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「宇宙に行きたくて、僕はNASDAに入ったんです」――NASDA、“ロケットシンポジウム”を開催

2001年10月29日 01時49分更新

文● 編集部 中西祥智

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宇宙開発事業団(NASDA)は27日、“ロケットシンポジウム Part2 ~H-IIAロケット新たなる挑戦~”を、東京・千代田区の千代田放送会館で開催した。シンポジウムは、ノンフィクション作家の山根一眞氏の司会により、2部構成で行なわれた。なお、シンポジウムの内容は、NASDAのホームページでストリーミング中継された。

宇宙に行きたい人は、手を挙げてください

第1部は、“H-IIAロケット試験機1号機の成功と新たなる挑戦”と題して、NASDAの渡辺篤太郎H-IIAプロジェクトマネージャと今野彰H-IIAプロジェクトサブマネージャが、H-IIA試験機1号機打ち上げ成功について説明し、また会場からの質問に答えた。

第1部“H-IIAロケット試験機1号機の成功と新たなる挑戦”
第1部“H-IIAロケット試験機1号機の成功と新たなる挑戦”左から、ノンフィクション作家の山根一眞氏、NASDAの渡辺篤太郎H-IIAプロジェクトマネージャ、同今野彰H-IIAプロジェクトサブマネージャ

8月29日に、NASDAは新型国産ロケット“H-IIA”の試験機第1号機の打ち上げに成功した。1号機には衛星などは搭載しておらず、性能確認用のレーザー測距装置(LRE)を計画通り、打ち上げから39分35秒後に、高度約1800kmで静止トランスファー軌道(※1)に投入した。

※1 トランスファー軌道とは、衛星を目的の軌道に投入するための、一時的な軌道。静止トランスファー軌道は、近地点数百km、遠地点数万kmの長楕円軌道

シンポジウムではまず、H-IIA試験機第1号機の、組み立てから打ち上げまでの映像が、前方のスクリーンに流された。

種子島宇宙センター
NASDAの種子島宇宙センター
船から下ろされる第1段
船から下ろされる、H-IIAの第1段
組み立て作業
組み立て作業。第1段への固体ロケットブースターの取り付け
衛星フェアリング
ロケット先端の衛星フェアリング
発射台に移動したH-IIA
発射台に移動したH-IIA
打ち上げ間近のH-IIA試験機第1号機
打ち上げ間近のH-IIA試験機第1号機
カウントダウン中の管制室
カウントダウン中。打ち上げ直前の管制室
エンジンスタート!!
エンジンスタート!!
機体が浮き上がった瞬間
機体が浮き上がった瞬間
H-IIA試験機第1号機打ち上げ!!
H-IIA試験機第1号機打ち上げ!!
順調に上昇中
順調に上昇中
先頭にドーナツ上の雲ができる
先頭にドーナツ上の雲ができる。これは、水蒸気が膨張したため
固体ロケットブースタの切り離し
固体ロケットブースタの切り離し
第1段切り離し
第1段切り離し。第2段エンジン点火
レーザー測距装置(LRE)
レーザー測距装置(LRE)を軌道に投入。打ち上げ成功!!

映像を見終わったあと、山根氏は、渡辺氏と今野氏に打ち上げ時の心境について尋ねた。今野氏は「第1段エンジンの試験は何度もやったので、不安はなかった」が、その先の実際の飛行、打ち上げ5~6秒後が最も心配だったと語った。渡辺氏は、H-II5号機が第2段エンジンのハプニングで打ち上げに失敗したことを思い出し、漠然とした不安を感じていたという。

渡辺篤太郎H-IIAプロジェクトマネージャ
渡辺篤太郎H-IIAプロジェクトマネージャ。「ちょっと行ってくる、と気軽に乗れるロケットが理想です」

また、渡辺氏が「第2段エンジンの2回目の燃焼が終わった時点」、まだLREを分離する前に成功を感じ、「構造担当以外は、みんな成功だと思っていた」と述べたのに対し、山根氏は「NASA(アメリカ国家航空宇宙局)では、打ち上がった瞬間に、成功だと言って報道陣や観客はみんな帰ってしまった」、「プロダクトマネージャとしては、早めに成功だと言ってしまってはまずいのでは」と応じた。

H-IIAのメインエンジンである“LE-7A”は、H-IIの“LE-7”の改良版。重量は1715kgで、推力は真空中で約110トン、ノズルからは毎秒4300mのガスを噴出する。燃料は液体水素と液体酸素で、ターボポンプ(ガスタービンエンジン)でそれらを燃焼室に送り込む。2台搭載するターボポンプの出力は2万数千馬力で、「護衛艦を動かせる(渡辺氏)」という。燃焼室やノズルは約3000度の高温になるが、周囲にマイナス250度の液体水素を流して冷却する。



“LE-7A”
“LE-7A”エンジン。山根氏「3000度って、溶鉱炉でも1500度くらいですよ」渡辺氏「これくらいでないと、宇宙にはいけませんよ」

なお、H-IIAの第2段エンジン“LE-5B”は、1度燃焼を終了しても再度点火することが可能で、これによってH-IIAは、複数の軌道への衛星の投入が可能。もっとも、今野氏によると「エンジン全体、特にターボポンプを冷却しないと、再点火は難しい」のだという。渡辺氏は「1回目の点火で低い軌道に、2回目の点火で高い軌道に、それぞれ衛星を投入できる。世界の主要ロケットでも、2つの違う軌道に衛星を投入できるのは、おそらくH-IIAだけ」だと語る。

ノンフィクション作家の山根一眞氏
ノンフィクション作家の山根一眞氏。「私も宇宙に行きたいから、こうやってがんばっているんです」

また、会場からフォン・ブラウン(※2)についてどう思うかと質問され、渡辺氏は「フォン・ブラウンの時代より格段に進歩したと言いたいが、液体水素で冷却するという原理は当時と同じだ。そういう前例のないときに、ああいうもの(V2)を作ったのはすごい」と述べた。そして、渡辺氏は「我々が宇宙を開発する目的は、軍事利用ではないが、技術は諸刃の剣」であるとし、NASDAのスタッフだけでなく、全ての人々が宇宙開発の目的について考えなければならないと語った。NASDAは、宇宙開発事業団法第1条によって、「平和の目的に限り」宇宙開発を行なう機関と規程されている。

※2 ウェルナー・フォン・ブラウン(Wernher von Braun、1912~1977年)ドイツ出身の科学者。ナチスドイツの命令で、世界初の弾道ミサイル“V2”を開発した。第2次世界大戦中、1944年9月から1945年5月のドイツ降伏まで、1500発を超えるV2がイギリスに向けて発射された。戦後フォン・ブラウンは、アメリカに渡ってロケット開発に携わる。



今野彰H-IIAプロジェクトサブマネージャ
今野彰H-IIAプロジェクトサブマネージャ。「分離した第2段? 100年以上地球を周ってますよ」

さらに、H-IIAの商業利用について、渡辺氏は「商業利用に関しては、NASDAは行なわない。宇宙関連企業が出資して設立した(株)ロケットシステムが、NASDAからの技術援助で商業サービスを行なう」と説明した。しかし、HIIの打ち上げ失敗によって、ロケットシステムが受注した契約はキャンセルされている。渡辺氏は「H-IIAの信頼性を示して、“このロケットを使いたい”と言ってもらうためには、1基の成功ではなかなか難しい。連続して成功を」することで、商業利用でも成功を目指すとしている。ただし、現在の世界の経済情勢では、衛星打ち上げの需要より、ロケットの供給能力のほうが大きいという。

山根氏が「宇宙3泊4日、39万8000円という時代が、私の生きている内に実現してほしい」と語ったのに対し、渡辺氏も「私が就職した時は、30年経てば自分も行けると思っていた」と、宇宙に行きたくてNASDAに入ったことを語った。山根氏が、会場の約200名の参加者に「宇宙に行きたい人」と尋ねると、報道陣も含めたほぼすべての人が、手を挙げた。



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