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巨大『テスラコイル』が出現 池袋の夜にイナヅマが走る


2002年6月19日

ワールドカップ一次リーグで日本代表がチュニジアを破り、決勝トーナメント進出を決めた6月14日夜。渋谷や道頓堀の繁華街のお祭り騒ぎを横目に、ここ東京・北池袋のクラブ『gog』では何やら怪しげなイベントが開かれていた。住宅街のどん詰まりにひっそりとたたずむ安アパートのような建物に近づくと、地に響くようなビートとともに、激しい雷鳴のような音。かすかなオゾン臭も漏れてくる。ドアを開ける。意外に広いフロアに足を踏み入れると、巨大な装置から激しい稲妻がのたうち回り、天井に向かってビリビリと走っているのが見えた。装置の前では、なぜか激しいヌンチャクのダンスも披露されている。これって、いったい――?

実はこのイベント、大型のテスラコイルを作り上げ、コンサートやイベントなどの特殊効果に利用しようという狙いから行なわれた公開実験だ。企画したのはオメガポイントという有限会社で、装置の製作を実際に行なっているのはサイエンスジャーナリストの薬試寺美津秀さん。2m近い大きさのテスラコイルは『オメガスパークジェネレーター』と名付けられ、手作りのゴツゴツとした素材感にはどこかミッドセンチュリーの雰囲気も漂う。コイルも薬試寺さんの手作りで、約3ヵ月かけて1.4mmの銅線を400mも巻き上げた。家庭用の100V電源で動作し、約1万5000Vの放電を起こすことができる。製作費は約40万円という。

薬試寺さんの作ったテスラコイル『オメガスパークジェネレーター』
薬試寺さんの作ったテスラコイル『オメガスパークジェネレーター』。手前に縞のように見えるのは、防護用の金網だ。
テスラコイルから発生する放電が青く光っている。
テスラコイルから発生する放電が青く光っている。
暗闇の中では、放電効果はいっそう顕著だ。
暗闇の中では、放電効果はいっそう顕著だ。

ニコラ・テスラをご存じだろうか? “電力の天才”“交流の父”と呼ばれたテスラは、19世紀末から20世紀初頭に活躍したユーゴスラビア生まれの発明家だ。交流誘導モーターの発明や交流電気システムの完成で知られ、人類の電力利用に多大な貢献をした。晩年は電磁波の定常波を利用し、世界中に情報と電気エネルギーを送るという「世界システム」や人工地震などのユニークな研究へと進んだ。その影響か、オカルト系の人からはテスラは“マッドサイエンティスト”的な扱いをされていることが多く、無理解や誤解が蔓延しているのは残念だ。ちなみに、あのオウム真理教メンバーもベオグラードのニコラ・テスラ博物館に通ってその研究成果を入手し、人工地震を日本で起こそうと企んでいた――というのは有名な話。

そのテスラの業績の中でも、もっとも派手で目を引くのがテスラコイルの発明だ。1次コイルと2次コイルを、放電させるための火花間隙を挟んで直列に配置した高周波変圧器。ふたつのコイルを共振させることで、片側のコイルの電気エネルギーがゼロになり、もう片方は最大電圧に達する状態が生まれる。この放電で、劇的な稲妻を発生させることができる。小型のテスラコイルは学校の理科教材や実験道具としてはおなじみだが、大型のものが製作された例は国内ではほとんどないという。

このテスラコイルをステージなどの特殊効果に応用する試みは、実は米国ではずっと以前から行なわれており、商用化も進んでいる。たとえば1992年の映画『ターミネーター2』では、アーノルド・シュワルツェネッガーの出現シーンで効果的にテスラコイルの放電が使われている。またKVAという米国企業は、マイクロソフトやサン・マイクロシステムズのイベントでもテスラコイルを披露している。日本では昨年夏、人気グループ『TUBE』のコンサートで薬試寺さんがKVAの装置を借りて7mもの巨大な稲妻を出現させ、観客の度肝を抜いた。これが“テスラコイル特殊効果”の日本初上陸だったという。

サイエンスジャーナリスト、薬試寺美津秀さん。
サイエンスジャーナリスト、薬試寺美津秀さん。

「以前からテスラコイルに興味を持ち、2年前から今回の計画を進めてきた」という薬試寺さんは、独学で電気の勉強を進め、これまでに作ったテスラコイルは全部で5台。回路のシミュレーションをしながら試行錯誤を繰り返してきた。海外のウェブを調べ上げ、秋葉原のパーツショップを回り、ホームセンターに何百回も通うという苦労の末、最初に完成したプロトタイプではささやかながら約20cmの放電に成功。その後も改良を進め、最新型では150cmの放電ができるようになったという。

薬試寺さんは語る。「高電圧の挙動を制御するのがたいへん。しかし一番たいへんなのは、日本でショーなどに使われた例がほとんどなかったため、消防法などの法律をクリアしなければならなかったこと。でも昨年のTUBEのコンサートでこの問題も解決できたので、今後はもっと大型のものを作り上げ、実用化を進めたい」。今後、コンサートやイベントでふんだんに巨大稲妻が楽しめる日がやってくるかもしれない。

(編集部 佐々木俊尚)


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