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国内市場規模は150億円!?――AOGC 2006講演に見る、オンラインゲームが生んだ経済現象“RMT”の現状とこれから

2006年02月11日 18時04分更新

文● 編集部 小西利明

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有限責任中間法人 ブロードバンド推進協議会(BBA)が9日から開催しているアジア圏のオンラインゲーム国際会議“アジア オンライン ゲーム カンファレンス 2006 東京”(以下AOGC 2006)の2日目では、オンラインゲーム業界を揺るがせている大きな話題についての講演が相次いだ。それが“RMT(Real Money Trade)”である。本稿ではRMTやゲーム内経済システムについて取り上げた、2つの講演についてレポートしたい。

RMTとは何かを簡単に説明すると、オンラインゲームの中に存在するアイテムや仮想通貨を、プレイヤー同士が現金(Real Money)で取引(Trade)する行為の総称である。特に『ファイナルファンタジーXI』や『ラグナロクオンライン』、『リネージュ2』のような人気の高いMMORPG(大規模マルチプレイヤーオンラインゲーム)内で盛んに行なわれているが、日本国内でサービスされているMMORPGのほぼすべてが、RMTをサービス規約で禁止行為としている。規約で禁止されていることもあり、RMTでの取引は多くの場合、ゲームそのものとは関係ないオンラインオークションサイトや電子掲示板などを介して行なわれている。ゲーム内で行なわれる行為自体は、単なる“金やアイテムの受け渡し”だけなので、ゲーム内でのやり取りだけを見て、なにがしかの行為がRMT行為か否かを判断するのは困難である。そのため規約で禁止はしていても、実際は野放しに近いゲームが多い。

実体の無い“ゲーム世界内のアイテムや金銭”を、現実世界の現金で買うという一般社会では考えにくい現象であるため、オンラインゲーム業界やプレイヤー間以外では話題になることも少ないが、実際はそれほど目新しい話題ではない。たとえば世界で初めて商業的に成功したMMORPG『ウルティマオンライン』(1997年発売)の当時にも、“ゲーム内の土地や建物が何千ドルもの現金で売買された”など、規模は小さいものの存在していた話題である。そしてMMORPGが日中韓や米国で人気を得るに連れてRMTの市場も拡大し、RMTにまつわるトラブルや犯罪(詐欺や不正アクセス)や、ネットワーク上の仮想世界を発祥とする経済事象が注目を集めている。

(社)中央政策研究所の水谷亮太氏と、リネージュ2の運営会社であるエヌ・シー・ジャパン(株)(NCJ)の天野浩明氏による“日本のオンラインゲームにおけるRMTの現状”は、とかく不明確なRMT市場の仕組みと、NCJによるRMT事業者の刑事告発などについての説明が行なわれた。

RMT市場の構造について述べる、中央政策研究所の水谷亮太氏
RMT市場の構造について述べる、中央政策研究所の水谷亮太氏

シンクタンクの研究員である水谷氏がRMTという現象に興味を持ったのは、自身がMMORPG『リネージュ』(現在はNCJが運営)のヘビーユーザーだった経験からという。リネージュのゲーム内で外国人と思われるプレイヤーに自分のキャラクターを殺され、キャラクターの持っていたアイテムを奪われるなどしてショックを受けた水谷氏は、報復のためにRMTで装備を購入するようになり、殺しかえしてまた殺されてまた装備を現金で買うというプレイを繰り返していたという。またゲーム内で知り合い、メールアドレスを交換するようになった女性から、「私の写真をアデナ(※1)で買って」というメールをもらい、承諾して購入したところ“普通ではない写真”が送られてきたという。前者は現金で仮想世界の物品を買う行為で、後者は仮想世界の通貨で現実の物品(写真)を買う行為というわけだ。

※1 リネージュのゲーム世界内での通貨

実体験からRMTに強い興味を覚えた水谷氏や同研究所の研究員は、これはオンラインゲームに限らず仮想世界の発展やビジネスモデルの変化とともに大きくなる問題であるとらえ、経済や個人の権利、モラルとルールなどについての整備が必要であろう考え、特に経済面での課題としてRMTを調査研究対象にしたという。なお調査に基づいた具体的な政策提言を行なうか否かについては、現時点ではまだ決めていないということだ。

水谷氏は一昨年からリサーチを始め、国内のオンラインゲーム事業者からの協力も得て情報を集めたほか、実際にRMTでアイテムや通貨を販売する側にいる、業者やブローカー、生産者(実際にゲーム内で通貨やアイテムを集める役)ら約30名ほどと実際に接触し、情報を集めたという。ブローカーや生産者は中国人や韓国人などで、アンダーグラウンドなRMTビジネスが国境のないビジネスである実例と言える。RMTの本質を水谷氏は“時間を法定通貨で買う行為”と定義。RMTの発生は、オンラインゲームが持つ“ゲーム内通貨などの価値を計る尺度の存在”(ゲームデータが実際の金銭の定義に近い)や“競争をうながす仕組み”、“ゲームに連続性があり、長期間楽しめる”といった特徴そのものによるものだとした。

RMT市場の構造。販売者と購入者/仲介業者で成り立つ1次マーケットと、仲介業者から購入する購入者の2次マーケットによる構造をとる
RMT市場の構造。販売者と購入者/仲介業者で成り立つ1次マーケットと、仲介業者から購入する購入者の2次マーケットによる構造をとる

日本国内のRMT市場の規模については、150億円近い市場が存在し、利用者は約7万人としている。国内には現在、仲介業者が約100サイト、掲示板サイトが4サイト、生産と販売を共に手がける製販一体のサイトが約10サイト存在するという。仲介業者は掲示板サイトなどを通じて、広告宣伝を行なっている。市場の構造は、販売者個人と購入者個人、あるいは転売/仲介業者などで構成される1次マーケットと、仲介業者から購入者個人が購入する2次マーケットの2つで構成される。ちなみにRMTの販売業者は、日本人業者が2割で外国人が8割程度、扱う通貨量では日本人0.5対外国人9.5くらいの割合ではないかとのことだ。製販一体モデルの業者は、賃金の安い海外の労働力を利用して交代で24時間ゲームを続けさせ、ゲーム内通貨やアイテムを収集、自前のウェブサイトでエンドユーザー(プレイヤー)向けに販売を行なう。

RMT流通の模式図。左側肌色部分の人物は、おおむね日本国外に存在する
RMT流通の模式図。左側肌色部分の人物は、おおむね日本国外に存在する

水谷氏が示した模式図を見ると、RMT市場での“生産と流通”の構造が理解しやすい。生産者や製販一体サイトの末端までを、元締がコントロールする。これらは主に海外で活動している。ちなみに記者もMMORPGの熱心なプレイヤーであるが、人気のあるゲームの中ではプレイごとにほぼ毎回、こうした生産者が操作する“海外からの出稼ぎ労働者”的なキャラクターを目にしている。生産者の“収穫物”であるゲーム内通貨(アイテム含む)は、生産者による持ち逃げを防ぐため倉庫番役に預けられ、国内で活動する製販一体サイト運営者やブローカー役(国内にいる留学生が多いとのこと)に送られる。ブローカー役は掲示板サイトでエンドユーザー向け販売を行なうほか、仲介業者にもゲーム内通貨を販売する。仲介業者が介在する理由について水谷氏は、仲介業者を介することで製販一体側が過剰な在庫を抱えるリスクを減らせることと、詐欺などのリスクも仲介業者が引き受けられるためとした。

また水谷氏はRMTによって生じる問題点を、大きく2つに分けて説明した。1つは、開発運営側が想定したゲームの楽しみ方と乖離してしまう点。ゲームが“楽しむ”ためでなく“稼ぐ”ためのものに変質してしまうことで、ゲーム内のマナーやモラルの崩壊を招き、最終的には利用者がそうしたゲームを嫌って減少してしまうことで、ビジネスの損失を招くというわけだ。また生産者が規約上禁止されている操作の自動化ツールの使用や、ゲームデータやプログラムを不正操作する“チート行為”、詐欺行為、ほかのプレイヤーのIDやパスワードを盗用する“不正アクセス”といった、周辺問題も存在するとした。

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