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【Apple Expo 2002 Vol.1】今年は無事開催――Mac OS 9での起動は年末まで

2002年09月11日 22時39分更新

文● 林 信行

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現地時間の10日、パリで毎年恒例のMacのイベント“Apple Expo 2002”が開幕した。毎年恒例とはいうものの、昨年は開催日がニューヨークの同時多発テロ直後だったため突然の中止となっていた。

会場
会場はパリの南部にあるイベント施設“Porte de Versaille”

Apple Expoの会場はパリの南部にあるイベント施設“Porte de Versaille(ポルト・デ・ヴェルサイユ)”。1年のブランクがあったせいか、会場は2年前と比べブースの数が大幅に増え大盛況のもりあがりだったが、今回はそことは離れた場所“Palais de Congres(パレ・デ・コングレ)”で開催された基調講演をレポートしよう。

基調講演の大筋は、7月の“MACWORLD EXPO/NEW YORK”と同じでソフトの話題が中心で、今回は新ハードウェアの発表は一切なかった。

■まずは近況報告

ジョブズはまず近況報告として最近の新製品を振り返った。

ジョブズ登場
ジョブズ登場

最初にとりあげたのは7月のニューヨークで発表されたばかりのiMac 17インチワイド液晶モデル、続いてeMac、iPod、そして先月発表されたばかりの新Power Mac G4だ。

eMacに関しては、“SuperDrive”(DVD-R、CD-RWの双方に書き込み対応したパイオニア製ドライブ)搭載モデルが増えたことを強調し、アップルコンピュータ社がSuperDriveへの敷居を低くすることに尽力していることをアピールした。

一方、新Power Mac G4については、「Xserveテクノロジーを採用した初めてのMac」と形容していた。

ジョブズは新機種を一通り振り返ると、「講演の残りの時間はソフトウェアの話に的を絞りたい」と語った。

新Power Mac G4
新Power Mac G4は、初めてXserveテクノロジーを採用したMac製品と紹介された。またプロセッサーも光学式ドライブも、ディスプレーもデュアル対応と紹介された

■目玉はJaguar、『Mac OS X 10.2』

最初の目玉は、もちろん、先月発売したばかりの『Mac OS X 10.2』、通称“Jaguar”だ。ジョブズはアップルのハードウェアばかりが高い評価を受けるが、実は同社が優れたソフトウェア開発者でもあると強調、その中でもJaguarは“最大の偉業”と語った。

『Mac OS X 10.2』
講演の大半は新OS『Mac OS X 10.2』、通称Jaguarの紹介に当てられた

続いて、ジョブズは150以上ある新機能の9つの紹介に移るのだが、その前にJaguarと他の3種類のOSと親和性について触れた。

1つ目はUNIX。「知らないかもしれないが、アップルは世界最大のUNIXベンダーだ。Linuxよりも大きければ、Solarisよりも大きい」とMac OS XがUNIXである点を強調、Jaguarの150の機能のうちのいくつかはUNIXユーザーのニーズを取り入れたものであることを明らかにした(例としてFreeBSD 4.4、GCC 3、IPv6、IPSec、CUPS、Kerberosなどをあげた)。

もう1つのOSはWindowsだ。SMBのブラジングやActive Directoryのサポート、Windowsネットワークにつないですぐ使えることをアピールした。

3つめは旧Mac OSだ。ここで1つ重要な発表があった。
ジョブズはまずJaguarはClassic機能も改善されたことを明らかにした。1年前のバージョンに比べてClassicの起動時間も半分ほどになっているという。最新のPower Mac G4なら8~10秒で起動が完了する。

これにあわせて、1つ重大な発表があった。現在のMacは、Mac OS Xが標準OS(購入直後に起動するOS)になっているが、ユーザーが望めばMac OS 9に切り替えて起動することもできる。

来年以降はMac OS 9から起動できなくなる
現行のMacはどれもMac OS 9からの起動をサポートしているが、来年以降はMac OS 9から起動できなくなる。これは後述のMac OS X普及促進の一環だ

しかし、ジョブズはこれがアップルにも開発者にとっても負担になっていると語った。ビデオチップ用のドライバーなどもわざわざ2つのOS用に開発する手間があるからだ(アップルは米国でMac OS 9版のATIテクノロジーズ社製グラフィックスカードのドライバーをアップデートせず裁判で負けた経緯がある)。

そこで、ジョブズは2003年1月1日以降に発表される新Macは、すべてMac OS 9では起動しないようにすることを発表した。

Mac OS Xには、さらに互換性を増したClassic機能がある
Mac OS 9で起動しないMacが出るまであと4ヵ月。ユーザーはそれまでに心の準備を整えるように、とジョブズ。ただし、Mac OS Xでしか起動しなくなっても、Mac OS Xには、さらに互換性を増したClassic機能がある

■重要な新機能

9つの機能はMACWORLD EXPO/NEW YORKともほぼ同じで、コミュニケーション機能としてMail、iChat、アドレスブックを、OS基盤機能としてInkwell(手書き文字認識)、QuickTime 6、Universal Access(視覚・聴覚などを補助する機能)、そして新Finder、Sherlock 3、Rendezvousなどの“探す”をキーワードにした新機能を紹介した。

ここで今回、特に重要だったのは、QuickTime 6とRendezvousだ(Sherlock 3もフランス語の株価情報や英仏翻訳機能がデモされた)。

QuickTime 6は、すでに2000万のダウンロードユーザーがいるソフトウェアだが、ジョブズはその成功はMPEG-4の採用にあると語った。インターネット革命やデジタル音楽革命、DVD普及の影の立役者であるTCP/IP、HTML、MP3、MPEG-2という4つのオープン標準を例に、歴史が選ぶのはオープン標準と語り、QuickTime 6はMPEG-4を核にすえた最初の商用ソフトであり、MPEG-4もQuickTimeを元にしているとした。

そして現在、「業界全体がこの規格を支えはじめている。唯一違うのはマイクロソフトで、同社は独自の技術を広めようとしている」と非難した。

やや攻撃的な発言も……
業界全体がMPEG-4に注目しているジョブズ、同標準をサポートしないのはマイクロソフトだけと、やや攻撃的な発言も……

続いてQuickTime 6をデモしたフランク・カサノバ(Frank Casanova)氏も、オーディオCODECのAACや動画圧縮のデモ、そしてInstant-On(即時再生)機能を紹介。AACの(同ビットレートでの)音質は、MP3はもちろん、WMA(Windows Media Audio)にも勝る、と強調した。

2つ目は“Rendezvous(ランデブー)”。これはインターネット標準のZeroCong(ZeroConfigともいう。要は設定不要でTCP/IPを使った相互通信を実現する技術だ)のアップル版だ。

ジョブズはまもなく同機能を使ったソフトウェアの例としてiTunesを紹介した。同じネットワーク上に他のiTunesユーザーがいると、そのユーザーの音楽ライブラリーが表示される、というもので、同機能を搭載したiTunesは来年前半にリリース予定とジョブズは公表した。

Rendezvousが真価を発揮するのはソフトだけではない。周辺機器との接続も重要な例で、特に設定が大変なネットワークプリンターも同機能が役立つ例である。アップルは7月のMACWORLD EXPO/NEW YORKで、エプソン、ヒューレット・パッカード、レックスマークの3社がRendezvousのサポートを表明したと明らかにしたが、今回のExpoにあわせてさらにキヤノンとゼロックスが同技術のサポートを表明したと明らかにした。「これで主要なプリンターメーカーは揃った」とジョブズ。

しかし、「これだけではつまらない。Macに入っている音楽ライブラリーをステレオで聞きたい、デジタル写真を大型テレビで見たい、といった場合でもRendezvousが活躍するかもしれない」と、そんな未来のデジタルライフスタイルを伺わせる新パートナーとして、オランダのロイヤル フィリップス エレクトロニクス社を紹介した。

コンシューマーエレクトロニクスの雄、フィリップスの社長兼CEO、ジェラルド・クライスタリー(Gerald Kleisterlee)氏は、残念ながらこの講演には来られなかったものの、Apple Expo来場者への手厚いねぎらいの言葉を含むビデオメッセージが披露された。

ビデオの中でクライスタリー氏は、まずアップルとフィリップスの関係が、これまでも深かったことを示すべく、アップルが販売してきた大型TFT液晶ディスプレーやAir Mac(海外ではAirPort)ベースステーションのチップを同社が提供してきたことを明らかにし、これら2つの重要な新技術トレンドを広げたのはアップルだと賛辞を贈った。

続けてクライスタリー氏は、アップルとフィリップスは「未来のビジョンも共有している」と語った。そのビジョンとはいつでもどこでも必要な情報にアクセスできる「デジタルハブ、デジタルホーム」のことだ。

このビジョンを実現する技術がRendezvousであるとして、クライスタリー氏は「未来のフィリップス製品でRendezvousをサポートする計画を明かした。

ジョブズはこれを受けて、来年にもアップル製品とフィリップス製品がRendezvousでつながればうれしいと語った。

なお、基調講演では触れられなかったが、他にサイベース社とWorldbook社もRendezvousのサポートを表明している。

主要なプリンターメーカー5社がRendezvous採用
主要なプリンターメーカー5社がRendezvous採用を表明。ネットワークプリンターに新しい標準技術が誕生しそうだ
クライスタリー氏
Rendezvousをソフトと周辺機器の技術から、Macと家電をつなぐ技術に発展させそうなのが今回のフィリップスの発表だ。写真はビデオメッセージを贈った同社社長兼CEOのクライスタリー氏

■Mac OS Xは普及期に入る

Mac OS Xの主立った新機能を紹介し終えたジョブズは、139ユーロ(Mac OS X 10.2のフランスでの税別価格。約1万6000円)でまったく新しいMacが手に入ると自賛した後、Mac OS Xの状況を簡単にまとめた。現在、同OSの利用者は300万人、アップルは年末までにこれを500万人に増やす予定で、そうすると登場から約24ヵ月で、全インストールベースの約20%が移行を完了することになる。さらに前述した2003年1月以降、Mac OS 9での起動ができなくなることをあわせれば、移行はさらに進むはずだ。

これにあわせてMac OS Xのネイティブアプリケーションも年内に5000まで数を増やす予定だ。

講演ではそうしたネイティブアプリケーションの例として3Dを駆使した製品5種類を紹介した。3D製品を選んだ理由は「OpenGLやUNIXプラットフォームがMac OS X版3Dソフトの開発に拍車をかけているから」という説明だった。

一番最初に紹介されたのはフランスはe-on software社の『Vue d'Esprit』という3Dアニメーションソフトで、簡単な操作でリアルな景観アニメーションが作成できることが披露された。

続いて、ドイツのマクソンコンピュータ社の『Cinema 4D』、これは一部のMacユーザーにはなじみのソフトで、簡単なモデリング機能に特徴がある。

3つめはいわゆる3Dソフトではなくゲームソフト。米Aspyr Media社がまもなく発売する『JEDI KNIGHT II:JEDI OUTCAST』という製品で、ライトセーバーを使って敵と戦うデモを披露した。

4つめは、アップル系イベントではおなじみの『Maya』で、開発元のエイリアス・ウェーブフロント社はMac版を開発したことでマーケットシェアを25%も増やすことができた、と紹介された。

Vue d'esprit
講演のデモでも特に注目を集めたのが仏e-on software社のVue d'esprit。数多くの広告でも使われている3Dアニメーションソフトだ
Jedi Knight
Jedi Knightも注目を集めた。この写真では分かりにくいが、ライトセーバーを使った格闘シーンはかなりきれいで見応えがある

■iCal、iSyncも登場

講演の最後ではMACWORLD EXPO/NEW YORKで発表された『iCal』と『iSync』が紹介された。iCalについては.Mac以外にWebDAV対応のウェブサーバーでカレンダーを公開できるなどより具体的な説明があり、講演と同時に無料ダウンロード提供を開始した。

『iCal』
ついに配布が始まったアップルのスケジュール帳ソフト『iCal』。複数のカレンダーを重ねあわせ表示できるのが特徴だ

一方、iSyncに関してもMACWORLD EXPO/NEW YORKで行なったのとほぼ同じデモをヨーロッパ版のGPSR携帯電話(機種は米国と同じソニー・エリクソン社の『T68i』)を使ってデモを行なった。

同期するデモ
フランスの携帯電話とMac OS XのアドレスブックおよびiCalをiSyncを使って同期するデモも行なわれた

残念ながらiSyncは即時配布開始とはならなかったが、今月末からベータ版を公開することが明らかになった。ジョブズは現在試用中のバージョンも十分に安定しているのでぜひ試してみてほしい、と付け加えた。

ジョブズはiSyncの登場で2年前の1月にアップルが公表したデジタルハブ構想がいよいよ現実になりつつある、と語り、アップルは今後もこの戦略をよくするべく、新技術を積極的に取り入れると語り講演を結んだ。

会場の一部ではジョブズお得意の“One more thing”がないことにヤジをあげる人もいたようだが、講演は喝采の中で幕を閉じた。

iSyncは今月末にまずベータ版が公開
iSyncは今月末にまずベータ版が公開される予定だ。ダウンロードはベータ版も正規版も無料だ。そういえば2年前のApple ExpoではMac OS Xの公開ベータ版が有償で販売された
主なMac OS Xの新機能およびアプリケーション
これが今回、紹介された主なMac OS Xの新機能およびアプリケーション。アップルはデジタルハブ戦略に基づき今後も積極的に新技術を取り入れる

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