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【ちえものづくり展 Vol.3】音叉を応用した髪の毛1本が量れる重量計


2006年9月29日

安定した周波数を出す音叉(おんさ)には、楽器のチューニングに利用される以外にも用途があった。新光電子(株)が開発した音叉センサーは髪の毛1本の重量の違いまで量り分ける超高精度の電子はかりだ。開催中の、ちえものづくり展からレポートする。

音叉式電子はかり
音叉を用いて精密に重さを量る電子はかり

天体望遠鏡“すばる”には261個の音叉が利用されている!

国立天文台が2000年にハワイ島マウナケア山頂に建造した光学式赤外線望遠鏡“すばる”には約261個の音叉が用いられている、と言ったら驚くだろうか。

すばるの反射鏡は直径8.3m、厚さ20cmの超低膨張ガラスで作られているが、重量23トンと、あまりに自重があるために鏡面がひずんでクリアな映像が得られなくなる。この歪みを補正するために鏡面下部には261本のアクチュエーターが取り付けられているが、観察する天体の方向に合わせて鏡面を動かすため、どの程度補正するかは加重の変化を検知してフィードバックしなければならない。そこで要求される重量計測のスペックは100kgの加重に対して1g単位の精度という厳しいものだという。標準的な力士が体重100kg、名刺1枚が1g程度なので、相撲取りが名刺を1枚受け取ったことが重さの変化で正確に計測できる、という非常に高い精度だ。

すばる概念図
すばるにも使われている音叉式センサー

加重が加わると音叉は周波数が変わる

すばるの高い性能要求に応え、みごと採用されたのが新光電子(株)の音叉式センサーだ。新光電子は、世界で初めて音叉を応用した電子はかり“VIBRA”シリーズを販売していることで知られる。

音叉は一定した周波数の音波を出すが、上下方向に加重が加わると周波数(音程)が大きく変化する。このとき、加重と周波数の関係が、きわめて一定していることから、この原理を応用すれば精密な重量計が作れることが知られていた。

原理自体は知られていたが、1983年に新光電子が音叉式電子はかりを発表するまで、誰も実用的な音叉式電子はかりを作ることはできなかった。新光電子も、実用化には長い時間と試行錯誤が必要だったという。音叉パーツの内耳器官のような不思議な形状を見れば、なるほど試行錯誤の末にたどり着いたとわかる。この音叉センサーは、発明から20年ほど経った2002年に第27回発明大賞を受賞している。理論は分かっていても、誰も作れなかったのだ。

音叉パーツ
これが音叉パーツ。まるで動物の内耳器官のようだが、その形状の1つ1つにノウハウが詰まっているという
音叉式電子はかりの測定原理
音叉式電子はかりの測定原理。引っ張りの強さにしたがって音程(周波数)が変化する

ちえものづくり展では、実際の電子はかりや動作原理を説明するパネルのほか、新光電子の開発担当の方の話が聞けるビデオなどを見ることができる。

ちなみに気になって髪の毛の重さも量ってみました

展示会場で、この電子はかりがどのくらい精密なのか知りたくて、ちょっと試してみた。10円玉を入れて重さを量り、続いて頭からブッと髪の毛を引っこ抜いて10円玉の上に置いてみた。抜けた髪の毛は3本だった。

10円玉を計測
10円玉を計測。公式重量は4.5gだが、やや軽い。摩耗かキャリブレーション不足のための誤差か
髪の毛を追加して計測
髪の毛を3本ほど無造作に置いてみた。約0.0026g重いという表示

毛は壁面にあたっているから、なんの測定にもなっていないかもしれないが、それでも0.0026gの差となって表われた。1本が約0.00087g。汚らしいので大きな声では言えないが、周囲にひと目がないのをいいことに10円玉を鼻の頭にこすりつけ、鼻の脂をべっとり塗った10円玉も載せてみたら確かに少し重くなり、ハンカチでキレイにぬぐうと軽くなった……。

ちなみに精密な重量測定を行なうための電子はかりは、使用地域に持って行ってからキャリブレーションを行なう必要がある。地球が球形ではなく赤道付近がふくらむ楕円球となっているために、緯度によって微妙に重力の強さが異なるからだ。重力の強さを示す重力加速度は、北海道の稚内で9.806426m/s2、沖縄の那覇で9.790959m/s2と、3桁の精度でも結果が変わってくるほど開きがある。このため最近の精密な電子はかりは、内部に正確な重さの分銅を内蔵し、利用前に自動キャリブレーションが行なえるようになっている。

冒頭で相撲取りと名刺の例を出したが、すばるで求められた6桁の精度というのは、同じ質量の物体を10m高く持ち上げたときに変化する微妙な重力加速度の違いと同程度だとも言える。音叉式電子はかりに10円玉を載せて東京タワーのエレベーターに乗れば、標高による重力加速度の変化のために、展望台に着くころには下1桁が変化するはずだ。そんなすさまじい精度の電子はかりは、職人技とも言える金属成形技術と試行錯誤の知恵が詰まった音叉パーツに支えられている。

(編集部 西村賢)


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