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1個5円の無線ICタグ量産化にめどが立った!?――“響プロジェクト”の報告会が開催

2006年09月26日 19時28分更新

文● 編集部 小西利明

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響プロジェクトの概要について説明した、日立製作所 響プロジェクト推進センタ 担当部長の桑名利幸氏
響プロジェクトの概要について説明した、日立製作所 響プロジェクト推進センタ 担当部長の桑名利幸氏

次世代電子商取引推進協議会(ECOM)は26日、東京都港区の機械振興会館にてセミナーを開催し、RFID(無線ICタグ)の普及促進のための技術開発を行なう研究開発事業“響プロジェクト”に関する報告会を行なった。同プロジェクトでは無線ICタグの低価格量産化の要素技術や、読み書き技術の研究開発を行ない、7月31日に完了した。

響プロジェクトは経済産業省の委託事業として、(株)日立製作所を中心に、無線通信技術、半導体技術、印刷技術に優れた企業からなる合同チームによって、2004年から開始されていた。大まかな目的は、無線ICタグ低価格化のための要素技術、大量生産体制の整備、国際標準規格との相互接続性確保などを通じて、無線ICタグの普及と発展に寄与しようというものである。特に低価格化については重要な課題と位置づけられていて、“月産1億個でひとつ5円”を実現するという困難なハードルがあった。

響プロジェクトの開発体制。日立が中核となり、大手電機メーカーや印刷会社などが参加した
響プロジェクトの開発体制。日立が中核となり、大手電機メーカーや印刷会社などが参加した
経済産業省 商務情報政策局 情報経済課長の藤原正彦氏
経済産業省 商務情報政策局 情報経済課長の藤原正彦氏

会の冒頭で挨拶を述べた経済産業省 商務情報政策局 情報経済課長の藤原正彦氏は、無線ICタグには企業の流通や物流を効率化させることで、日本の産業界の国際競争力を強化するものとして、期待されていると述べた。またプロジェクトが7月31日に完了したこと、無線ICタグに関する国際標準規格の規格化も、今年5~6月に制定されるなどを報告。こうした無線ICタグを取り巻く環境が発展してきたことを踏まえて、「無線ICタグをお使いになる企業が、自らの事業を冷静に分析して、それぞれの企業がタグを使ってどのような改善ができるかを考えるのが重要である」と、無線ICタグが開発段階から実用段階に進展したことで、利用する企業側の取り組みの重要性を訴えた。

プロジェクトの経過と成果の概要については、中核となって取り組んだ日立製作所から、響プロジェクト推進センタ 担当部長の桑名利幸氏により説明が行なわれた。プロジェクトの大まかな目的についておさらいしたうえで、桑名氏は開発された“イントレット”(※1)の仕様やリーダー/ライターの仕様、それらを用いた読み取り実験の成果と、試作品を用いた実証実験について簡単に説明した。プロジェクトは2004年に2年間の予定で始まり、結果的に予定どおりで終わったものの、途中では国際標準規格化の進展によって仕様の変更などもあり、ハラハラしたとのことだ。

※1 ICチップとアンテナ部が一体となった無線ICタグの本体と呼べる部分



プロジェクトのスケジュール表。2006年7月に開発完了した
プロジェクトのスケジュール表。2006年7月に開発完了した

響プロジェクトで開発されたICチップは、860~960MHzのUHF帯を使用(日本では952~954MHz)。3mの距離で読み取り、1mで書き込みが可能で、528bitの書き換え可能なメモリーを備える(ユーザーエリアバンクは240bit)。動作温度や湿度といった仕様は、紙ラベルの中に埋め込む使い方を想定しているという。

試作されたダイポールアンテナインレットの写真。長さ92mm、幅22mmの一回り小さな10cmインレットも作られた
試作されたダイポールアンテナインレットの写真。長さ92mm、幅22mmの一回り小さな10cmインレットも作られた

また同社工場のベルトコンベアーを利用した移動中の物体に付けられた無線ICタグの読み取り実験の成果や、低コストでの大量生産を実現する生産ラインについても簡単に解説された。生産ラインについては、同社独自の非接触型ICチップ“ミューチップ”のインレット製造技術も活用されているという。プロトコルに最適化した実装によるチップコスト削減と、低コスト大量生産技術の開発により、プロジェクト開始時には“月産200万個で30円”だった価格も、目標の月産1億個で5円を実現できる見通しがたったとのことだ。

同社研究施設で行なわれた読み取り実験の様子。タグが貼られた箱をベルトコンベアーで移動させ、移動しながら周囲に設置されたアンテナで読み取る
同社研究施設で行なわれた読み取り実験の様子。タグが貼られた箱をベルトコンベアーで移動させ、移動しながら周囲に設置されたアンテナで読み取る

そのほかには、(株)ルネサステクノロジ 汎用デバイス事業部 RF-ID開発センタの西井也寸志氏からは、ICチップの仕様についてや低コストインレットの製造方法についての説明が行なわれた。インレットの低コストでの加工は当初困難で、目標の5円実現は難しいかと思われたが、家庭でも使われるアルミ箔を元に、プレス加工で打ち出し成形するという技術を開発。低コスト化に道筋を付けたという。またこの生産ラインでは、最終的にインレットが貼り付いたテープをロール紙状に巻くところまで自動化しているが、ICチップをアンテナにつけたインレットができた時点で検査を行ない不良品をはじき出すため、テープ化されて出荷したものには不良品が混在しないという利点もあるという。

このほかにも、リーダー/ライターを開発した八木アンテナ(株)による評価用リーダー/ライターについての説明や、日立による読み取り評価試験についての説明なども行なわれた。また各実証実験についての報告も多数行なわれた。なお響プロジェクトに関する報告書は、下記の経済産業省のウェブサイトにて公開の予定である。

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