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松坂投手の投球の秘密を解析――“Compaq Forum 2000”から

2000年11月03日 15時27分更新

文● 浅野純也

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2日に開催された“Compaq Forum 2000”では、午前中の基調講演に続いて、午後はビジネスとテクニカルの両分野にわたる60のセッションが開催された。eコマースやファイナンス、エンタープライズソリューション、HPTC(High Performance Technical Computing)などの分野別にさまざまなテーマが用意され、多くの人が参加した。また、DECUS(コンパックが吸収した旧DEC製品のユーザー会。現在は名称はそのままでコンパック製品のユーザー会として存続)シンポジウムも同時に開催され、セッションが開催された。

解析結果を紹介する理研の姫野氏。ユーモアを交えながらの楽しいセッションとなった。ちなみに氏自身は野球はプレーしないらしい

その中から理化学研究所の姫野龍太郎氏による“新しい魔球・ジャイロボールの投球フォームとその性質”を紹介しよう。これはプロ野球・西武ライオンズの松坂投手の投球をスーパーコンピューターを使って解析した結果を紹介したセッション。もともとNHKの依頼で同投手の強さの秘密を調べたもので、まず投球フォームをキャプチャーしてカラダの動きを解析したところ、独特のフォームであることが判明したという。通常はヒジの関節と手首のスナップで投げるところを、同投手は背中を中心に腕と手首を回転させながら投げているらしい。ちょうどボールを内側から外側へ押し出すような感じで、その例として体温計を振ったり(最近は少ないが)、トランプのカードを投げるときなど、ほとんどの投げの動作は内側から外側になることを挙げ、同投手はこの効果的な投げ方を使いこなしているという。

まず代表的な球種についての原理が紹介された。万有引力の法則にのっとればボールが落ちるのが当たり前で、直球は下向きの力をうち消すように投げられる“変化球”で、フォークボールは法則にのっとったボールらしい
ハイスピードカメラで撮影された投球フォームをキャプチャー
キャプチャーしたデータを基に解析を行なった(2)
投球フォームを解析するため、骨格モデルを数式化して無駄のない計算式を導き出した

また、さらなる解析の結果、同投手の特徴でもある147キロの超高速スライダーは、ボールの回転が進行方向に向かって螺旋を描く珍しい回転をしていることを発見。カーブやスライダー、フォークといった従来の変化球とは異なる、新しい回転をしていることを突き止めた。それを“ジャイロボール”と命名し、回転方向と縫い目の関係によって“対称ジャイロ”と“非対称ジャイロ”の2種類があることが判明したという。そしてスーパーコンピューターでボールの回りの空気の流れや圧力、抵抗を解析したところ、対称ジャイロの場合はスポーツカーを凌ぐ低い抵抗値を持ち、非対称ジャイロ抵抗はその2倍近い高い抵抗値を持つことがわかり、その抵抗値が及ぼす速度差が打者のタイミングを大きくズラすことに成功しているのだという。

その最適フォームをCGで表現したもの。ヤンキースの伊良部投手をキャプチャーしたデータで検証した
松坂投手のジャイロボールの秘密。ボールの方向に対して、ボールは垂直面を描いて回転しているという
ボールが進む方向に対して縫い目がどうなっているかで“対称ジャイロ”と“非対称ジャイロ”の2種類がある。その空気の流れを解析したもの

このほか、このジャイロボールを3次元のボールとして映像化、バーチャルな打撃ができるシステムや、より速いボールを投げられる投球フォームなども紹介された。

以上の研究は、人の動きを研究する“イメージ情報科学研究所”とNHK、NEC、アイキューブなどが協力して行なったもので、残念ながら松坂投手本人にはまだその結果は伝わっていないらしいが、姫野氏は「縫い目を意識して投げているのか」をぜひ聞きたいと話している。なお、この研究成果については『魔球をつくる~究極の変化を求めて~』(岩波科学ライブラリー)で報告されている。

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