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メディアアートが写美をジャック!!――新感覚アートが集結した“文化庁メディア芸術祭”展示会レポート

2006年02月27日 16時32分更新

文● 千葉英寿

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去る23日に贈呈式が行なわれた“平成17年度[第9回]文化庁メディア芸術祭”の受賞作品展が24日に始まった。会場は東京・恵比寿の東京都写真美術館で、会期は3月5日まで。主催は文化庁メディア芸術祭実行委員会(文化庁/(財)画像情報教育振興協会(CG-ARTS協会))。

会場の東京都写真美術館
会場は、例年どおり恵比寿ガーデンプレイスにある東京都写真美術館

展示会場ではアート/エンターテインメント/アニメーション/マンガといった各部門の大賞と優秀賞、さらに推薦作品を紹介する受賞作品展が行なわれたほか、同時開催としてCG-ARTS協会が主催している“学生CGコンテスト”の受賞作品展、歴代受賞者展“デバイスアート展”、最新のデジタルメディア技術と研究を紹介する“先端技術ショーケース-未来のアート表現のために-”、世界各地で行なわれているメディア芸術関連のフェスティバルを紹介する“Meida Art in the World”などが行なわれている。さらに、同館1階ホールにおいては、連日受賞者のシンポジウムやテーマシンポジウムをはじめ、優秀作品や学生CGコンテンスト動画部門作品の上映会などが催されている。

前回まで会場は東京都写真美術館の“一部”を使用していたが、今回は地下1階~地上3階までの“全館”を使って盛大に行なわれている。同展を運営するCG-ARTS協会によれば、入場者数が年を追うごとに増えており、昨年は4万人を超えて同館の一日あたりの来場者数記録を塗り替えるまでに反響が大きくなったことが主な理由だ。

受賞作品の展示は2階と3階に集められているが、2階には大掛かりな作品を含むアート部門で占められており、比較的展示規模がコンパクトなエンターテイメント部門/アニメーション部門/マンガ部門は3階となっている。



さらに多彩さを増したアート部門

“Khronos Projector”
“Khronos Projector”Alvaro CASSINELLI/ウルグアイ (C)Alvaro CASSINELLI

アート部門で最も目を引いたのは、やはり大賞に選ばれたアルバロ・カシネリ(Alvaro Cassinelli)氏の“Khronos Projector(クロノス プロジェクター)”だろう。黒い柱の2側面に作品画面が投影されており、一方は都会の表情を、もう一方は女性の顔を表示している。映像が投影されたスパンデックス素材のスクリーンを手で軽く押すと、昼の都会の表情が押した部分だけにわかに夜景に転ずる。顔の方は押した部分が不自然に歪む。触れるだけで目に見えて変化を起こす作品に、来場者は素直に驚嘆の声を上げたり、意外に手触りのいいスパンデックスのスクリーンを何度も強弱をつけて押してみて変化を楽しんでいた。

“Gate vision”
“Gate vision”小林和彦/日本 (C)小林和彦

大賞作品の周りには優秀賞となった作品が展示されていた。小林和彦氏の“Gate vision(ゲートビジョン)”は、来場者の多くが映像が一巡するまでじっくり見ていた。同作品は山形~東京間の新幹線の車窓から見える映像を円形状に処理したもので、新幹線の車窓が緑の多い山形から東京に近づくにつれ、変化していく様がうまく取り入れられている。本来であれば横に流れる車窓風景を円形にすることで、中心に向かって引き込まれるような不思議な感覚に思わず見入ってしまう。



“Spyglass”
“Spyglass”村上史朗/日本 (C)Fumiaki Murakami

巨大な望遠鏡のような形状が目を引く村上史朗氏の“Spyglass(スパイグラス)”は、実際には対物レンズの向こう側にある物体が見えるわけではなく、作家が収録した全天球の映像が望遠鏡の中に収められている。つまりこの重厚な観測装置を通じて時間や空間を飛び越え、作家の思い出を見ることになるわけだ。筒の中に作家の作品世界が込められているという点では、さながら贅沢な一人用の映写機か巨大な万華鏡のようでもある。

“アニマ”1 “アニマ”2
“アニマ”発智和宏/日本 (C)ホッチカズヒロ

アート部門でありながら純粋なアニメーション作品も優秀賞に選ばれている。発智和宏(ほっちかずひろ)氏の“アニマ”だ。同作品は約1500枚のデッサンで構成されているダンス・アニメーションで、発智氏自身が手描きアニメーションの可能性を追求するために制作したという。躍動感あふれるダンスという“人間の動き”を、作者自身の手描きだけでここまで表現できるものか、と改めて驚かされる。作家の力量と情熱には、ひたすら脱帽するしかない。

“Six String Sonics, The”1 “Six String Sonics, The”2
“Six String Sonics, The”久野ギル/日本。右の写真は祝賀会で行なわれたライブ演奏の一コマ。(C)Gil Kuno

優秀賞を得た久野ギル氏の“Six String Sonics, The”は、アート部門の中でも最も異色の作品だ。5本の指で6弦を操るギターの演奏手法への疑問から、1弦のギターを6名が弾く、という逆転の発想で生み出されたパフォーマンスアート。6本の1弦ギターに同時にデジタルエフェクトを掛けることで実現している。残念ながら6人が揃ったライブ演奏でしか触れることができない作品であり、この場ではVTRでの鑑賞(上映)となっていた。なお、“Six String Sonics, the”は3月3日に東京・六本木のSuperDeluxeで行なわれる関連イベント“Unsound Night in collaboration with 文化庁メディア芸術祭”で生演奏される予定だ。

“Conspiratio”
“Conspiratio”橋本悠希、小島 稔、三谷知晴、宮島悟、永谷直久、山本暁夫、大瀧順一郎、稲見昌彦/日本 (C)橋本悠希

“疑似体験”はメディアアートにおけるひとつの魅力だが、奨励賞に選ばれた橋本悠希氏をはじめとする電気通信大学 知能機械工学科の有志グループによる“Conspiratio(コンスピレシオ)”はまさにバーチャルリアリティーにあふれる作品だ。食べ物(飲み物だけではない!!)をストローで吸うときに得られる感覚をサンプリングし、これを疑似体験できるというものだが、サンプリングした時点でそれは他人が得た感覚であり、これをトレースする体験は“気持ち悪い”心持ちになるのだが、同時になぜか空気を吸っているだけなのにその食べ物を吸い込んでいるような“気持ちよさ”も感じてしまう。なんとも新感覚な作品と言える。



“Allegory of Media Art-メディアアートの寓意-”
“Allegory of Media Art-メディアアートの寓意-”津島岳央(多摩美術大学 美術学部情報デザイン学科 4年)

このほかにも推薦作品が数多く出品されており、中には学生CGコンテストでの入賞作品も展示されていた。学生CGコンテストでインタラクティブ部門の最優秀賞を受賞した多摩美術大学美術学部情報デザイン学科の津島岳央氏による“Allegory of Media Art-メディアアートの寓意-”は2階の展示作品でもっとも大掛かりな作品のひとつだ。フェルメールの絵画空間を3D CGで再現し、独自のステレオ立体視装置を使って鑑賞するというもの。もともと立体であったものを平面に閉じ込めた絵画作品を、再び立体に解放するという試みであり、実際に覗き込んでみると、構成し直された新たな絵画空間に入り込んでしまったような錯覚にとらわれる。巨匠・黒澤 明監督の作品“夢”に、主人公がゴッホの作品空間に入り込んでしまうというシーンがあったが、誰もがその主人公になれてしまうのが本作品と言えるだろう。

“Open the Blind”
“Open the Blind”川島 高(カリフォルニア大学ロサンゼルス校 デザイン/メディアアート学科 修士2年)

カリフォルニア大学ロサンゼルス校 デザイン/メディアアート学科に在籍する川島 高氏の“Open the Blind”(学生CGコンテストインタラクティブ部門佳作)には、思わずニヤリとしてしまう。ブラインドの向こう側に、髪に触れたり、服を着替えたりする女性の影があり、男性なら誰もが思わずブラインドをめくってしまう、そんな心理を巧みに突いた作品だ。もちろん、ブラインドの向こうには女性なんかいるわけはないのだが。





アートとは対極ながら芸術性も高い
エンターテインメント部門

3階のエンターテインメント部門は、純粋な芸術であるアート部門とは対極をなす“広告映像”を対象としている。当然のことながら商品を表現するCM映像やゲーム映像などが選ばれているわけだが、いずれも芸術性の高い“アート・エンターテインメント”と呼んで差し支えないような作品が選ばれた。

“Flipbook!”
“Flipbook!”Juan Carlos Ospina GONZALEZ(ファン・カルロス・オスピナ・ゴンザレス)/コロンビア (C)FABRICA

大賞を得たJuan Carlos Ospina Gonzalez氏の“Flipbook!”は、用意された作画ツールで自分の描いたパラパラマンガをその場でネットにアップすることができるウェブサービス(ウェブサイト)。つまりこの作品は、Gonzalez氏の作品でありながら、Flipbook!で遊んで11万作品を生み出した世界中の参加者たちによる作品でもあるわけだ。

審査員主査の中島信也氏は、「“作品とよべるか?”という議論を呼びつつも、新しい感動を与え“メディアの未来”を予感させる」ことで大賞を獲得したと評している。小手先の技術でアクセス数をあげることだけにきゅうきゅうとしているウェブサイトが多い中、ウェブサイトの“存在そのものが感動を与える”ことができる。ネットの可能性を再認識できる作品と言える。

“HIFANA “WAMONO””
“HIFANA “WAMONO””+CRUZ(W+K東京LAB)/日本 (C)2005 Wieden+Kennedy Tokyo Lab/POLYSTAR CO,.LTD

“Flipbook!”と最後まで大賞を争った作品が、優秀賞を受賞した+CRUZ(W+K東京LAB)の“HIFANA “WAMONO””だ。ミュージシャンHIFANAの“WAMONO”のプロモーションビデオとして制作された同作品は、日本の浮世絵をテイストに、奇妙奇天烈なオリジナルキャラクターを登場させ、HIFANAの音楽と見事に調和し、いままで誰も見たことのないような世界観を具現化している。これ自体がとても高い技術で制作されたCG作品であることを思わず忘れて、見入ってしまうような作品だ。



“三井不動産 芝浦アイランド 3LDKイメージ映像”
“三井不動産 芝浦アイランド 3LDKイメージ映像”井口弘一、伊剛志/日本 (C)三井不動産(株)/シンガタ(株)/(株)電通/(株)東北新社

前回、第8回では“YKK AP EVOLUTION”で優秀賞を受賞した井口弘一氏、伊剛志氏の二人が今回も“三井不動産 芝浦アイランド 3LDKイメージ映像”で優秀賞を受賞した。前回は1個の無機質な立方体が幾何学的なオブジェに変化しつつ、巨大な構造物となって空を行き、やがてYKK APのロゴを形作るというものだった。今回も真っ白な紙が折り紙のように部屋を形作りつつ、日常の音とともに“芝浦アイランドに住まう”という期待感を意味する言葉が切り絵のように表示されていくというもの。優れたストーリーや構成力に相まって、折り紙や切り絵がより効果的に独創的な映像空間を形作っている。

“ボーダフォンデザインファイル”
“ボーダフォンデザインファイル”佐野勝彦(HAKUHODO i-studio)、梅津岳城/日本 (C)ボーダフォン(株)

佐野勝彦氏((株)博報堂アイ・スタジオ)と梅津岳城氏による優秀賞作品“ボーダフォンデザインファイル”は、携帯電話のデザインを紹介するという内容を高次元のエンターテインメントに仕上げたウェブサイト。統一感のあるデザインとナビゲーションで、インタラクションも細やか。すべてにおいてスマートで優れたユーザビリティーを実現している。

“ニンテンドッグス”
“ニンテンドッグス”nintendo開発チーム代表 水木 潔/日本 (C)2005 Nintendo

もうひとつの優秀賞は説明不要だろう。 nintendo開発チームが開発したゲームソフト『ニンテンドッグス』だ。携帯ゲーム機ニンテンドーDS向けに開発された3D子犬育成ゲームだ。タッチペンで触ることでリアルに反応する子犬のかわいらしさや、“すれちがい通信”という新しいアイデアなどが受賞理由となった。

“Incompatible BLOCK”
“Incompatible BLOCK”藤木 淳/日本 (C)Jun Fujiki

エンターテインメント部門の奨励賞は、九州大学大学院芸術工学府博士課程に在学する藤木淳氏の“Incompatible BLOCK”が受賞した。積み木やお絵描きをテーマに、立方体を移動したりペイントして好きな形を作っていく子ども向けの遊びだが、数学的手法や感覚を麻痺させるトリックなどが隠されており、大人でも不思議な魅力にとらわれてしまう楽しいソフトウェアだ。



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