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P2Pファイル共有vsレコード業界 ハッカー戦争が勃発する?


2002年8月1日

P2Pの音楽ファイル共有ネットワークに対し、ハッキングを合法化して違法行為を妨害しようという恐ろしい法案が7月末、米下院に提出された。歌手や写真家、映画会社などの著作権保有者が、ハッキングツールを使ってP2Pネットワークに侵入し、ファイル交換などの違法行為を妨害するのを認めるというものだ。もし法律が成立することになれば、モーフィアス(Morpheus)カザー(KaZaA)などのファイル共有ソフトを使っているユーザーの自宅のパソコンがある日突然、大手レコード会社や映画会社から侵入された――という凄いことが起きそうだ。

モーフィアスの画面
中央サーバーを介さないP2Pファイル共有が人気を呼ぶモーフィアスの画面

この法案を提出したのは、ハワード・バーマン(Howard Berman)氏とハワード・コーブル(Howard Coble)氏、ラマー・スミス(Lamar Smith)氏、ロバート・ウェクスラー(Robert Wexler)氏の4人の下院議員。下院で法案の説明をしたバーマン議員は、こんなふうに語った。

「何百万もの音楽ファイルのダウンロードが毎日のように行なわれ、クリエイターたちは何の補償もないままたいへんな損害を被っている。こうした海賊行為には何の正当性もない。レコード店でCDを万引きするのも、モーフィアスで音楽ファイルを違法ダウンロードするのも同じこと。泥棒は泥棒だ」
「ファイル共有ネットワークを支えているP2Pのテクノロジーはすばらしい。コンテンツを多くの人に合法的に配布できるようにするなど、潜在的な能力は大きいと思う。しかしコンテンツをP2Pネットワークに流すかどうかは、クリエイターが判断すべきで、海賊的に行なうべきではない。P2Pの海賊行為は断固として排除しなければならない」

そしてこの法案は「クリエイターたちがみずからの財産を自らの手で守る権利を認めるものだ」という。衛星放送会社は、スクランブルをかけるなどして放送内容を勝手に見られないようにするテクノロジーを利用している。ソフトウェア会社だって、ライセンスがなければ利用できなくなるようにしている。それなのに、なぜレコードや映画などの著作権の保有者は何のテクノロジーも使えないのか――というわけだ。「どのような法律も、P2Pの海賊行為を根絶することはできない」とバーマン議員。実際、ポスト・ナップスター(Napstar)時代にもっとも人気を集めているモーフィアスは、中央サーバーを介さないのが特徴。サーバーを停止させるなどの方法では、排除できない。「しかし、P2Pのファイル共有から著作権を守る手段をクリエイターたちに与えることは、根絶に向けた第一歩だ」

とはいえ、誰でも予想できるとおり、もしこんな法律が拡大解釈されたらたいへんなことになる。ハッキング行為がネットの中に蔓延する事態にもなりかねない。インフォワールド誌は「法案によって、アメリカレコード協会(MPAA)や全米レコード協会(RIAA)といった強力な圧力団体に、ファイル共有を行なっているユーザーへのハッキングの権限を与えることになる」と批判している。またサンフランシスコ・クロニクル紙も「法案は“自警団ハッカー”の跳梁を許すことになる。また巨大エンターテインメント企業が個人のパソコンに侵入することを許し、結果的にはきわめて重要な新しいコンシューマーテクノロジーの発展を阻害することになりかねない」と指摘している。

そもそもこの法案を提出した議員4人のうち、代表的な立場のバーマン議員はカリフォルニア州選出の民主党員。現地の情報に詳しい関係者に聞いてみると、「バーマン議員の行動は、明らかにハリウッドの意見を代弁している。ハリウッドの大手フィルムメーカーやレコード会社はいま、P2Pネットワークに対してたいへんな危機感を抱いている。P2P根絶のために多方面のロビイスト活動をホワイトハウスや議会に対して進めており、今回の法案提出はその一環といえる」という。

さて、実際にどのようなハッキングツールが利用できるのかは、法案には明記されていない。しかし上院で法案の説明をした際、バーマン議員は「spoofやfile blocking、decoyのようなハッキング手法が海賊行為を防ぐのには有効だ」とコメントしている。実際、P2Pネットワーク上に偽の音楽ファイルを氾濫させ、ファイル共有を妨害してしまうspoofのような手法は、すでに巨大エンターテインメント企業の手によってひそかに行なわれている。その他のハッキングツールも、すでに使われていてもおかしくはない。

しかし、ハッキングツールをこんなふうに使ってしまうことは、1986年に施行されたコンピューター詐欺防止法などに違反することになる。バーマン議員は「きわめて限定された局面でだけ、こうした法律に例外を認めることになる。著作権所有者にコンピューターウィルスを使わせて人々のパソコンを破壊させるとか、そんなことを認めるわけじゃない」とコメントしているのだが……。「著作権新会社に対して石を投げつけるのを認めても、逆にもっと大きな石が投げ返される結果に終わるだけじゃないか? これがいい方法だとは思えない」。サンフランシスコ・クロニクル紙は、ネット上の著作権侵害を監視しているベイTSP(BayTSP)CEO、マーク・イシカワ(Mark Ishikawa)氏のこんなコメントを紹介している。

いっぽう、全米レコード協会はこの法案が上程されたことに大喜びだ。同協会のレコード業界グループ議長、ヒラリー・ローゼン(Hilary Rosen)氏は「現在のオンラインでの音楽の利用のされ方は、あまりに一方的だ。P2Pで海賊行為を楽しんでいる人は、不公平な利益を受けている」とコメント。またMPAAの関係者は、サンフランシスコ・クロニクル紙の取材に「法案はP2Pのファイル共有ネットワークだけじゃなく、もっと範囲を広げて掲示板やチャットでの違法行為も対象に含めるべきだ」と語ったという。

(編集部 佐々木俊尚)


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