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ジャストシステム、方言を語る――“ATOK監修委員会10周年記念シンポジウム”


2001年11月29日

(株)ジャストシステムは29日、“ATOK監修委員会”の発足10周年を記念し、“ATOK監修委員会10周年記念シンポジウム〜ケータイ言葉から方言まで―デジタル時代の日本語〜”を都内で開催した。

パネルディスカッション
記念シンポジウムで行なわれたパネルディスカッションの様子

ATOK監修委員会は、同社の日本語変換ソフト『ATOK』をより普遍的で高い品質にするため、辞書編纂やAI変換用例、表示順位など検討する組織で、'92年に発足、日本の有識者たちによって運営されている。ATOK監修委員会からの提案は、'93年発売の『ATOK8』以降、常に歴代のATOKに反映されているという。

基調講演では、作家でATOK監修委員会座長である紀田順一郎氏が、“グローバリズムと日本語”をテーマに語った。

紀田順一郎氏
基調講演を行なったATOK監修委員会座長で作家の紀田順一郎氏

紀田氏は、方言について、「地域の風土や文化を継承するという意味で方言は重要だといった認識が一般化しつつある。最近は言語の多様性を重視する主張があり、その中で方言がアナロジー的に語られる。それぞれの地域方言の長短を洗い出すことで、共通語にない表現の可能性を見出せる。日本語全体の表現力を高めたい。現在、日本語そのものが混濁していると考える。方言を基礎とした日本語の考察により日本語の活力を呼び戻したい」

「われわれは日常において方言と共通語を使い分けているが、気持ちの中に、共通語は主であり、方言は従属的な言葉だという意識が潜んでいる。明治35年頃から標準語を強制してでも方言を撲滅しなければならないという知識人側の論理が出てきて、政府がそれにより強烈な方言撲滅運動を展開した。それまでは人々の中に方言コンプレックスは存在しなかった」

「元来、言葉はゆっくり変化するものだが、昨今はマスメディアの影響が強く言葉の変わり方が急激だ。われわれは方言に対し無意識にコンプレックスを持っている。共通語の中で言える方言は、関西弁など地域的に限られている。このコンプレックスが言葉の問題を考える上で障害となってる。また、惜しげもなく方言を捨てて共通語を話す地域も多い」

「全国的に方言が変わりつつある。年配者の方言と比べると、若い世代は薄められた方言を使っている場合がある。方言が希薄化していく要因のひとつに中央志向がある。地方経済が衰退し若者が中央に出て行かなければならない状態なので、中央志向にならざるを得ない。現代は方言の担い手が流出する傾向にある」

「今は少子化のせいで方言を支える主役である子供がいない。親から子へ、おじいさんから孫へという条件が欠けてしまえば、いくら方言保存活動をやろうとしても無理。方言を活性化して保存しようにも、肝心の主役である子供が減っているため方法が見出せない。これは方言の危機だ」と述べた。

また、日本語の問題についても「一方共通語も変化している。最近目立つのは情報の言葉。マニュアル語が社会的に確立してしまっており、当たり障りのない言葉を使うトレーニングを積まざるを得ない。日本語の活力化においてこれは問題だ」

「誤用であるにも関わらず誤用と指摘できないまま定着してしまった言語も増えている。“逆手”を「さかて」と言うが、私の世代は「ぎゃくて」と教わった。「さかて」というのはスポーツ業界用語。また、“初孫”を「はつまご」と言うが、昔は「ういまご」以外言わなかった。こういう例はたくさんある。これらはTVの影響が大きい」

「インターネット時代に向けて、このままでやっていけるのかという思いがある。例えば検索エンジンで“炭疽菌”と漢字3文字で検索しても、“炭そ菌”と書かれているページは表示されない。これは能率が悪い。英語なら1単語で済む。このようにインターネットで検索エンジンを使う場合など、表記を統一しないとどうしようもないだろう」と語った。

有識者たちが方言に関するパネルディスカッションを実施

続いて行なわれたパネルディスカッションでは、ATOK監修委員で上越教育大学学校教育学部助教授の高本條治氏を司会に、“方言の未来が拓くもの〜多様化する日本語”をテーマとした討議が行なわれた。

パネリストは、紀田順一郎氏、ATOK監修委員で都立大学人文学部教授の萩野綱男氏、岡山弁に関する本を出版している(株)アス出版企画部部長の青山融氏、ドラマなどの方言指導の第一人者で女優の大原穣子氏、劇団“飛ぶ劇場”代表で演出家の泊篤志氏、(株)ジャストシステム代表取締役社長の浮川和宣氏。

高本氏と紀田氏
ATOK監修委員で上越教育大学学校教育学部助教授の高本條治氏(左)と、紀田氏(右)
荻野氏青山氏泊氏
左から、(株)アス出版企画部部長の青山融氏、飛ぶ劇場代表/演出家の泊篤志氏、ATOK監修委員で都立大学人文学部教授の萩野綱男氏。青山氏は岡山弁に関する書籍を出版しており、泊氏は九州弁で書かれた脚本による作品を上演している
大原氏と浮川氏
ドラマの方言指導の第一人者で女優の大原穣子氏(左)と、(株)ジャストシステム代表取締役社長の浮川和宣氏

青山氏「私は誰とどこで話すかによって、方言と共通語を使い分けている。カジュアルな場かフォーマルな場かでもモードが切り替わる。誰でもそうだと思う。方言のアクセントやイントネーションは消えないが、単語は激減している。例えば『ぼっけえ、きょうてえ』(※1)の“きょうてえ”を若い子は知らない。岡山弁は長音が多い言葉で、例えば「ここへ来い」は「こけーけー」となる。『ぼっけえ、きょうてえ』も、「ぼっけー、きょーてー」と書いてもらったほうが実際の発音に近い気がする」

※1 『ぼっけえ、きょうてえ』:第6回日本ホラー小説大賞を受賞した岩井志麻子氏の小説。岡山弁で書かれている。「ぼっけえ、きょうてえ」は岡山弁で「すごく、怖い」という意味。

荻野氏「方言は年齢により異なる。昔からの伝統的な方言を普通に使っている人は70代以上、60代は怪しくなりかかっていて、50代は方言を使わない、40代以下は方言を知らない。ただ若い人で使っている例もある。関西弁は強い。他の地域の出身者が大阪の大学に入ると、大学で大阪弁を習得するくらい強い。また、新方言現象と呼ばれているものがある。今、東京生まれ東京育ちの若者が「いいべえ」と言うが、これは砕けた表現で話し言葉のひとつとして使われている。方言の在りかたが変わってきた。方言の減少についてはTVの影響がものすごく大きい。地方では、TVが入る前と後では言葉が全然違う。方言に年齢差があるのは方言が激減していることの表われ。方言は地域や年齢によって違うため、ひとつの方言を文字化しても必ず誰かが違うというだろう。この泥沼に一歩足を踏み入れたATOKの今後に期待したい」

大原氏「ドラマの台本に書かれているものをみても役者はうまく言えない。そこで方言指導が必要となり、ひとりひとりに方言テープを作る。文字だけではだめ。最近言葉は激変しておりアクセントも変わっていく。ドラマの中でその時代の生活様式と一緒に方言を残していくのがいちばんわかりやすいのではないか」

泊氏「作品を作るにあたり、表現として共通語より方言のほうが効果的だと思い、方言を使い出した。北九州の出身なので九州弁には愛着がある。ただ津軽弁などは面白いとは思うが愛着はわかない。みんな自分の気付いていないところでいろいろな言葉をしゃべっている。それぞれが言語に敏感になることで、言葉は豊かになっていくのではないか。ATOKでは、関西弁の次にぜひ九州弁をお願いしたい」

紀田氏「世代によって方言は違ってくる。年齢が下がるごとに標準語に近くなる。日常の言葉をもう少し意識して使いたい。言葉に気を付ければ、自分の子供に誰も読めないような名前を付けることなどしなくなる。オサマ・ビンラディンに“氏”を付けるか付けないかより、言葉の世界にはもっと改めなければならないことがある」

(編集部 桑本美鈴)


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