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JASRAC、デジタルミュージック講座 第3回“ミュージック・ジャンクション”開催――「ユーザーは本当に音楽配信を望んでいるのだろうか? 」

2001年11月23日 19時36分更新

文● 編集部 中西祥智

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本記事公開当初、記事中に講演者の発言の意図とは異なる記述がありました。講演者ならびに関係者の皆様にご迷惑をおかけいたしました。記事を訂正するとともに、謹んでお詫び申し上げます。

(社)日本音楽著作権協会(JASRAC)は23日、音楽産業の最前線の人々が音楽とデジタルテクノロジーの結びつきについて語る講座 第3回“ミュージック・ジャンクション~デジタルでふくらむ音楽の夢~”を、東京・代々木のJASRACけやきホールで開催した。

3回目の今回は、(株)ディ・キッズの取締役制作プロデューサー 吉田達矢氏が、“ネットワークでの音楽コンテンツビジネスの来た道、進む道”として、主にコンテンツの制作側から見たデジタル音楽ビジネスについて講演した。会場には、音楽関係者から学生まで、100人を超える人々が集まった。

吉田氏は、ウェブサイトの企画制作を行なうディ・キッズのプロデューサーとして、企業のウェブサイトの制作や携帯電話向けコンテンツの企画を行なっている。

ディ・キッズの吉田達矢取締役制作プロデューサー
ディ・キッズの吉田達矢取締役制作プロデューサー。大学では機械工学を専攻し、「F1のレーシングカーデザイナーになりたかった」が、「学生時代に日本楽器製造(株)(現在のヤマハ(株))でアルバイトを始めたのが、人生の流転の始まり」だという

講演で、吉田氏はまず、音楽コンテンツビジネスの現状について語った。それによると、現在、厳しい状況に置かれているのは、配信システムなどのインフラ事業や個人向けのKIOSK(キオスク)端末などだという。「配信システムを提供する企業(※1)のビジネスモデルは、“蛇口(プレーヤーソフト)はただ、水(音楽コンテンツ)もただ、貯水池(ストリーミングサーバー)で利益を得る”というものだ。だが、OSが標準で音楽のストリーミング配信をサポートするようになり、その“貯水池”が売れなくなっている。Windowsにウェブブラウザーが標準搭載されてシェアを失った、米ネットスケープ社と同じ道を歩みつつある」「成功したKIOSKがあるなら教えてほしい。携帯電話で情報を得られる時代に、KIOSK端末は、誰のために街角にあるのか分からない」

※1 米リアルネットワークス(RealNetworks)社などが代表的な企業

成功している事例としては、吉田氏はCDショップの試聴サービスと業務用通信カラオケを挙げた。「CDショップの試聴サービスは、BtoBの配信ビジネスとしてはパーフェクトだ。CDショップを訪れた客は、バーコードをリーダーに通すだけで、サーバーからダウンロードされた音楽データを試聴できる。客は聞いて、いいと思えば買う。売れていないCDも視聴機に入れると売り上げが上がる。試聴サービスなら、CDショップはCDにシールを貼ったり、“おすすめ”のコーナーに置くだけで販売促進ができる。極端な話、CDの在庫がなくても試聴が可能だ」

また、吉田氏は携帯電話の着信メロディーダウンロードサイトについては、その成功の原因は「課金システムと月額固定料金」であり、またそれがないことが、インターネット上の音楽コンテンツ配信ビジネスが苦戦している理由だとしている。ただし、その着信メロディービジネスにも、かげりが出ている。最も大きな理由は、着信メロディーの「制作費」だという。携帯電話のプラットフォームが増え続けているため、複数のフォーマットを準備しなければならず、また動作を確認する手間や費用もかさむ。吉田氏によると、「着メロサービスをやっている企業には、どこの携帯電話のショップよりも、たくさんの携帯電話がある」という。吉田氏のディ・キッズが運用管理を行なうヤマハ(株)の着信メロディーダウンロードサイト“Kクリ”では、アマチュアのクリエイターを集めて着信メロディーを提供しているという。

“Kクリ”のオフィシャルサイト
吉田氏のディ・キッズが手がけるヤマハの着信メロディーダウンロードサイ“Kクリ”のオフィシャルサイト

なお、吉田氏はiモードやFOMAでの音楽・映像配信は疑問だとの考えも示した。「FOMAの画面で野球中継を見るだろうか? あの大きさの画面で見るためには、テレビ中継とは別のカット割りの映像が必要になる。5分ごとの試合状況をメールで配信するほうが現実的だ。また、パケット単位の課金も、ユーザーには厳しい」。しかし、無線LANには期待しているという。「無線LAN(IEEE802.11b/a)なら、MACアドレスからアクセス制限ができ、課金しやすい。インフラも安く、通信料金も月額固定などが可能だ。たとえばPDAなどで、メールの送受信にはカード型PHSなどを、ストリーミング映像を見るときには無線LANを、といったことが考えられる」

そして、音楽コンテンツビジネスの将来について、吉田氏は「ユーザーは本当に音楽配信を望んでいるのか?」という根本的な疑問を語った。「シングルCDと同じ、1曲数百円というお金を払って、ユーザーは音楽データをダウンロードするだろうか? CDやLPの“持つ喜び”を、ネットワーク配信で提供できるのだろうか? 」

その疑問に対する答えは、「新しいコンテンツ」だという。楽器ごとに役割分担してきた今までのバンド・ユニットとは違って「楽曲を創り出すアーティストと、それをインターネット上のコンテンツにするクリエイター、そしてそれを商品にするプランナーの3人4脚が、今を乗り切る原動力となる」。そういった新しいバンドやユニットによって、また現在のシーケンサーなどから1歩進んだ新しいツールの登場によって、新しいコンテンツが創り出されると語った。

なお、コンテンツビジネスの分野で成功している人々には「音楽屋」、音楽分野の出身者が多いという。音楽の制作と同様、さまざまな個性を持つ人々をまとめる力量が要求されるからだ。吉田氏は、「音楽配信をやっている人、これからやろうとしている人は、音楽屋の感性を生かして、がんばってほしい」と、会場に語りかけた。

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