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国内市場規模は150億円!?――AOGC 2006講演に見る、オンラインゲームが生んだ経済現象“RMT”の現状とこれから


2006年2月11日

経済学の観点から、ゲーム内経済を見てみると……

RMTを含めたゲーム内経済全体の事象を、経済学の観点から理解するという一風変わった講演“「ゲーム内経済学」とその意義”を行なったのは、(財)国際金融情報センター 地域統括部 審議役の山口浩氏である。ゲーム内経済学(英語ではIn-Game Economics)はまだ生まれたばかりの概念で、ゲームについてのアカデミックな視点からの研究が進んでいる米国でも、まだ目新しい話題であるという。しかし2002年にカリフォルニア州立大学経済学部のエドワード・カストロノバ(Edward Castronova)助教授が、当時北米で大人気だったMMORPG『EverQuest』のRMT市場を研究し、その経済活動を国民1人あたりGDPに見立てると約2266ドル(約26万7000円)にも達し、世界第77位にもなるという発表を行なうなど、注目が集まりつつある分野である。

山口氏はゲーム内経済学の観点がなぜ必要かについて、ゲーム内仮想世界にも現実同様の経済活動(通貨と取引)が存在すること、一方でインフォーマルな経済活動であったため、現実世界の経済指標では捉えられないという性格を持つこと、にもかかわらず現実の経済に影響を与えている(RMTに限らない)ことを挙げて、経済学の原則はゲームでも通用すると述べた。

既存のMMORPGの経済システムを定義したスライド。モンスターを“狩る”ことで富を得る、狩猟採集経済であると山口氏は述べる
既存のMMORPGの経済システムを定義したスライド。モンスターを“狩る”ことで富を得る、狩猟採集経済であると山口氏は述べる

山口氏はまず、既存のMMORPGのゲーム内経済システムの定義を行なった。ほとんどMMORPGは、ゲームプログラムが用意する“モンスター”を狩ることで“富”(通貨や価値のあるアイテム)を得るという、“狩猟採集経済”を採用しており、土地所有の概念があるゲームはまれで、農耕と収穫という概念も存在しないとした。また商業や製造業は個人単位で行なわれており、家内制手工業や行商型商人による“前近代的産業社会”にあるとした。一方で通貨システムは、ゲームシステム上贋金の存在がなく、システムが通貨に信用を与えているので、“発達している”としたが、金融に類する概念はないとした。またゲームシステムによりアイテムの価格がある程度決定可能な恣意性を持つほか、ゲーム外の経済と直接はリンクしていないため、ある意味では“鎖国”状態にあるとしている。もちろんゲームによってはこの定義に当てはまらないものもあるが、一般的な傾向としてこのような経済システムであるのは確かであろう。

こうした経済システムを備えるMMORPGでよく見られる価格現象を、山口氏は“MUDflation”(※2)と呼んだ。MUDflationはMMORPG特有の経済現象で、時間の経過と共に通貨供給量が増大し続けることでインフレが生じる一方で、アイテムの流通量も増加することで、実質価格は低下するというデフレ的状況が同時に発生するという現象である。なぜこのような特異な現象が起こるかについて山口氏は、キャラクター、生産活動、アイテム、通貨の4点にそれぞれ問題点の存在を指摘した。

※2 インターネット黎明期に生まれた、古典的なネットワークゲームである“MUD:Multi User Dungeon”とインフレーションの造語。

山口氏が指摘した、MMORPG経済の問題点の図。赤線がアイテム、青線が通貨の流れを示す
山口氏が指摘した、MMORPG経済の問題点の図。赤線がアイテム、青線が通貨の流れを示す

まずキャラクターについては、ゲーム内のキャラクターは現実世界とは異なり、誰でも時間をかけることで強力な能力を獲得でき、それにともない所得水準も大幅に向上する。能力差はプレイに費やした時間に大きく依存しており、現実の知恵や技術では挽回できないという傾向があるとした。山口氏は人気漫画“ドラゴンボール”をモチーフに、これを“年功序列型ドラゴンボール経済”と読んで、聴衆の笑いを誘った。また生産活動(富を獲得するための活動)が、現実世界と異なり多様さに欠け、どんなキャラクターでも強くなってたくさんのモンスターを倒すことで所得も増えるという一定のパターンに集中していると述べた。これらは通貨供給量の増大につながる要素と言える。

アイテムはより分かりやすい。まず飲まず食わず眠らずでも基本的に“死ぬ”ことがないため、衣食住のうち食住が必要ない。多くの場合アイテムは破損や腐敗することがないため、一度ゲーム内に登場したアイテムは消えることがなく、アイテムの過剰生産・蓄積を招きやすい。アイテムに消耗の概念を持たせているゲームもあるが、基本的には少数派で、前述のファイナルファンタジーXIやリネージュ2、EverQuestなどはいずれも、このパターンに当てはまる。またアイテムの品質がゲームシステム側に保証されているので、道ばたで見知らぬ人物から買ったアイテムが、実は粗悪な不良品だったということもない。これらによって品質が変化することのないアイテムが過剰に流通することで、アイテム価値の下落を招きやすいというわけだ。

通貨も似たような傾向があり、通貨供給量はプレイヤーの行動によって決まり、金利や融資もないので、現実の中央銀行のようなマネーサプライのコントロールが成立しない。通貨自体が変質・劣化することもないので、一旦仮想世界内に供給されると、回収されることが少ない。またゲーム内と言う仮想コミュニティー内でのみ通用するため、いわゆる“地域通貨”と同様の性格を持つと述べられた。

山口氏はRMTを、仮想通貨と現実通貨によるある種の貿易であると定義した
山口氏はRMTを、仮想通貨と現実通貨によるある種の貿易であると定義した

ゲーム外の経済であるRMTの要因については、ゲームに多くの時間を割き“仮想世界で高い収入を得るプレイヤー”と、ゲームには時間を使えないが“現実世界で高い収入を得るプレイヤー”の間で、互いに得意なものを交換しようとするインセンティブであると分析。ゲーム内通貨と現実通貨によるある種の貿易のようなもので、公には認められていないという点では密貿易に近いと定義した。またRMTがなぜゲームの規約で禁止されているにもかかわらず発生するかについても、オンラインゲームの中に経済活動が存在するなど、ゲームデザインに起因するものだとした。しかし山口氏は、「RMTが起こるゲームというのは現実通貨を使ってでも欲しいものがあるということであり、そのゲームが面白いという証明である」とも述べ、強権的に禁止を目指しても、禁酒法のように実体と乖離したことになるだろうとして、RMTといかに共存していくかについての私案を、政策手段に例えて披露した。

いくつか興味深い点をピックアップしてみると、まず“経済政策”の面では、米Sony Online Entertainment社が『EverQuest 2』で“公式RMT市場”を導入したように、地下経済下しているRMTを運営会社側がゲームシステムに組み込むことでのコントロールが提案された。外国為替のように複数のオンラインゲーム間で通貨を交換可能にすることで、為替政策を導入するというアイデアも興味深い。また現金目当ての外国人労働者の流入に対しても、2種類の提案があった。まず門戸を狭める要素として、“知的な対話を必要とする『労働』”をシステムに導入することで、コミュニケーション能力のない労働者では高い収入が得られないようにする。またゲーム内での商人に対して、ある種の免許制を導入する。

しかし山口氏の提案で刺激的なのは、門戸を広げる側の要素の方だ。RMTでの生産者に当たる外国人労働者は、極めて単純な作業(例えば同じモンスターを延々と殺し続ける)を繰り返すことで、現金収入を得ている。これは言ってみれば“賽の河原に石を積むことで金を得る”ようなもので、“ゲームを遊ぶだけで金になる”という誤解されがちなイメージとはほど遠い、まさに単純作業である。こうした外国人労働者をゲーム内でのサービス事業に取り込むことで、一般ユーザーへのサービスを充実させつつ、彼らにも合法的な収入獲得の手段を提供しようというわけだ。山口氏は例として、ゲーム内での補助的なユーザーサポート業務や、一般プレイヤーに雇用され、プレイヤーを保護する傭兵的な役割、あるいはゴルフでのキャディーのような役割を挙げた。もちろん実際にこれらをオンラインゲームに実装するのは、多くの問題(言葉の壁、職業訓練に要する手間、妥当な賃金、勤労意欲の低さなど)を解決する必要があり、必ずしも現実的とは言えない。またRMT行為そのものの解決でもない。しかし合法的なゲームサービス内に外国人労働者を取り込んでしまうことで、RMT行為のまん延によるサービスの質の低下を防ぐという意味では、非常に興味深い提案と言えるだろう。

RMTとの共存のための“政策手段”の例。一部は実際に導入しているゲームもあるが、労働政策の提案は斬新だ
RMTとの共存のための“政策手段”の例。一部は実際に導入しているゲームもあるが、労働政策の提案は斬新だ

カストロノバ氏はゲーム内の仮想経済を“Cyberian Frontier”と称し、現実経済に含まれていなかった新たなフロンティアであると称したという。山口氏はその言葉を引用し、ゲーム内経済学は経済学にとっても新しい分野であり、“労働は苦役”である従来の経済学とは異なり、“労働も楽しみ”とする新しい考え方をもたらしたと述べた。そのうえでこれは現実の経済にも当てはまるもので、所得をいかに配分して満足を得るかだけの経済モデルから、現実世界での所得配分に仮想世界での時間配分も加えることで、満足を最大化する経済モデルが、これからのモデルになるとの可能性を示した。

山口氏は「人々がそこに“ゲーム以上の価値”を見いだしたとき、ゲームは“ゲーム”以上のものとなる」と述べて、将来のオンラインゲームは社会インフラやビジネスフィールドとなる可能性や社会的意義を備えるものであるとした。すでに米Linden Lab社のMMO型ゲーム『Second Life』のように、より現実的な産業(生産)の仕組みをゲームに反映させるなど、注目に値する取り組みを見せているゲームも存在する。山口氏が述べる“ゲーム以上のゲーム”が登場する日も、そう遠くはないかもしれない。

(編集部 小西利明)


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