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“シンポジウム「2050年に紙はどうなる?」〜紙の将来像を探る!!〜”をJAGATが開催


2001年7月30日

『紙』が新たなメディアに取って代わられる時は来るのか? そして、それはいつなのか? これは製紙・印刷・新聞・出版といった印刷物に深く関わる業界にとって、消えてはまた浮かんでくる消し去ることができない話題だ。CD-ROMが登場してマルチメディアが取り沙汰され電子書籍が登場したころ、そして、ここ数年のインターネットの台頭、昨年からのeBookの本格的な動き、というように『紙』にとって代わり得るメディアがその地位を確固たるものとしてきている。

そうした中、7月25日に“シンポジウム「2050年に紙はどうなる?」〜紙の将来像を探る!!〜”が(社)日本印刷技術協会の主催、紙パルプ技術協会の協賛により発明会館ホール(東京都港区)において開催された。シンポジウムは午前の基調講演と第一部パネルディスカッション、午後に第二部パネルディスカッションと一日がかりの長丁場で行なわれた。

●紙の需要と供給は均衡?

午前の基調講演では、東京農工大学農学部環境資源科学科の岡山隆之助教授が“紙の現状と将来”をテーマに講演を行なった。岡山氏は紙の技術史、リサイクル素材としての紙の消費と供給の現状と今後の製紙技術や再生紙の保存性などについて語った。岡山氏はリサイクルに取組むことで、将来も紙の供給は続けられるだろうと語った。

パネルディスカッションでは岡山氏を座長に“環境・社会・文化の視点から”をテーマに進められた。紙を扱う商社(株)竹尾のアートディレクションを手がけるなど特に紙に縁の深いグラフィックデザイナーの原研哉氏は、紙は2050年に今のままではありえないとしつつも、紙の文化がすぐに電子メディアには移行しないとした。電子メディアのインターフェースはこれから成熟が必要であり、2010年くらいではまだだが、電子メディアにより紙を考え直すことになり、影響を受けて互いに進化するだろうとした。

続いて、日本製紙(株)研究開発本部開発企画部技術調査役の種田英孝氏は、人工的な植林・管理を行なう“森のリサイクル”によるCO2の固定化と効率的な資源再生、回収による「紙のリサイクル」と製紙における古紙利用の向上による資源節減と省エネルギーを確保するという循環型産業構築の仕組みについて説明した。

ディスカッションでは、紙がマスメディア的であったのに対し、電子メディアは個人情報を発信するミニコミ的で役割が違うとの指摘があった。また、中国やインドなどの今後大きく発展するところでは、紙のインフラより通信インフラの方が先に発達するので、紙の消費が伸びず、全体的な紙の需給は均衡するのではないかという指摘もあった。全体的なトーンとして紙を擁護する発言に終始した感じになった。

●印刷需要は増える? 減る?

午後のパネルディスカッション『業界・ビジネスの視点から』では、午前とは随分異なる意見が出た。ディスカッションにはいる前に各業界から参加したパネリストが講演を行なった。

大日本印刷の北山拓夫氏と新潮社の村瀬拓男氏
大日本印刷の北山拓夫氏(右)。ITと印刷技術の融合を目指したビジネスソリューションを研究している。新潮社の村瀬拓男氏はCD-ROM版『新潮文庫の100冊』などの電子出版を経験している

まず、印刷業界から、大日本印刷(株)研究開発・事業化推進本部次長の北山拓夫氏が登壇し、印刷の立場から紙の今後について語った。北山氏はイギリスの調査機関“PIRA(Printing Industry Research Association)”による2010年予測として、コンピューターパワーの指数関数的発展が継続すること(18ヶ月毎に倍増)、モバイルとブロードバンドなど情報通信技術、双方向デジタルTVによる1 to 1マーケティングやeコマース、有機ELやePaper、eINKといった新しいディスプレーなどが技術革新への推進力となることを挙げた。

また、<3つの仮定>として、社会が人口統計学の予想通りに推移し、年間1%の読者が減り、広告量はGDPに連動するという“No Change Scenario(変化なしのシナリオ)”、2010年には33%の家庭にインターネットが普及し、インターネットによる読者が年間1%の割合で増加し、広告収入は2010年近くには12.5%減少するという“Likely Scenario(可能性が高いシナリオ)”、年間2%の割合で読者が減り、Likely Scenarioの影響が倍加する“Large impact Case(大きな衝撃のケース)”が考えられるとした。

北山氏は<3つの仮定>によるそれぞれの媒体における2010年までの印刷需要予測を紹介した。まず、新聞の印刷需要予測ではNo Change Scenarioで増加、LikelyScenarioで微増、Large impact Caseで減少、雑誌おび書籍の印刷需要予測はNo Change Scenario、Likely Scenarioで増加、Large impact Caseで微増となると紹介した。通販などのインターネットと連動するカタログの印刷需要予測では、No Change Scenario、Likely Scenarioでは、2008年ころまでは相乗効果で需要は急増するが、それ以降は置き換わるものの登場で下降線をたどるとしている。

●紙からダイレクト・ニューラル・パスウェイへ!?

最後に、北山氏は信頼のおける未来予測として取り上げられることの多いレイ・カーツワイル氏の著書『スピリチュアル・マシーン』(翔泳社刊)から“Ray Kurzweilの21世紀予測”を取り上げた。ここでは、コンピューター技術、通信技術、ディスプレー技術、言語変換、ナノ・エンジニアリング、サイバネティックスといった分野ごと、2009年、2019年、2029年、2049年....2099年というように各年代ごとにどのような変化が起こるか予測が示されている。

特に2019年に紙の書類や文書がほとんど無くなるといった我々でも予測可能なことから、2029年にはディスプレイを超えて人間の脳に広帯域にアクセスするためのダイレクト・ニューラル・パスウェイが完成する、さらに2099年には人間とコンピューターの違いがはっきりしなくなる、といった理解不能な予測までたてられていることを紹介した。このように北山氏は、おおよそ印刷畑とは思えないような刺激的な情報を提供する講演を行なった。

●紙のメリットとデメリットとは?

続いて、出版業界からは(株)新潮社パーソナル事業部次長の村瀬拓男氏が登壇し、情報ビジネスである出版ビジネスの特質について言及した。村瀬氏は、出版メディアが情報メディアでありながら、“情報”と“メディア”である紙が分離していないという特質を掘り下げ、そのメリットとデメリットを示した。

新潮社の村瀬氏
新潮社の村瀬氏

メリットについて、経済性は本の原価構造から紙代は直接制作費の7%程度とごく一部であり、量産効果もあるとした。情報表現力は解像度から考えるとディスプレーは72〜100dpi程度で、印刷は千の桁になり、質感などの表現力に格段の差があるとした。利用者の意識としては、文章は紙で読むものという意識があり、村瀬氏本人も「校正を行なう際に、ディスプレーだとどうしても見落としがあるが、印刷だと見落とさない、ということがある」と語った。

デメリットとしては、紙が重くかさばるために返品・過剰在庫問題が生じる在庫・流通問題があるとした。また、酸性紙の耐用年数を考えると保存性もデメリットだとした。しかし、村瀬氏は、保存性についてはデジタルメディアの保存性(仕様やメディア、デバイスの急速な変化)にも問題あり、と考えているとした。

●電子ペーパーは2010年

次に出版・新聞業界からは(社)共同通信社メディア局編集部インターネットチーム次長の北嶋孝氏が登壇し、新聞の現状と将来について語った。北嶋氏は、新聞の総発行部数は上がっているものの、1世帯あたり部数は減少しているという現状を示した。また、10年後については、再販制度の行方、新聞・メディアの再編、ブロードバンド化の進行、読者の変容といった視点で語った。再販制度については、再販制度の見直しにより出てくる、均一価格から一物多価になってしまう点や責任配達区域制から自由販売、専売店制から自由契約になることで生じるサービス低下といった課題を示した。

共同通信社の北嶋氏
共同通信社の北嶋氏

製紙業界からは王子製紙(株)研究開発本部新技術研究所の上級研究員である林滋雄氏が登壇し、再び製紙業界からの視点で語った。林氏は紙と電子ペーパーの現状について紹介した。まず、紙については電子機器の変遷に伴ってインクジェット用紙など情報用紙が多様化し、需要を伸ばしているとした。情報がデジタル化することで情報発信はインターネットや電子メールで送信するが、受信者は紙にプリントして読むことが多いと指摘した。その反面、官公庁の扱う書類がデジタル化し、国会図書館も電子本を認知するなど、保存は電子媒体の方向に向かっていると指摘した。

王子製紙の林氏
王子製紙の林氏

新しい紙として注目される電子ペーパーについては、いくつかの開発中の製品を紹介した。MITと米E-inkが進める粒子泳動による『Immedia(イメディア)』、米ゼロックス社の粒子回転による『Gyricon(ジャイリコン)』、大日本印刷のカラーフレキシブル有機ELディスプレー、キヤノンの『In-Plane』、イーブックイニシアティブ、東芝、NTTの共同開発による液晶ディスプレーなどを紹介し、林氏は「2010年ぐらいまでにはペーパーらしきものが出てくるだろう」と語った。

●新聞社のインターネット戦略の難しさ

最後に日本印刷技術協会理事の小笠原治氏を座長とし、予定時間の押している中で行なわれたディスカッションでは、小笠原氏の進行で各パネリストが話漏らしたことなどを語った。

村瀬氏はeBookは紙の代用品でしかないと思う。新しいメディアが浸透するには時間がかかる。映画を見ても30年がかかっており、クリエイターが新しいメディアで能力を発揮するには時間が必要だ、とした。そういう意味では50年というのは短く、2050年に紙がなくなるのか考えにくい、とした。

共同通信社の北嶋孝氏と王子製紙の林滋雄氏
共同通信社でインターネットチームを率いる北嶋孝氏(右)。王子製紙の林滋雄氏は同社新技術研究所に在籍

また、村瀬氏の新聞メディアのインターネット対応に関する質問に対し、北嶋氏は、「新聞メディアのインターネット戦略はほとんどがうまくいっていない。成功事例はウォールストリートジャーナルぐらい。インターネット部門のリストラも行なわれているが、やめることはできない。これは広告連動の部分があるから。通信社のウェブサイトは、ニュース配信業務を行なっていることから配信対象社への商倫理などもあって、対応がまちまちになっている。例えば、APはニュースを載せていないし、AFPは写真も載せていない。対照的にニュースを出しているロイター通信でも、内容は簡略的なもので自社商品への誘導をすすめている。私たちも独自のサイトづくりを進めたいと考えている」と語った。

当然のことながら、2050年に紙がどうなっているか、が明確になるはずもなかったわけだが、紙と新しいメディアとの関わりについて、整理をする良いきっかけになり、向こう10年、紙を取り巻く環境にどのようなことが起こりうるのかを理解するのに大変よいシンポジウムとなった。

(千葉英寿)


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