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米ナップスター社のサービスの不当性は明らか。長期的にはファイル交換が流行し、豪華トイレで無料映画を見るはめに


2000年7月31日

米国サンフランシスコの連邦地裁は、26日、音楽データファイル交換サイトを運営している米ナップスター社に対し、著作権者の許諾を得ていない楽曲を同社サイトに掲載することを禁じる暫定的禁止命令を出した。筆者は、この命令が妥当なものと考える。ただ、こうしたサイトのサービス停止を命じ続けても、数年単位のレンジでみるかぎり、ファイル交換行為が全世界的に流行することは不可避であろう。そのときには、映画を中心にコンテンツと呼ばれるものの経済的性格、表現上の性格が総じて変容していくことになる。変容の方向によっては、私たちが映画を見るのはデパートの手洗い、ということになるかもしれない。

ここでは、米ナップスター社や類似のサービスの適法性、今回の仮処分に対する感想、今後の影響について、順に述べる。

“私的使用のための複製”の許容範囲を逸脱

まず、米ナップスター社や類似のサービスの適法性について考える。日本の著作権法で許容されている“私的使用のための複製”について、米国でどう考えられているか否かについて見てみる。若干長くなるが、2つの専門書から引用する。

『入門アメリカ知的財産権』(フランク・フォスターら著、安形雄三訳、日本評論社、'91)では、155ページで次のように述べている。【複写機、テープレコーダー、ビデオ等を用いた個人的利用に関する複製は、どの程度許容されるのであろうか。これは非常に混み入った問題である。判例においては、時間移行(time translation)の目的で、そして個人的利用のためにテレビ番組を複製することは、著作権侵害にならないと判断されている。つまり、個人がテレビ番組を都合上別の時間に見ることができるように録画することは、著作権侵害には当たらない、ということである。しかし、個人の私的収集のための複製に関しては、何ら言及しなかった。】

『アメリカ著作権制度』(小泉直樹著、弘文堂、'96)では、133ページで次のように述べている。【ゴールドスティン教授が指摘する第二の問題点は、ネットワークの利用の多くが家庭内で私的に行われることに関する。これまでアメリカ議会が私的利用に対して権利を及ぼすことに比較的消極的だった理由は、主として利用者の特定と交渉のための取引費用を考慮してのことであった。たとえば、108条が規定する図書館における複製行為や、Williams & Wilkins事件、Betamax事件においてフェア・ユースと認められた研究所での複製行為、家庭での録画行為は、いずれもこの取引費用の問題への対処であったといえる。公の実演に限って権利を付与している(106条)のも、プライヴァシーとともに、取引費用にも配慮している。

このような状況は、CCC(Copyright Clearing Center)等の集中管理システムの充実によって変化が見られ、'92年、ニュー・ヨーク南部地区連邦地方裁判所は、Texaco社内におけるコピー行為について、フェア・ユースの成立を否定する判断の中で、CCCの確立による取引費用の提言の事実を重視している。】

厳密性を考慮せずにまとめると、次のようになる。米国では、個人による後日見るはずのテレビ番組の録画といった、視聴行為の時間をずらすための複製は、基本的に自由。それ以外の複製について、今までは、権利者側でも複製行為者を把握できず、複製行為者側でも交渉しようにも権利者をみつけにくかったので、俗にいえば大目に見ていたが、権利関係について調べられる集中管理システムなどが整備されれば、容認されるとはかぎらない。

サービス提供側の責任はまぬがれない

上記はエンドユーザー側の行為についてだが、その交換の場の提供は、違法なのか。

その前にまず、配布される交換ツールとしてのナップスターのプログラム本体が、違法となる可能性をみてみよう。

『「合法化」を模索するファイル交換ネットワーク』でブラッド・キング氏は、【『ベータマックス』をめぐる'83年の訴訟で、複製を行なう機器の販売は、その技術に著作権を侵害しない使い方がある場合には法に違反しないという判決が出ているからだ(この判決ゆえに、コピー機やカセットテープレコーダーは違法ではない)と、著作権専門のホイットニー・ブルサード弁護士は語る。】と述べている。これは、前出、小泉氏の著書の【Betamax事件】のことであろう。キング氏記事中のブルサード氏の言にしたがえば、ナップスターのプログラム本体が複製ツールとして違法となる可能性は薄い。あとは、日本でいうところの送信可能化権侵害の幇助(ほうじょ)の原因となりうる点をどう解釈するかである(日本については後述)。

それでは次に、インターネットサービスプロバイダー(ISP)によるホスティングサービスやポータルサイトの掲示板に、エンドユーザーが違法な内容を書き込んだ際の、サービス提供者(SPと略す)の責任について見てみる。米国の最近の法制では、自社の提供するサービスを利用する者の掲載するコンテンツを、SPがすべて間髪を入れずにチェックし続ける義務はないとしている。他の利用者などから問題を指摘されたら、掲載した利用者に警告し、それでも訂正や削除に応じない場合、強制的に削除するなど、手順を踏めばよいとされる。

ナップスターのサイトの場合、音楽データファイルの交換機能の提供自体を業としての目的としている。音楽の著作権者たちが、同社サイトを介して交換される自分たちの音楽ファイルについて、差し止めを要求している以上、ナップスターにはそれに応じる責任があろう。

ナップスター側の弁護士は、今回の仮処分命令に従うとしても、遮断すべき楽曲のリストをまだ受け取っていないため、遮断が実行できないと言っている。それはそれでもっともだが、リストが渡されたとしたら、それに応じる義務がある。ファイル名だけでは内容とする楽曲が分からないとしても、最大限の技術的努力を果たすべきだろう。既出の'92年、ニューヨーク南部連邦地裁の判決にあるように、種々のシステムが進歩して、事実上不可能だったことがだんだん容易になってくれば、SP側のなすべき行為も変化していく。

ナップスターのように革命的な手法を開発した技術力を持ってしても、指定された楽曲の遮断という命令が果たせないとすれば、その技術による交換機能の提供という根本に無理があったとするしかない。命令を果たす技術的ブレークスルーを実現するまでサイトを閉じるしかないだろう。

『連邦地裁,Napsterに停止命令――著作権付き楽曲の掲載は一切不可』では、【Napsterはこの訴訟で,「Audio Home Recordign Act」という条例を盾に抗弁している。だが判事は,本件は極めて多くのユーザーを巻き込むものであることなどから同条例の保護対象ではない,との見方を示した。判事はまた,Napster社内メモも含めて,これまでに提示されている証拠に目を通して,ユーザーの大半が著作権付きの楽曲をダウンロードするためにNapsterのサービスを使っているとの確信を得た,とも述べている。】と述べている。これによれば、ナップスターは、'92年に成立した“Audio Home Recording Act”を正当性の論拠の1つにしている。しかし、これで戦うのは難しいだろう。このActは、DAT(Digital Audio Tape)レコーダーの発売にあたって、演奏家、作詞作曲家、レコード会社、家電メーカー、家電流通と消費者とで調整して定めた。

内容として、(1)DATレコーダーには、1世代しかコピーできない(孫コピーができない)ようにする世代管理システムを搭載する、(2)家庭でのコピーをさせないような手法は、デジタル式でもアナログ式でも取り入れてはならない、(3)DATレコーダーのすべての製造や輸入、デジタルのオーディオレコード媒体のすべての製造や輸入に際して、ロイヤリティーを著作権者側に払う−−となっている。

今回の訴訟では、コピーがうまくいかないようにする手段を導入せよといっているのではないし、そもそもDATレコーダーとは汎用性の異なるパソコンと比べるのに無理があり、(2)の考えは取り入れられない。

日本では明確に違法

世界的枠組みにある程度同調しながらも独自の色を失わない米国に比べて、日本の著作権制度は世界的枠組みにかなり忠実に従っている。たとえば、'96年末に成立したWIPO(世界知的所有権機構)著作権条約では、著作権者が公衆への伝達権やネットワークへのアップロードの権利を専有していることをうたっている。日本ではこれを、'98年1月施行の著作権法改正から、公衆送信権、送信可能化権として取り入れている。送信可能化権の確立により、著作権者の許諾をえずに、著作物をサーバーなどにアップロードする行為が明確に違法になった。

ナップスターやその類のソフトのクライアントソフトを自分のパソコンにインストールし、自分が他者にオープンにするファイルの範囲を指定した時点で、送信可能化の行為がなされたことになる。日本では、その指定した範囲に他者の(コピーフリーなどを宣言していない)著作物があれば、即座に違法行為になる。

そうした交換ツールを開発した者が、本来は他者の著作物ではなく、自分の作ったファイルやコピーフリーのファイルをやりとりすることを目的としていた可能性はもちろんある。そうだとしても、抗議の声をあげる著作権者がいるとすれば、何らかの対策を講じずにツールの配布を続けたり、交換サイトの提供を続けたりすると、送信可能化権侵害の幇助(ほうじょ)行為となりうる。

ツールの配布が違法になるとすると、日本で複写機やテープレコーダーの販売が違法でないこととの整合性が取れないようにみえる。しかし、複写機やテープレコーダーの基本機能は複製であるが、交換ツールにおいて違法性の論議の対象としての基本機能は、送信可能化である。対策を講じずに配布を続けると、送信可能化権侵害幇助となる可能性が高い。

今回の暫定命令を機に事態は沈静化するのか

それでは、今回の暫定命令を機に、こうした交換ツールの配布や交換サイトの提供は、なくなるのだろうか。そうはなるまい。

ナップスターのサイトが閉じられ、ナップスターのツールの配布が止まっても、より改良されたツールが開発され、エンドユーザーのパソコン1台1台をサーバーにする仕組みが広がるだろう。サンプリングやイメージスキャンやOCRの技術が進歩した今、違法だと言われたところで、エンドユーザーの一部は、音楽でも映画でも書籍でも、デジタル化する。それを自分のパソコンから全世界にオープンにする。

確かに違法行為ではあるが、日本で言えば、未成年大学生の飲酒を止めることが事実上不可能であるように、道路における5km以内の速度違反が捕まえられないように、実効上、止められない。飲酒や速度違反では直接の被害者が存在しないのに対し、音楽や映画の違法コピーでは著作権者の収入が確実に減るが、止められないものは止められないだろう。

音楽でも映画でもパソコンゲームでも、プロの作品では、無料で大量にコピーされるのを前提とし、それでも成り立つものがほとんどになる。広告主とのタイアップが主流になるだろう。映画では、数十億円の制作費というわけにはいかないから、数分のショートムービーが中心になる。あとは、無料でもいいから広まって、自分の名を売ったり、自分の世界を人に知ってもらったりしたいアマチュアの作品になる。

巨額な資金を投入する映画やゲームは、映画館やテーマパークに来ることを前提としたものだけになる。振動したり傾いたりするカップル向き椅子、低音高音音響、立体視、匂いを送る送風機、ストロボ……。映画のタイトルが入れ替わっても、そうした付加価値機器が使い続けられるように、標準化が進むだろう。

ライド型のアトラクションでも同じ傾向になる。ゴンドラの走行コースは1年ほど変えないのだが、ゴンドラから見る映像の内容や仕掛け人形が2週間程度でどんどん変えられるように標準化される。

ムービーショッピングは、非常に有望だ。映画館の椅子の肘掛には早押しボタンと、デビットカードかクレジットカードの挿入口が付く。その映画の主人公が来ているのと同じ服を、映画館に来場した人だけが、1興行につき先着5名のみ買える。カップルの対抗心を煽ってどんどん買わせるような手法が、いろいろ開発される。過去12ヵ月のムービーショッピング買い上げ額の多い人だけが、映画の終わった後の20分間のプレミアムショーに残れる。そこでは、NGシーンが見られ、レアグッズがオークション+抽選で販売される。弁士兼司会者という仕事が脚光を浴びる。

数分のプロモーションショートムービーを見せるのに最適な場所は、手洗いだろう。そそうデパート(仮名)の手洗いには、自分の個人情報がデパートに知られるのが困る人のための普通の個室と、個人情報が知られてもかまわない人のための豪華個室とができる。

豪華個室で、そそうデパートのハウスクレジットカードを挿入すると、その人の属性と、店がそのとき売りたい商品とから計算して、最も効果的なプロモーションムービーが壁面パネルに表示される。といっても一級の娯楽作品と呼べる出来だ。音声は便座から骨伝導で伝わるので、隣には聞こえない。ついでに、尿や便を検査し、体重や体温を測り、前回と比較し、服のサイズやダイエット献立のお勧めもプリントしてくれる。プロモーションショートムービーのナレーションの達人は、便士あるいは屎会者と呼ばれるようになる……わけがない。

(アスキーWEB企画室/早稲田大学客員教授 中野潔)


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