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Vistaジュースの缶に書かれた謎のURLを追え!


2006年9月21日

社員は清涼飲料水はぜんぶタダ、の文化

ビル・ゲイツがハンバーガーとコカコーラ好きというのはよく知られたこと。そんなこともあって、創業以来、マイクロソフト社内ではコーラを含むジュース類は無料で飲み放題だ。社内のあちこちに大きな冷蔵庫があって、大量の清涼飲料水が置かれている。

“社内飲み物タダ文化”は、米国のIT企業では珍しい話でもないのか、アップルにもある。日本のアップルが入っている、東京・初台の東京オペラシティという建物は、実は弊社がかつて入っていたビルの斜め向かいということで、いろんな噂話が聞こえてきた。アップルがオペラシティに入るとき、社内の自動販売機を無料にするといったところ、ビルの管理会社から苦情が入ったそうだ。出入り業者との兼ね合いか、ビル全体としてバランスが崩れて良くないということか分からないが、いずれにしても日本にはあまりない文化だけに軋轢もありそうだ。

ともあれ、そんな炭酸飲料好きのマイクロソフトの人たちだから、自社のグッズとして“Windows Vista”ジュースを作ったという話には驚かない。よくあるノベルティーグッズだ。マイクロソフトの米国本社でハードウェアローンチイベント取材中に、Vistaジュースが大量に並んだ冷蔵庫を見かけた。味が気になって当然すぐに飲んだのだが、もっと気になったのは、そこにプリントされた謎のURLだ。“http://itweb/windows/vista”と書いてある。

Windows Vistaジュース
一種の福利厚生として飲み放題のジュース。これはWindows Vistaジュース。ちなみに味は炭酸水にライムとレモンを搾ったという感じ。甘くなく飲みやすい
謎のURL
Vistaジュースには謎のURLが

ジュースの缶だけじゃなかった謎のURL

マイクロソフト社内(社内といっても建物間をシャトルバスで移動する広大なキャンパス)のあちこちで、同様の謎のURLを見かけた。

1つは、あちこちの建物の前にあったWindows Live Mailと書かれた、かわいいポスト。よく見ると、“http://golive”と印字されている。

Windows Vistaジュース
一瞬ホントに使っているのかと思い、フタをぱかぱか開閉してみたが、やっぱり飾りだったらしくツクリはそれなり。しかし、かわいい
謎のURLその2
やはり謎のURLが

何かのキャンペーンとしてロゴ的にURLを使っているのだろうかと思い、あまり気にしなかったのだが、ふと廊下を歩いていて目に入った社内の壁掛け掲示板を見て、これは何かあると思った。掲示板は、私的なサークルのメンバー募集やイベントの告知が貼られた、どこの会社にもありそうなものなのだが、そこに貼られた手作りポスターの1つに、“詳しくは、http://Q まで”というようなことが書かれてあったのだ。

デザイン的にあしらうだけなら階層構造をもった“http://itweb/windows/vista”は、ちょっと大げさだし“itweb”だけが妙にリアルだ。“http://Q”にいたっては、飾りというのはあり得ない。つまり、これらのURLは、すべて何かの情報を指し示しているはずだ。

とりあえずアクセスしてみた

オバカな記者は何も起こるはずがないと知りつつ、ブラウザーにこれらの謎のURLを次々と打ち込んでみた。白々しい進捗バーの伸びの後、当然サイトが見つからないとのエラーメッセージが表示された。ブラウザーの実装によって、このへんの挙動はやや違うが、たとえば日本語版のOperaで“golive”と入れると“http://golive.jp/”というマイクロソフトとは何の関係もないサイトが開く。

もしかしてIE7向けの特殊な機能かと愚考し、IE7のベータ版を使ってみたが、やはり何も起こるわけがない。ただ、サイトが見つからない場合には、IEでは検索エンジンに文字列が渡される。ひょっとして、Windows Live Searchで特定の文字列を検索すると、あらかじめ用意されたサイトに誘導されるのかとも思い試したが、当然そんなエグい話でもなかった。Windows Live Searchで“golive”を検索すると、トップに来るのはアドビのウェブページデザインツール『GoLive』のページだ。

もう笑っていますか?

ネットワーク技術者や、こうした短いURLを日々使ってらっしゃる方なら、もう記者のことを無知だと笑っているかもしれない。そう、このURLは謎の記号でもロゴでもない。れっきとしたURLなのだ、イントラネットの。

あまりにもドットだらけのURLを見慣れたために、すっかり忘れていたが、“itweb”、“golive”、“q”といった文字列は、それがそのままサーバー名(ホスト名)だったのだ。マイクロソフトのLAN内で、これらのURLを打ち込めば、それぞれ対応するサーバーに接続するだけだ。恐らく実際には、これらの文字列は“itweb.microsoft.com”や“itweb.hq.microsoft.com”などといった文字列と同値で、このへんはDNSサーバーやDHCPサーバーの設定次第だ。

文字列変換の仕組みは、こんな感じだ。

ドットを含むURLをブラウザーに入力した場合、それは正しいドメイン名(FQDN:Fully Qualified Domain Name;完全修飾ドメイン名)を含むものとして、WindowsはそのままDNSサーバーにクエリーを投げる。逆に、ドットを含まない文字列をブラウザーに入力すると、“レゾルバー”と呼ばれるWindowsの名前解決モジュールが自動的に文字列を付加してからDNSサーバーにクエリーを投げる。“itweb”は“itweb.hq.microsoft.com”などに展開されるわけだ。このとき付加される文字列は“DNSサフィックス”と呼ばれる。通常、DNSサフィックスはDHCPサーバーからIPアドレスを受け取ると同時に設定されるが、明示的に追加設定することもできる。コマンドラインから「ipconfig /all」と入力して「DNS Suffix Search List」の項を見れば、現在設定されているDNSサフィックスを確認できる。

つまり、DNSサフィックスとDNSサーバーの別名設定を少し工夫すれば、イントラネットに散らばるサーバーに端的な名前でアクセスできるようになる。それが“http://golive”などという、短くて一風変わったURLの正体だ。

これはURLが端的で覚えやすくなる、きわめて正しい運用だ。だが、それほど普及しているのだろうかと、ふとギモンに思うのである。

たとえばイントラネットで会社の人事部にアクセスするために、“http://jinji”でアクセスするようなことも、DNSサーバーとDHCPサーバーにエントリーを加えるだけで簡単にできる。“http://jinji”が“http://jinji.ascii.co.jp/”に展開されるようにし、さらにこのURLで示されるホスト名を、実際のサーバー名へとマップしておけば、“http://hoge.ascii.co.jp/jinji01/”などという長いURLを、ブックマークしたり覚えたりする必要はない。“http://jinji/naisen”として内線番号を調べたいではないか。さらに、Webサーバーのバーチャルホストを併用すればアドレス欄に「naisen」とだけ入力すればアクセスできるようになるし、国際化ドメインを使えば、いきなりブラウザーのURL欄に「内線」とだけ入力すればいいということだってできる。

「内線」ほど過激ではないにしても、ふつうの会社でマイクロソフトのように端的なURL名が、たとえばプロジェクトごとに付けられていたりするだろうか。

サーバー管理者であれば、このあたりは知っていて当然だろうと言いたいが、最近の“www”の扱いの混乱した状況を見ていると、そうでもないようにも思える。

Netscape全盛時代からブラウザーをお使いの人なら覚えているかもしれないが、昔、URLと言えば、必ず“http://www”で始まった。wwwはウェブサーバーのホスト名だったからだ。ところが最近はむしろ短いURLが好まれて“www”を省くのがトレンドだ。打つのが面倒だし、今さらwwwなどと指定しなくてもウェブに決まっているのだから不要というわけだ。古くからあるサイトでも、wwwがあってもなくても、両方オーケーというケースが多い。当サイトも“http://www.ascii24.com”でも“http://ascii24.com”でもアクセスできる。

ところが、たとえば“asahi.com”がそうだが、トップページにasahi.comという大きなロゴを掲げている割に、wwwを省いたasahi.comというURLではアクセスできない。wwwなしのURLに対応することの弊害があるとは思えないので、これは単に「設定していないだけ」なのではないだろうか。ほんの1行か2行、テキストエディタで設定を編集するだけというのに。

wwwありのURLは、実在のホスト名を指すが、ドメイン名というのは本来実体のない抽象的な存在だ。だから、wwwなしのドメイン名そのものをアクセス可能なURLとして設定するというのは、従来の設定方法から比べると、ややトリッキーではある。しかし、「もう時代は変わった。こっちのほうが便利だらかいいんじゃん?」というノリで変えてしまうルーズさ、またそれができてしまうという、いい意味での仕様の曖昧さこそ、インターネットの重要な本質ではないだろうか。インターネットが活力を失わずに進化を続けられているのはガチガチに仕様が決まっていないこと。だとしたら、wwwなしがWeb2.0的だ。

wwwある/なしURLは、ちょっとした設定で変更できる。それすら行なわれていないところを見ると(たとえば大手メーカーのco.jpのサイトで試してみてほしい)、案外イントラネットでの短いURLというのも活用されていないのかもなと思える。

少しでも必要があれば、そのたびにDNSサーバーをゴリゴリと設定すれば社内のURLが簡便になる。そういうことをバンバンやって、社内のあちこちに張り出したり、缶ジュースにプリントしたりするマイクロソフトの社員というのは、やっぱり頭の柔らかいハッカーの集まりなのだ。と、謎のURLの悩みが豁然と晴れてから、妙に合点がいったのだった。

御社では社内報や掲示板に短いURLが書かれていますか?

(編集部 西村賢)


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