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海外からの2作品が大賞を受けるも、お家芸のアニメ、マンガは譲らず

国際化する“TOKYO発 メディアアートの祭典”――“文化庁メディア芸術祭”開幕&贈呈式レポート

2006年02月24日 13時51分更新

文● 千葉英寿

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東京・恵比寿のウェスティンホテル東京において23日、アート/エンターテインメント/アニメーション/マンガといった幅広い“メディア芸術”の中から、各分野における優秀な作品を表彰する“平成17年度[第9回]文化庁メディア芸術祭賞”の贈呈式が執り行なわれた。主催は文化庁メディア芸術祭実行委員会(文化庁/CG-ART協会)。贈呈式では各分野の大賞、優秀賞、奨励賞、さらに功労賞の各受賞者が表彰された。その後の祝賀会では、各分野の審査員による講評や、受賞者によるライブ演奏なども催された。

駅の看板 ウォークウェイ
会場となった恵比寿ガーデンプレイス周辺はすっかりメディア芸術祭一色。駅構内やウォークウェイにまで芸術祭を知らせる広告が展開されている

贈呈式は文部科学大臣の小坂憲次氏を始め、文化庁長官(文化庁メディア芸術祭実行委員会会長)の河合隼雄氏ら文化庁関係者に加え、韓国の文化コンテンツ振興院 院長のソ・ビョンムン氏、米SIGGRAPH2006の委員長のジョン・フィネガン(John Finnegan)氏、ブラジルFILEのディレクターのポウラ・ペリシノット氏とリカルド・バレット氏、韓国SICAFの実行委員長のクウォン・スーヒョン氏ら、VIPが臨席する中で行なわれた。

各賞の贈呈は、アート/エンターテインメント/アニメーション/マンガの各部門ごとに、小坂文科相と各部門の主査がつとめた。各部門の各賞は以下の通り(本文中の作者は敬称略)。

【アート部門】

●大賞

Khronos Projector
アルバロ・カシネリ(Alvaro Cassinelli)/ウルグアイ
日本語で挨拶したカシネリ氏 Khronos Projector
日本語で挨拶したカシネリ氏は、ウルグアイ出身で、フランスで電気通信と物理を学んだスペシャリスト。現在、東京大学 石川並木小室研究室で助手をつとめるKhronos Projector。スパンデックス素材で作成されたスクリーンに触れ、押してへこんだ部分の画像が時間軸の変化を起こすというもの。昼の映像が押し込んだ部分だけが夜になったりする。(C)Alvaro CASSINELLI

●優秀賞

Six String Sonics, The
久野ギル/日本
Spyglass
村上史朗/日本
Gate vision
小林和彦/日本
アニマ
発智和宏/日本

●奨励賞

Conspiratio
橋本悠希ほか/日本
アート部門の受賞者
アート部門の受賞者。右から橋本、発智、小林、CASSINELLI、村上、久野の各氏


【エンターテインメント部門】

●大賞

Flipbook!
ファン・カルロス・オスピナ・ゴンザレス(Juan Carlos Ospina Gonzalez)/コロンビア
ゴンザレス氏 Flipbook!
コロンビア出身のゴンザレス氏は、FABRICA by Benettonのインタラクティブ科に所属するクリエイター。『Flipbook!で遊んでくれた多くの人々に感謝したい』と語ったFlipbook!。誰にでも簡単にパラパラマンガがつくれるウェブサイト。指示に従って数枚のフレームに線を描いていくだけで、描いた絵が動きだすというもの。絵を描くことができれば誰もが楽しめる。(C)FABRICA

●優秀賞

ニンテンドッグス
nintendo開発チーム代表 水木 潔/日本
HIFANA “WAMONO”
+CRUZ(W+K東京LAB)/日本
三井不動産 芝浦アイランド 3LDKイメージ映像
井口弘一、伊 剛志/日本
ボーダフォンデザインファイル
佐野勝彦(HAKUHODO i-studio)/梅津岳城/日本

●奨励賞

Incompatible BLOCK
藤木 淳/日本
エンターテインメント部門の受賞者
エンターテインメント部門の受賞者。右から藤木、梅津、井口、伊、GONZALEZ、+CRUZ、水木の各氏


【アニメーション部門】

●大賞

浮楼
榊原澄人/日本
榊原氏 浮楼(Flow)
榊原氏は「想定外です。この賞は僕個人ではなく若い人に贈られたものだと思います」と語り、家族や周囲の人々へ感謝の意を表した浮楼(Flow)。一枚の絵画のように見える街の風景の中を、日々の営みを続ける人々の姿を通して、街の四季が表現されている。その人々の中に、ある女性が結婚し、子供をもうけ……と人生を綴るドラマが秘められている。(C)榊原 澄人

●優秀賞

かみちゅ!
舛成孝二(監督)/日本
死者の書
川本喜八郎/日本
flowery
橋本大佑/日本
年をとった鰐
山村浩二/日本

●奨励賞

seasons
藤田純平/日本
アニメーション部門の受賞者
アニメーション部門の受賞者。右から藤田、山村、橋本、榊原、舛成、川本の各氏


【アニメーション部門】

●大賞

失踪日記
吾妻ひでお/日本
吾妻ひでお氏 失踪日記
吾妻ひでお氏はいわゆる“不条理漫画”というジャンルを創り出したベテラン漫画家。うつむきがちのまま、「ホームレスは結構楽しいです」とコメントした。失踪日記。自身の体験に基づくノンフィクション。失踪から自殺未遂、路上生活、アルコール中毒から入院という、波瀾万丈の日々をサラッと読ませる。“私マンガ”という新境地を切り開いた。(C)吾妻ひでお/イースト・プレス

●優秀賞

PLUTO
手塚治虫・浦沢直樹(作)/長崎尚志(プロデュース)/手塚 眞(監修)/手塚プロダクション(協力)/日本
エマ
森 薫/日本
ドラゴン桜
三田紀房/日本
晩夏
せきねゆき/日本

●奨励賞

ウェブ4コマ漫画
中江嘉男/日本
マンガ部門の受賞者
マンガ部門の受賞者。右から中江、せきね、三田、吾妻、森、長崎、浦沢の各氏


【功労賞】

海洋堂フィギュアミュージアム黒壁館長
宮脇 修
宮脇氏1964年に海洋堂を開業。以来、帆船や戦車模型のブームを生み出し、ついにはフィギュアを新たなメディア芸術の域に高めた功績が認められた。宮脇氏は「若いスタッフの手の技によって、フィギュアが新しい芸術と認められたのだと思います」と感慨深げに語った

賞の贈呈の後で、小坂文科相が挨拶に立った。「今回のメディア芸術祭賞には4部門あわせて、1797点もの応募がありました。そのうち1/4は海外からの応募でした。日本は伝統的な文化を持つとともに、アニメやマンガ、ファッションなどが“ニッポンブランド”のひとつとして世界に知られています。こうした日本独自の芸術が、日本の、世界の芸術に貢献できたと思います」と国際的な芸術祭となっていることを強調した。贈呈式終了後は、恒例の受賞者/審査員/委員会関係者が大集合しての記念撮影となった。

小坂文科相 記念撮影
小坂文科相。祝賀会では今後、さらにメディア芸術祭を盛り上げたいとしていた一列目右端からモンキーパンチ氏、里中満智子氏(マンガ部門主査)、富野由悠季氏(アニメーション部門主査)。一列目左端からNHK解説委員の中谷日出(なかやひで)氏、アートディレクターの浅葉克己氏、CMディレクターの中島信也氏(エンターテインメント部門主査)、早稲田大学教授の草原真知子(アート部門主査)。後列には審査員を務めた明和電機の土佐信道氏、美術作家のヤノベケンジ氏らの姿も見えた

祝賀会では浜野保樹運営委員に促されて、各審査員が壇上でコメントを披露した。いつも発言が注目される富野氏は「今回は、アマチュアもしくはそれに準ずる人たちに負けたと思った。いま、プロでやっているのはクズばかりだから」と爆弾発言で場を盛り上げると、次々に本気コメントを語った。ヤノベ氏は「アーティストは汚くて泥まみれで、ビンボーでもがんばっているんです」と述べ、草原氏は「日本のメディアアートは面白いんです。最近は海外で多く見かけるようになりました」と語った。中谷氏は「審査員を引き受けて3年目になりますが、レベルが世界的になってきました。世界から注目される事を期待しています」とコメント。最後に浅葉氏が「日本は世界から“表現”で注目されています」と締めくくった。

里中満智子氏にコメントを求めたところ、「若い人が出てきているがそれでもベテランもがんばっている。特にマンガとアニメでは、日本の及ぶところは海外にはまだまだ少ないです。日本はそれだけ層が厚いんです」と語った。マンガとアニメの国際化については、海外が日本に学ぶところがまだまだ多いようだ。

手塚 眞氏 久野ギル氏のライブ
贈呈式には姿が見えなかった手塚 眞氏が、祝賀会で浦沢氏とともに登壇した。「マンガが文化と認められたのは、たった一人のアーティストがいたからだと思います。もし、(手塚治虫が)いたなら、自ら審査員を買って出て、さらに自ら賞を取りにいったと思います」と語った祝賀会の後半にはアート部門優秀賞の久野ギル氏が自身のユニットを率いてライブを行なった。通常は6弦のギターを“1弦ギター6本で6人のギタリストが分けて弾く”という、圧巻のライブに来場者は釘付けになっていた

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