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“第7回アスペン国際デザイン会議 in Japan”開催


2001年9月11日

9月8日、“第7回アスペン国際デザイン会議 in Japan”(IDCAJ SAITAMA 2001)が埼玉県・越谷市の埼玉県立大学において開催された。IDCAJは、1951年から行なわれている世界的に影響力のあるデザイン会議“アスペン国際デザイン会議”(IDCA)を本体とし、毎年時代性のあるテーマを選び、幅広い分野における“デザイン”について論議するカンファレンスである。今回は“変化・進化・深化…THE MORE THINGSCHANGE”をテーマに行なわれた。主催はアスペン国際デザイン会議 in Japan 実行委員会で、後援は(社)日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)。

会場となった埼玉県立大学
会場となった埼玉県立大学。バリアフリーで広々としたフラットな敷地にコンクリートとパンチングメタル、ガラスを多用した機能的な校舎が配されており、全体に垂直・水平方向の構成が目立つ。講堂や校舎には、人工地盤の空中庭園を備えており、自然のままの芝生と木のデッキが心地よく存在する。本カンファレンスは同学キャンパス全体をフル活用しての開催となった
オープニングの挨拶に立った同学学長の北川定謙氏
オープニングの挨拶に立った同学学長の北川定謙氏(左)。「地域とともにある大学との意識を大事にしている。今回は主旨に賛同し無償貸し出しを決めた」と歓迎の意を表わした。右は同学の設計にあたった山本理顕設計工場の山本理顕氏。関連イベントとして同学キャンパスガイドツアーも行なわれた

●基調講演

──都市も自然の一部としてデザイン(開発)を
実行委員長として開会を宣言した一橋大学イノベーション研究センター長の米倉誠一郎教授
実行委員長として開会を宣言した一橋大学イノベーション研究センター長の米倉誠一郎教授(左)と司会を務めたベネトンジャパン広報宣伝部長の渡辺教子氏。米倉氏は「“変化”の後に何が起こるのか、どんな可能性が生まれるのかを共に考える会議だ」と語った

米倉誠一郎実行委員長による開会宣言に続き、科学技術振興事業団ERATO北野共生システムプロジェクトの統括責任者である北野宏明氏による基調講演が行なわれた。北野氏は、ヒューマノイドロボット“PINO”の開発やロボットトイでサッカー競技を行なう“ロボカップトイズ”の国際委員会委員長を務める人物。北野氏は、人と人を取り巻く環境をこれからどのように考えていくべきか、人間と環境、テクノロジーの関係をテーマに講演を行なった。

基調講演を行なった科学技術振興事業団ERATO北野共生システムプロジェクト統括責任者、北野宏明氏
基調講演を行なった科学技術振興事業団ERATO北野共生システムプロジェクト統括責任者、北野宏明氏。というよりもロボカップの、と言ったほうが分かりやすいだろうか

まず、北野氏は「人間は自ら取り巻く環境を大きく変化させることができる唯一の存在。だからこそ、人間は他の生物を守るべきです」と持論を展開した。都市を例にとると、現在、東京では犬や猫の交通事故死が人間の10倍も起こっており、「人間のほうが多く生活していることを考えると、都市が犬や猫にとっていかに危険であるかがわかります」とし、「人間以外の多くの生物が住んでいる限り、都市を特別な場所と考えず、自然の一部と捉えて開発していかなければなりません」と都市の設計・デザインのこれからのあり方を示した。

──ロボットを考えることで社会を取り巻く環境を見直す

続いて、話題は期待通り、ロボットの話となった。
北野氏は「映画やSFに創られてきた『ロボットが人間にとって危険な存在』というイメージとは逆」とし、「人間にとってなんでもない動作、例えば、テーブルという人間にとってなんでもない存在もロボットにとっては障害物となり、これを避けて歩く事すら非常に困難な作業となります」と現在のロボットがまだとても弱い存在であると語った。そして、「弱い存在であるロボットにとっての人間社会を考えることは、人間以外の生物とそれらを取り巻く環境について見直す機会になるはず。そこから人間自身の存在を考え直すことが大切です」と語った。

また、北野氏は「人工物、ヒューマノイドの開発から逆に生物の構造の巧妙さについて知り、道具としてのロボットではなく共に生きる=共生していくことが大切です」との姿勢を示した。これは北野氏の専門である生物学についても同じことが言える。北野氏は生命現象を“多種多様な要素が選択的に相互作用する系”ととらえており、「すべての存在、人間から動物、そして生命を構築するタンパク質に至るまでが、それぞれ自分を頂点としたヒエラルキーを持っており、それらを理解すること、視点を変えて物事を捉える事こそが人間および人間社会のあり方を見直す事になります」とした。

──ロボットにもロボットのデザインが新たにできるべき

北野氏は「車には車のデザインがあるように、ロボットにもロボットのデザインが新たにできるべき」と語った。松井龍哉氏(北野共生システムプロジェクト共生系知能グループ研究員)がデザイナーであるにもかかわらず、レジデンツ・アーティストとしてプロジェクトの一員となっている理由を「一緒に働くことで、新しいデザインが生み出せると思います」とした。また、PINOについて「数千万の開発費でスタートしましたが、すでに数億規模の事業となっており、それで食べている会社も存在します」と紹介。そして、「これからの産業においては、テクノロジーだけではなく、コンセプトが大切です」と語った。

北野氏は「ロボット工学においても生命工学においてもテクノロジーは一つのパートです。これからはコンセプト、技術、そしてデザインを融合させ、文化として成長させることで一つの事業として成り立つのです」と語り、基調講演を締めくくった。

●パネルディスカッション

引き続き、北野氏に加えて評論家の浅田彰氏が登壇し、ニューヨークからの電話出演の坂本龍一氏を加えたパネルディスカッションへと移行した。

マイクロソフト社コンシューマ戦略担当バイスプレジデントの古川享
司会を務める予定が急遽の米国出張のため、ビデオでパネリストの3氏を紹介することになった米マイクロソフト社コンシューマ戦略担当バイスプレジデントの古川享氏

まず、本セッションのモデレーターである米マイクロソフト社の古川享氏がビデオ出演し、浅田氏、坂本氏と麻布でワインをのみながら語り合ったエピソードやマイクロソフト社の研究所のキーマンが会いたいと言ったことがきっかけで北野氏と知り合えたことなど、パネリストの3氏との出会いを語った。

──デザインはトップダウンからボトムアップに

本題のセッションでは、まず浅田氏が口火を切った。浅田氏は、現在の“デザイン”の捉え方について、「これまでデザインとは『トップダウン』的なもので、あるデザイナーが考えたものを具現化する、という決められた目的に則ってできあがってきたものでした。しかし、最近は多くの人間の間から自然発生的に生まれてくる『ボトムアップ』の傾向にあります」とデザインの発生が変質しているとした。

評論家の浅田彰氏
事実上、パネルディスカッションを進めていた評論家の浅田彰氏。さまざまな分野に対して造詣が深く、どんな話題にも対応する幅広さと素早いながらも思慮深い発言に驚かされた

さらに「生命においても同様で、多彩な機能を持ち一見完璧にデザインされているかのようなDNAも意味のある部分は数%だけ。目的に沿ってデザインされたのではなく、多要素の選択的相互作用の結果として今の形に至っています」とした。そして、ただ新しいものを創り出すことが進化ではなく、「今あるものの中から進化というものが始まる」と語った。

浅田氏が生命について語ったことから、話題は生命とそのデザインについて語られることとなった。

北野氏は「生物には多様性が重要であり、これを失った種は絶滅します。多様性があるからこそ、その中から環境に適応するものがあり、多数の中から有用なものを拾い出すことができるのです」と語った。人間社会にも同様で、北野氏はさまざまな意見を持つ人間を抱えた社会の必要性を説いた。北野氏は「多様性を否定すると社会は弱くなり、何かあった時の対応ができなくなります」とした。

パネルディスカッションは生物や都市のデザインからエコロジー、そして音楽、へと幅広く展開した
古川氏の代役として渡辺氏が司会進行する中、パネルディスカッションは生物や都市のデザインからエコロジー、そして音楽、へと幅広く展開した

さらに話題は個性について盛り上がった。北野氏にとって「個性とはそのまま多様性であり、視点を変えて物事を捉えること」であり、「個性の違いにより生じる矛盾を抱えることが大切です」とした。そして、「これをいかにして解決していくかが、深みのある社会の形成に必要不可欠であり、その結果として他の種との共生がかなえられます」とした。

浅田氏も同様に「新しく作りあげるだけでなく、今あるものの複雑化を図り、さまざまな状況を想定し認めていくべき」としながらも、多重人格的にチャネルを切り替え、浅く広くそして分裂した閉鎖的なコミュニティーを形成する近年の傾向については、警告を発した。さらに「表層的な進化ではなく、個々が深まって集合することによって成される進化を求めるべき」と強調した。

──エコロジーがかっこいい時代

ここで、ニューヨークの坂本氏が参加したことから話題は多方面へ飛び交った。浅田氏が先だって、大阪で開催された坂本氏の新作『CASA:SAKAMOTO』のボサノバ・ライブへ行った、というエピソードから最近の坂本氏の音楽活動についての話が始まった。

ビデオとニューヨークから電話出演した坂本龍一氏
ビデオと電話でニューヨークから出演した坂本龍一氏。坂本氏はシンフォニーからボサノバという幅広い音楽活動だけではなく、常にさまざまなメッセージや行動も起こしている

浅田氏は「坂本さんはこれまで音楽においてさまざまな手法を取り入れてきたが、アナログなボサノバが、テクノロジーを駆使した音楽に全く引けを取らない、深みのあるものである」と語った。さらに坂本氏の音楽の表現手法へと話は進み、坂本氏の音楽のスタイルはさまざまであるが、そのすべてに坂本氏の自己の一貫性が貫かれていることなどが語られた。

坂本氏は、環境問題や地雷ZEROの運動への参加など、社会に対する自己の役割に関して「僕は極めて個人主義的な人間なので、自分が助かりたい、という考えから動いています。環境問題は他が助からないと自分も生き残る道がないからです」と語り、一人では生きられないからこそ他者の立場を考えて自分にとってプラスの道を考えたい、とした。

この後エコロジーについて話がおよび、浅田氏は「現代社会の流れとして、ブルジョア的な豪華なものよりも機能性が見て取れるシンプルなものがかっこいいとされつつある」と語り、坂本氏は「機能性を前面に押し出すだけでは人には受け入れられない、そのためにはまず人が見てかっこいいと思えるデザインから考えなければいけない」とした。

──道具(テクノロジー)を暴走させず、いかに共生するか

最後に、北野氏は、映画『2001年宇宙の旅』で類人猿が殺戮に使った骨を放り投げると、それが未来の宇宙連絡船へと変わる、名シーンを引用し、「人間だけが手にすることのできる道具(テクノロジー)は人間を飢餓から救い出したが、それは同時に他者の殺戮の為にありました」とし、「まずそこを認識し、先端の技術(テクノロジー)を競うのではなく、いかに使用するか。テクノロジーを暴走させるのではなく、いかに人間や環境と共生させていくかを考慮し、なじみやすいデザインでテクノロジーを覆い隠していかねばならない」と語った。

現在の環境問題にしろ、テクノロジーの進化でしか解決できない問題は多数あり、本セッションではテクノロジーと人間、環境との共生をいかに考え、デザインしてゆくかの論議が展開された。

後半は授賞式やコンサートが催された
後半は“ブロードバンドコンテンツ大賞”授賞式やアスペンコンサート(写真)が催された

午後は各講義室に場所を移し、さまざまなテーマで分科会が行なわた。終了後は、再び、講堂において“ブロードバンドコンテンツ大賞”の審査と授賞式が行なわれた。イタリアにあるベネトンの工房“ファブリカ”見学が副賞となったグランプリは、シナリオ・役者の出演交渉・撮影・制作まで一人でこなした(株)ジーワンの井上晃一氏が受賞した。最後はパーカショニストのYAS-KAZグループによるアスペンコンサートが催され、盛況のうちに幕を閉じた。

問い合わせ先:
アスペン国際デザイン会議 in Japan 実行委員会事務局
トランスフォーム内(TEL.03-3498-8141)

(取材・文:砂有紀/構成:千葉英寿)


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