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紙おむつから陳列棚まで応用範囲を広げるRFID――日本初のRFID展覧会開幕

2006年06月29日 19時21分更新

文● 編集部 西村賢

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日本初のRFID専門展、“第1回RFIDソリューションEXPO”が28日から3日間の予定で東京ビッグサイトで開幕した。“情報セキュリティEXPO”、“データストレージEXPO”、“組込みシステム開発技術展”、“データウェアハウス& EXPO”、“ソフトウェア開発環境展”などと合わせて6展覧会の同時開催で、主催者のリード エグジビション ジャパン(株)によると出展社数は全部で1119社を数える。普及が期待されるRFIDのトレンドをレポートする。

RFIDソリューションEXPO会場
RFIDソリューションEXPO会場

1個5円の安価なタグの量産、秋にも開始か

格安で量産可能なRFID(ICタグ)を開発し、2006年8月までの2年間で開発を完了、3ヵ月以内に1個5円で売る――。経済産業省が約18億円を投じ、(株)日立製作所が中心となって進められた“響プロジェクト”も、いよいよ大詰めだ。会場の日立ブースでは、プロジェクトの成果物であるタグの3次試作品が展示されている。

インレット
日立が試作した“インレット”。ICタグとアンテナが一体となっている

これまで1個あたり10~100円程度と単価が高いために、タグの再利用を前提としたシステムにのみ、RFIDは導入されてきた。たとえば、皿に埋め込んだタグを読み取ることで料金を計算する回転寿司の会計システムや、衣服に付けたタグで商品在庫を管理するアパレル業界の棚卸しシステムといった用途だ。こうしたケースと異なり、使い捨てを前提とするシステムでは導入コストが見合わず普及が進んでいない。

7月にもプロジェクトの報告書を公表するという日立によると、1億個生産時に5円という目標のめどは付いているとのことで、コストが導入の壁となっていた業界を含め、今秋以降RFID普及に弾みがつきそうだ。

コストのほか、RFID普及のカギと言われているのが通信距離を伸ばすUHF帯を利用するタグだ。これまでJR東日本のSuicaなどで広く使われてきた13.56MHzのタグでは、通信可能距離は最大でも60cm程度に限られていたが、2005年4月に改正された電波法関連の総務省令にもとづき、UHF帯(950MHz帯)の利用が可能になっている。UHF帯のタグは、波長の特性から物陰への回り込みにも有利で、通信距離は3メートル以上。フォークリフトに多数の段ボールを積載したまま、RFIDリーダーを埋め込んだゲートで同時に複数のタグを読み取ることが可能になるなど、一気に用途が広がる。実際、米小売業最大手のウォルマートでは、すでに物流などでUHF帯のRFIDを導入し、コストダウンに成功している。

UHF帯を用いた製品は、昨年来日本電気(NEC)や富士通から登場しているが、会場では、電波の出力レベルを抑えたまま距離を伸ばす技術の展示や、周囲に金属があるときの受信状況を改善する技術などが展示されていた。また、さまざまな環境での利用を考えて耐熱性や耐水性に優れたタグの応用も多く展示されていた。

UHF帯RFID 金属対応RFID リネンタグ
パッシブ型で通信距離を伸ばすことに成功した三菱電機のUHF帯RFIDソリューション特殊なレイヤーを付加することで金属導体付近での利用も可能に耐水、耐圧、耐熱、耐薬品性に優れる富士通のリネンタグソリューション。アイロンがけにも耐える


顧客が手にした商品を把握してマーケティングに生かす

RFIDの応用として複数の注目を集めていたのが、“ピックアップ情報”を収拾するシステムだ。来店した顧客が、陳列棚からどの商品を手に持ったかをRFIDで検知し、マーケティング情報に役立てようというアイデアだ。日本システムウエア(株)は、バッグやサイフなどにタグを入れ、陳列台から物理的に離れたイベントを検知するソリューションを提案。最大32個のリーダーを1システムで管理できるほか、RFID導入で懸念されているセキュリティー対策についても楕円曲線暗号チップを搭載することで対応している。

同様のピックアップ情報管理システムとして、陳列棚自体にアンテナを埋め込んだのが、日本板硝子(株)の『スマートグラシェル』だ。ガラス棚にアンテナ線を張り巡らせて、商品情報を管理する。価格は現在未定だが、システム一式で300万円前後になると見込まれ、コストが課題だ。

ピックアップ情報管理システム
顧客が手にした商品情報を把握する日本システムウェアの試作システム
スマートグラシェル スマートグラシェル2
リーダーアンテナを埋め込んだガラス棚。陳列商品のタグを読み取るガラス棚には蛇行する形でアンテナが埋め込まれている


アクティブタグは各種センサーと組み合わせて応用

現在広く普及しているRFIDが、リーダーから送られてくる電磁波を電力に変換して駆動する“パッシブ型”であるのに対して、ボタン型電池を内蔵し、自ら信号電波を発信する“アクティブ型”にも注目が集まる。

アクティブ型では、ボタンや熱センサー、加速度センサーを組み込んだ小型の製品が登場している。杉原エス・イー・アイ(株)の『ユビキタス コンパス』は汎用RFIDソリューションだ。ボタンスイッチと温度センサー搭載で重さ5.5gという小型軽量化を実現している。2.4GHz帯を使用するため、UHF帯のように電波法の認証申請が不要と手軽だ。同社ではリーダー、タグ5個、ソフトなどからなる評価キットを約31万円で販売している。

東京特殊電線(株)は温度センサータグを使った介護補助機器を展示。成人用オムツにセンサーを組み込み、1秒おきに温度情報を発信することで、被介護者のオムツの状態をリアルタイムで検出。被介護者、介護者双方の負担を軽減するシステムとなっている。

ユビキタス コンパス 介護向けソリューション
杉原エス・イー・アイの『ユビキタス コンパス』。小型・軽量で温度センサーを内蔵する東京特殊電線の介護向けRFIDソリューション。おむつの状態を検知・発信する


動態情報を把握、管理するシステム

アクティブ型タグの応用で、多数のソリューション提案が見られたのがヒトやモノの位置を検出する動態情報の管理というジャンルだ。タグから一定間隔おきに発信される信号を複数のリーダーで受信。その受信確率や信号強度から、大まかな位置を特定する。

動態管理デモ
(株)マトリックスのRFIDによる動態管理デモ。6つの区画のどこに車両が移動したかを追跡・表示している

(株)富士通ソフトウェアテクノロジーズは、位置情報を検出するミドルウェアおよびソフトパッケージ、『LPS動態管理』を販売する。大きな売り場で販売員の位置を把握することで、業務を効率化したり、テーマパークやイベント会場で来場者の移動情報を記録することで施設運営のノウハウとして活用するなどの応用がある。さらに富士通ソフトウェアテクノロジーズでは10月から、GPS搭載のタグの販売も始める。これまで位置情報検出のためには、把握する場所をカバーする多数のアンテナが必要だったため広い屋外での利用に適さなかったが、GPSを併用することで、利用シーンに限定されない用途への普及を見込む。

(株)マトリックスの『赤ちゃん連れ去り防止システム』は、動態情報をセキュリティーに応用した例だ。乳幼児の足首にタグを付けることで、病院での事故を防止する。昨年暮れに大阪の産婦人科病院で導入されるなど実績もあるという。

LPS TagLocator 位置情報管理
富士通ソフトウェアテクノロジーズのミドルウェア、LPS TagLocatorは仕様の異なる各社ハードウェアに対応LPS動態管理のソフトパッケージの例。従業員の位置情報を把握できる
赤ちゃん連れ去り防止システム
赤ちゃんにタグを付けて、連れ去り防止に

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