情報がどんどん集まってくる。また、会員制よりフリーアクセスのほうが流行るということも分かった。わざわざパスワードを入れるという操作を面倒に感じる人が多いようだ。

著作権の問題については、単にテキストだけだと、なかなか守っていけないだろうという見解を述べた。現在では、電子的なデータでは配るのはよいが、見るときや聞くときは課金されるという方向に進みつつある。一方で、いまやデジタルコピーは一概に悪いとは言えなくなっているとも。企業側では、普及のための広報活動のような“撒き餌”として認めている傾向があると分析した。

また、ネットワークによる変化については、今後、中間業者は必要なくなっていくだろう、とした。アーティスト側でも直接、売ろうとしている傾向に進みつつある。また、レコード会社や出版社などはアーティストの管理などにシフトしている。これからは、著作家が直接コンテンツを売る時代になるだろう、と予測した。

左から中村氏、三田氏、文芸家協会の川西氏、中村氏、島田氏
左から中村氏、三田氏、文芸家協会の川西氏、中村氏、島田氏



ネットワークは諸刃の剣。期待と不安が入り混じる
文芸家協会の川西蘭氏は、昨年まで文字コード問題に取り組んできた。弱い著作者が、1人でも大手の出版社に対抗できるという点ではネットワーク時代を評価できるとした。

同じくの文芸家協会の三田誠広氏は、協会の立場からいろいろな意見や要望を述べた。まず、新聞のデータベース化では、新聞社の宣伝費から著作権料を出してもいいのでは?と提案。本では3年契約で印税が約1割という慣例になっているが、電子出版ではどうなるのか?という疑問も投げ掛けた。

また、電子図書館については、やはり脅威になってくるので、たとえば図書館からも対価をもらえるような仕組み(地方自治体などから徴収するなど)も考えてもらいたい、とした。さらに、「ネットワーク上では、アイコラのようにテキストを改ざんされる恐れもある。著作の人格権を守るためにも、出版社はテキストを安易にネット上に流さないでほしい」と要望を述べた。

最後に、文芸家協会の中村稔氏は今までの発言を聞き、とても難しい問題だとした。「中村氏の発言から出版社の役割は、これからはなくなっていくと思った。三田氏の意見では、作家でも自分から発信しなければならない時代になり、マイノリティーの問題も含め、とても大変な時代になると感じた。永井氏の意見には、多様性が確保される時代になるという期待もある。ネットワーク上での著作権の問題でも、“利用”は無料、“使用”は課金というようなことが本当に可能かどうか疑問に感じる。つねに技術が進歩して、法があと追いになっている」と語った。

編集部注:著作権法関連の議論では、たとえば、小説の原稿があるとき、これを一般消費者が読むことを“使用”、出版社が本に仕立てることを“利用”ということがある。

総合して考えると、文化の多様性の可能性がやってくるという“楽観的な期待”と、複製を勝手にされても、著者が見つけることも対応することもきないような時代がやてくるという“不安感”がある、と中村氏は表明した。どちらかというと、個人的にはいままでの話を聞いて、少し不安に感じている、という。

(編集部 井上猛雄)


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