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韓国のオンラインゲーム産業、ブレイクの秘密を探る!

2002年07月08日 20時59分更新

文● 別冊ASCII編集部 井上猛雄

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IT大国の韓国では、ここ1、2年のあいだにオンラインゲーム産業が急激に立ち上がり、ゲーム産業のビジネスモデルに大きな変革が起こりつつある。しかし、韓国のオンラインゲーム産業がどういう理由で成長してきたのか? その成長過程における疑問に答える報告は断片的にしかなされていない。4日に開催されたコンピュータ産業研究会において、東京大学大学院経済研究科・新宅純二郎助教授と、同大リサーチアソシエイト・魏晶玄(ウィ・ジョンヒョン)氏の両氏は、“韓国オンラインゲーム生成のプロセス”を包括的に解き明かす興味深いレポートを報告した。本稿では、レポートの内容を要約してお届けする。

驚異的な成長率と利益率を示す韓国のオンラインゲーム

まずはじめに新宅氏が登壇し、世界的にみたゲーム市場の現状と、日本および韓国のオンラインゲーム市場に関する動向について説明を行なった。

東京大学大学院経済学研究科・新宅純二郎助教授。今年初旬、韓国のオンラインゲーム市場に関する動向を探るために現地に乗り込んだ

現在、ゲーム業界はハード・ソフトを含め、市場全体に閉塞感が進んでいる。'94年以降、参入企業は増えているものの、企業のライフサイクルは短くなっている。結果として、上位企業への売り上げが集中してしまい、寡占化が進みつつある。日本では市場規模が縮小し、新規参入のチャンスもなく、新しいゲーム分野を模索しているというのが現状だ。その打開策として、オンラインゲームやネットゲームの可能性に注目が集まっているものの、国内ではこの分野の市場がなかなか広がらず、参入を疑問視する声もある。
しかし、世界的にオンラインゲーム市場をみると、その利用者は5000万人にものぼる。米国では70億ドルの市場のうち、10%にあたる7億ドル(約700億円)がオンラインゲームで占められている。韓国では2000年に急激に市場が拡大し、2002年には約320億円まで成長するだろうと予測されている。人口比で考えた場合、もし日本が韓国と同じようにオンラインゲームでブレイクすれば、日本市場の20%ぐらいのシェアを占めることになるという。

韓国ではゲーム専用機が規制されていたため(今年から韓国でもプレイステーションが正式に発売できるようになった)、オンラインゲーム市場が伸びたという背景もある。韓国で成功した代表的なオンラインゲーム“Lineage“(NCソフト)の例では、2002年3月の段階で登録ユーザー数は900万人(複数登録でない実数値)、同時接続者数は最大35万人(韓国18万人/台湾14万人/日本1万1000人/米国3000人)であり、1日に78万人もの接続者がいる。NCソフトの売上高の推移は'99年約6億円、2000年約44億円、2001年約95億円と倍倍ゲームで高い成長率を示しているが、注目すべきはその驚異的な利益率だ。純利益は'99年、2000年ともに約40%という高水準を維持している(ただし2001年はキャラクターなどの知的財産を一括して買い取ったため9%に落ちている)。

ビジネスモデルを変えるオンラインゲームの可能性

専用機向けのパッケージソフト販売が中心となるビジネスでは、ハードメーカーがハードを作り、ソフトメーカーに制作を委託したソフトが小売に流れ、ユーザーの手元に届くという流通経路をとる。そうなるとソフトメーカーの収益はたいへん厳しいものになる。たとえば小売価格を5800円とし、流通過程の中間マージンを差し引いて、最終的な収益が1本2000円になると仮定してみる。その場合、開発費(つくり込んだもので1、2億円はかかるという)や販促費まで考慮すると、少なくとも10万本ぐらいは売れないと利益を回収できないことになる。利益回収サイクルも短く、1、2年かけて制作したソフトを、発売後わずか1、2ヵ月の間に売るという“短期決戦ビジネス”になる。

既存の流通経路を使った専用機向けのパッケージソフト販売は、収益面からソフト会社を逼迫させる

翻ってオンラインゲームのビジネスを分析すると、その収益は持続的なものであるといえる。オンラインゲームは、2タイプに大きく分類できる。ひとつは“Online Simulation Game”と呼ばれるもので、『Command&Conquer』、『Warcraft』、将棋・花札・トランプといったゲームが代表例だ。このタイプのゲームは、メーカー側のサービスは対戦相手のマッチングが基本となる。販売については既存の流通に乗せる以外に、ソフトのダウンロード販売もあわせて行える。もうひとつは“Massively Multi‐player Online RPG(MMORPG)”である。これはメーカー側のゲームサーバーが提供する世界に、複数のプレイヤーが同時アクセスして参加するため、ある種のコミュニティーが形成される。いったんユーザーを確保できれば継続的な収益が見込まれるメリットがある。しかし、ゲームサーバーの管理や、ユーザーを飽きさせずにいかにつなぎとめておくかという問題や、課金システムが重要になってくる。

韓国のオンラインゲーム産業の発展を支えた複雑な要因とは?

次に魏晶玄氏より、韓国のオンラインゲーム産業がどのように急激に発展していったか、その要因とメカニズムに関する分析がなされた。

東京大学リサーチアソシエイト・魏(ウィ)晶玄氏。韓国のオンラインゲームが発展した背景は複雑なファクターが絡み合ったものであるという

韓国のオンラインゲームが発展した背景には、高速回線、PC房(バン)、決済手段(有線/無線による決済)といったインフラ的な要因があるものの、それ以外にたくさんのファクターが複雑にからみあって生成されたものだという。まずゲーム専用機市場の弱体化、潜在的なゲームユーザーが存在していたこと、不法コピーの存在が前提条件としてあった。

ゲーム専用機が弱かった理由は、初期の段階で市場への定着に失敗したからだ。韓国では'89年当時、三星電子とセガが提携し、『アラジン・ボーイ』というゲームが発売されていたこともあった。しかし、日本のゲームコンテンツが禁止されていたこともあり、遊べるソフトが決定的に不足していた。加えてハードメーカーへロイヤリティーを支払わねばならず、韓国内のソフトメーカーは日本のハード向けソフトの開発を断念せざるをえなかった。'90年代半ばには大企業がほぼ撤退し、2000年には韓国産のゲームタイトルも半減。市場規模でみても約125億ウォン(約13億円)と停滞している。

さらにもうひとつ、ソフトメーカーの競争力をそぐ大きな問題があった。それは不法コピーの氾濫という国内的な事情だ。これらはゲーム専用機、パソコンゲームの両分野で存在していたが、この不法コピー問題を一挙に解決する糸口として、大手ゲームメーカーはオンラインゲームにシフトしていったという。

このような背景がオンラインゲーム産業生成の隠れた要因として挙げられるが、実は韓国ではもともとオンラインゲームに対する潜在的ニーズも大きかったという。複数プレイヤーとゲームで遊びたいと考えていたユーザーは、'90年代半ばにはパソコン通信でMUDゲーム(テキストベースの通信ゲーム)を経験しており、こういった層がオンラインゲーム発展の下支えをしていたという前提もあった。

高速回線、PC房、独自の小額決済、三つ巴の関係

次に、オンラインゲーム産業発展の目に見える促進要因だが、これはインフラ的な要素が強い。インフラを推進させた大きな理由は、'97年の深刻的な通貨危機と経済危機がきっかけとも言われている。韓国政府は競争促進政策にインフラ政策転換を加えていった。'97年10月にはハナロ通信が設立され、翌年からADSLが普及する契機となった。後に、日本のNTTに相当するKT(韓国通信)が参入し、競う形でさらにADSLの普及が進んだ。もともと韓国は集合住宅(APT)が日本の東京や大阪以上に極端に多い(ソウル市民の50%が居住)。アパートまでは光回線が敷かれていたので、安価な高速回線が浸透するのも早かった。翌年にはオンラインゲームの『Starcraft』が大流行し、ゲームの遊び場としてPC房が大学街を中心に誕生した。韓国のPC房は、日本でもたびたび話題にのぼるトピックスのひとつだが、'98年からわずか1年たらずで約5倍の1万5000件までに急増したという。

一方、決済手段も韓国独自の展開をみせており、見逃せない点である。韓国では南北問題の関係で、住民登録番号が18歳以上になると付与される。これはプライバシーなど、さまざまな問題があるものの、ことオンラインゲームの小額決済に関しては大きく貢献している。韓国ではSKテレコムなどの大手キャリアが決済の代行をしてくれるシステムになっているので、携帯電話でキャリアと決済を行なう“韓国独自の決済モデル”が成立する。コンテンツプロバイダーに対して住民登録番号と携帯電話番号をパソコンに入力すると、数十秒でキャリアからパスワードがショートメールで携帯電話に送られ、そのパスワードを入力すればコンテンツプロバイダーに課金が承認され、そこで提供されるオンラインゲームなどを利用できるという形だ。

このように目に見えるファクターとして、高速回線、オンラインゲーム、PC房が三つ巴の関係となり、オンラインゲームの流行に拍車をかけていった。

アバタービジネスも花盛り

また、オンラインゲームで購入するアイテムも変化してきている。韓国のオンラインゲーム業界では小額決済に向くアバタービジネスが登場している。従来のようにゲームで使用する武器などのアイテムに加え、さまざまなパーソナリティや職業(資格が必要な職業もある)をもつアバター(キャラクター)やアイテムを売り、収入を稼ぐビジネスだ。

たとえば、最近流行している“JOYCITY”というオンラインゲームは、従来のゲームと異なる趣をもつ。これはゲームいうよりも、コミュニティーを形成するサイバー社会をコンセプトにしている。参加者がゲームの住人になり、仮想空間で社会生活を営むものであり、ゲーム自体に目的となるようなゴールは何もない。プレイヤー同士で喧嘩をしたり、結婚して子供ができたりというように、家族やグループができ、やがて大きなコミュニィティーが発生する。あくまで仮想空間だが、人間の現実世界をリアルに体現できるもので、自分をかっこ良くみせたいという、キャラクターやアイデンティーにこだわる執着性が大きいゲームだともいえる。

アバタービジネスも携帯電話による小額決済を推進させる要因のひとつとなった

韓国のオンラインゲームの成立と発展は、さまざまな内的外的要因が複雑にからみあって生まれたものだ。これらは独自のプロセスで進化してきたものなので、日本の状況と直接的には結びつけられないかもしれない。日本でもADSLが爆発的に普及しはじめているが、いまだにキラーコンテンツとなりえる決定打がないのが現状だ。だが、お隣のIT大国は明らかに日本よりも一歩も二歩も先を進んでいる。その様子をうかがえば、今後日本でもオンラインゲームの中からキラーコンテンツが登場し、ブレイクする可能性も十分あると思われる。

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