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【“テクノロジーと障害者”ロサンゼルス国際会議Vol.2】分科会では障害者のインターネットアクセス技術が焦点に

2000年04月05日 00時00分更新

文● 岡部一明

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3月20日から25日、ロサンゼルスで、カリフォルニア州立大学ノースリッジ校(California State University, Northridge:CSUN)主催による“テクノロジーと障害者”国際会議が開かれた。今年第15回目になるこの会議は、障害者とコンピューター技術に関する会議として世界最大のイベントである。引き続き、米国在住のジャーナリストである岡部一明氏が報告する。

人も歩けば犬にぶつかる――行儀の良い盲導犬

会場を右往左往するうち、誰かにぶつかり強く体を押してしまった。あわてて「エク
スキューズ・ミー」と謝ったら、盲導犬だった。

こちらの動転にもかかわらず、彼(彼女?)はまるで動じず、振り返りもせず、主人に添い堂々と去っていった。こちらのお犬様は一般に行儀が良いが、盲導犬となると相当なものだ。

しかし、帰国した際に、狭く混雑した日本で盲導犬にぶつかる体験は一度もなかったな、とも思う。

開会後の4日間に250以上の分科会が開かれた。延べ4000人の参加者は、分科会から適当なものを選び、1時間20分おきに会場を動く。約100メートル離れたマリオットホテルとヒルトンホテルも行ききする。教室を移動して講義を聞く学生時代を思い出す。2ヵ所の展示会場で135社がブースを出している。

展示会場は、最新の技術を見ようとする人々が多数押しかけた
展示会場は、最新の技術を見ようとする人々が多数押しかけた



最初は地域的な会議だった。今では分科会も241に

「最初は、テクノロジーが障害者の生活をどう改善するかを考える地域的な会議でした。特に大学生活で障害者にテクノロジーがどう役立つかに焦点をあてました」

'85年の第1回会議から第一線で現場を組織化してきたジョディー・ジョンソン氏が言う。主催者であるカリフォルニア州立大学ノースリッジ校障害者センターの副所長だ。

「第1回会議をやって気がついたのですが、機器メーカー、技術開発者、専門家、カウンセラー、そして特に障害者自身を一堂に集める必要があると思いました。アシスティブ技術のメーカーは障害者に近付きたいと思っていますが、機会がない。障害者を本当に理解しなければ、ニーズを真に満たす技術はつくれないのです。あらゆるプレイヤーが1ヵ所に集まり、協力する場が必要でした」

CSUN障害センターのジョディー・ジョンソン氏。第1回会議から組織化の最前線に立っている CSUN障害センターのジョディー・ジョンソン氏。第1回会議から組織化の最前線に立っている



インタビューの最中もたびたび携帯電話がかかってきて忙しいジョンソン氏。メーカーと障害者、支援者が出会い、アシスティブ技術について意見を交換する“場”を提供したことが会議成功の原因だったという。加えて、シリコンバレーを控えるカリフォルニアでの会議ということで、世界的な関心が向いた。

「最初の4年間はキャンパスでやっていました。会を重ねるごとにその規模は大きくなり、この空港マリオットホテルに来てからも、最初は一部利用、やがて全部利用、さらにヒルトンホテルも借りるようになりました。今ではそれでも足りないくなっています」

こうした会議を実現する施設はアメリカでも限られる。主催者側も、通常の会議組織化以外に、点字、文字拡大機器、情報テープ、各部屋、会場への聴覚機器設置、盲導犬の運動場、シャトルサービスなど裏方で莫大な努力を払っているという。

分科会では障害者のインターネットアクセス技術が焦点に

'99年11月、アメリカ盲人財団(AFB)が、アメリカ・オンラインを相手取り、“世界最大のインターネットプロバイダー(加入者1900万人)が、障害者アクセス技術の使えないシステムを提供している”との訴えを、連邦地裁に起こした。

会議でも、障害者のインターネットアクセス技術が焦点になった。グラフィックスのあるウェブページは非障害者には使い易いが、視覚障害者には大きな壁だ。ストリーミング技術を使った映像や音声放送もそのままではアクセスできない。これを解決するため画面のテキスト文字を読んでくれるソフト、画像を解説したり、音声を字幕化したりする技術が開発されている。

開催された261の分科会中、34の分科会がインターネットアクセス技術をテーマにしたもの。ほかの分科会も何らかの形でこのテーマに触れている。また、マイクロソフトが同社ソフトの障害者アクセス講習を頻繁に設けたり、サン・マイクロシステムズがJavaのアクセス機能講座を開くなど、ベンダーが提供する講座も多数催された。インターネット接続ができる端末が会場に多数設置され、画面読み取りソフトなどを試してみることもできた。

ベンダーが提供する講座も多数あった。Javaのアクセス技術講座も満員
ベンダーが提供する講座も多数あった。Javaのアクセス技術講座も満員



政府機関のすべての情報技術に、障害者アクセス技術を義務づけ

政府関係者の主催する分科会もいくつか開かれた。連邦レベルでは、'98年のリハビリ法508条改正により、政府機関のすべての電子情報技術に障害者アクセス技術が義務づけられた。2000年8月から、政府機関のウェブサイトは障害者がアクセスできるものになり、連邦政府が調達する民生機器も障害者アクセス技術を考慮したものでなければならなくなる。障害者を考えない企業の製品は、世界最大の調達市場(2000億ドル=約21兆円)から締め出される。

会場内にはインターネットに接続できるコンピューターが多数設置され、障害者用のアクセスソフトなどが自由に使えた
会場内にはインターネットに接続できるコンピューターが多数設置され、障害者用のアクセスソフトなどが自由に使えた



連邦総務庁(GSA)のプロジェクト“ピナクル”(PINNACLE)の人たちが分科会を開いていた。ピナクルは、障害者アクセスの基礎技術を検討する省庁間の研究プロジェクト。企業、民間インターネット団体とも連係しながら、どのような設計思想、技術で連邦政府機器の障害者アクセスを実現しようとしているかを説明した。面白かったのは、こうした省庁間の連係がY2Kの取り組みで強化されたと、報告者の1人であるスーザン・ターベル氏が強調したことだ。


ピナクルの研究開発方向を説明するGSAのカール・ヘーベンストレイト氏
ピナクルの研究開発方向を説明するGSAのカール・ヘーベンストレイト氏


「Y2K問題の取り組みで多くを学びました。協力各機関がどこもほかをコントロールしない。しかし誰もが同じ問題を認識し、互いに交流し学び合った。世界中の政府、企業とも連係して問題に対処するネットワークの経験が今後も生かされると思います」

Y2Kは幸いにして不発に終わったが、それへの取り組みの経験が、いろいろなところで置き土産を残しているようだ。

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