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「インターネットの中立性に対する議論は歪んでいる」――TCP/IPの生みの親がコメント

2006年09月13日 20時07分更新

文● 編集部 小林久

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「あまりにもひどい考えだ。革新に対する抑圧である」。米グーグル(Google)社の副社長兼チーフ インターネット エヴァンジェリスト、ヴィントン・G・サーフ(Vinton G. Cerf)氏はそう話す。同社日本法人のオフィスで、12日に開催されたプレスミーティングでの一幕である。

Vinton Cerf氏
ヴィントン・G・サーフ氏。1970年代にロバート・カーン(Robert Kahn)氏とともにTCP/IPやパケットネットワークの相互接続に関する基本アーキテクチャーを設計した人物としても知られる。


次世代インターネットインフラに対して
誰がコストを負担するかの議論

サーフ氏が声高に批判するのは、通信接続業者(ISP)だ。ブロードバンドの普及によってインターネットを行き来するトラフィックは年々増加しており、ISPはバックボーン回線の増強など、設備投資のためのコストがかさんでいる。その負担を軽減するため、欧米のISPの間で活発化しているのが、「より高い料金を払ったものに対して優先的に回線の帯域を割り当てるようにしたい」という動きだ。

グーグルやヤフーといったサービス提供会社は、現在隆盛を極めている。その背景には、定額の通信料金さえ払えば、多額の資本を投じてインフラ提供会社が整備した、バックボーン回線を事実上使い放題にできるという面も大きい。面白くないのは、インフラ提供会社だ。それならば、多くのトラフィックをやり取りする大手のサービス提供会社から、追加料金を徴収し、新たな収入源にしよう、というのが彼らの思惑である。しかし、通信料に対する負担がかさめば、ビジネスモデルの見直しも必要になるのだから、サービス提供会社も必死だ。

サービス会社は、ISPの主張に対して“インターネットの中立性”を盾に、応戦の構えを取っている。インターネットの精神の中で、最も重要な“オープンであること”に、ISPの主張は反しているというのだ。

ミーティングでインターネットの中立性に対するコメントを求められた、サーフ氏は、すでにISPは接続料による十分な収入を得ているとした。サービス会社からさらに料金を徴収することになれば、「新しいサービスを生み出していこうという企業の気力を削ぐことになり、インターネットサービスの停滞を引き起こす」という危惧の念もあらわにする。「潤沢な資金を持つわけでない新興企業では、帯域を確保することができず、いつまで経っても広範囲にサービスを届けることができない」「インターネットに接続すれば、どんなサービスでも利用できるという、ユーザーの自由を奪うことにもなりかねない」。

サーフ氏はISPの主張のおかしさを、郵便を例にとって説明した。「“300万円の小切手”と“誕生日会の招待状”を郵便で送る際に、300万円の小切手のほうが価値があるからと、より高額な料金を請求される。案内状を送るコストも小切手を送るコストも変わりがないのに。(中略)インターネットの中立性の議論はひどく歪んでいる」。

グーグルはインターネットにおける標準技術の使用や、インターネット精神に即し、それをうまく活用した“技術主導型”の企業として、ネットビジネスにおいて大きな躍進を遂げた。特に、インターネット上に散在したコンテンツをユーザーに簡便な方法で届け、そのトランザクションを広告収入に結びつける“メディア”としてのビジネスは大きな収益を上げている。その成功の本質は“インターネットを使いやすくする”という思想がユーザーに広く受け入れられたためである。

その一方で、勝ち組と負け組がかなりハッキリとしたネットビジネスの世界で、莫大な利益を得ているグーグルに対する風当たりも強い。グーグルのようなやり方を“ただ乗り”として批判する論調も出てきた。インターネットは大学や研究機関が、負担を分担しながら、情報を共有するためのインフラとして発展してきた。そこでは“開かれていること”が、大きな意味を持ったが、インターネットがビジネスのインフラとなった今、その思想が果たしてそのまま適用できるかに、異論が出てくるのも分からなくはない。

サーフ氏は、インターネットの中立性に対する自身の意見を述べたあと、日本における状況に対しても短くコメントした。「日本では欧米のような問題は起きていない。回線のスピードも非常に優れているし、安定性も高い。どんな種類のアプリケーションでも好都合だ。ぜひともがんばってほしい(Get Busy!)」。

自らを“Geek”(技術オタク)であると話すサーフ氏。プレスミーティングでは、インターネットの仕組みがどう進化を遂げたかを簡潔に説明した上で、記者たちのさまざまな質問に答えた

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