ASCII24 / インサイドストーリー
米スターバックスの無線LANはかなり高額! 普及の道筋は?
2002年9月13日
スタバの無線LAN料金は日本の倍!
8月末、全米のスターバックスコーヒーで、無線LANの接続サービス“T-Mobile HotSpot”がスタートした。サービスの主体は、ドイツテレコム傘下のTモバイルUSA(T-Mobile USA、旧ボイスストリーム・ワイヤレス)。これにスターバックスとヒューレット・パッカードが協力した。
通信方式はIEEE802.11bで、日本でも一般的に利用されている無線LANと同じ。インフラは、Tモバイルのバックボーンを介したT1ネットワークを各店舗に引き込んでいる。接続ソフトは、自動的にアクセスポイントを検知して接続してくれるフリーウェア“Wireless Connection Manager”をHPが用意した。そして問題の料金は、次のようになる。
- 全米どこでも利用できる定額料金は、月額49.99ドル(約6000円)。
- 自分の利用する都市に限定するなら、割引定額料金は月額29.99ドル(約3600円)。ただし他の都市で一時的に使う場合は、1分15セント(約18円)の従量料金が必要。
- プリペイド料金は、120分で20ドル(約2400円)または300分で50ドル(約6000円)。
- 完全従量制を選ぶ場合、15分で2.99ドル(約360円)。
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無料で無線LANが使える東京・西新宿の“カフェ ラ ヴォワ”。米スターバックスと比べると…… |
見ればわかる通り、日本のホットスポットサービスと比べるとかなり高額だ。日本ではたとえばNTTコミュニケーションズ(株)の“ホットスポット”が、契約料1500円で月額1600円の完全定額制。モバイルインターネットサービス(株)の“Genuine”は、初回事務手数料が2000円で月額2400円(年間契約の場合1年24000円)となっている。米Tモバイルのサービスは、ほぼ倍の値段だ。
サービスの充実度はどうだろうか。無線LANのシステムそのものはどれも802.11bで、ほぼ同じ。しかし、使える場所の数を見てみると、NTTコムの場合、サービス提供場所は23区内のモスバーガー店舗を中心に、現在約250ヵ所弱(9月現在)。これを今年度内に1000ヵ所にまで増やす計画だ。
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スターバックスで無線LANサービスを開始した米Tモバイルのウェブサイト |
いっぽう米Tモバイルは、全米1200のスターバックス店舗でサービスをスタートした。年内にはこれを2000店舗に拡大する計画だ。都市別の内訳はどうだろうか。たとえば東京と同じ都市規模のニューヨークを見ると、空港とスターバックスをあわせて計216ヵ所。サンフランシスコは243ヵ所だ。これを東京でのサービスと比べて多いと見るか少ないと見るかは、人によって見方が分れるだろう。たとえば日本の東京に住んでいて、ハンバーガーを常食にしている人なら、NTTコムのホットスポットは悪くない環境といえる。しかし、ハンバーガーよりシアトル風のエスプレッソが好きで、首都以外のどの都市でも無線LANを使いたいと考えている人にとっては、Tモバイルのサービスは魅力的に映るかもしれない。
しかし、このスターバックスでのサービスが米国での無線LANホットスポット普及の起爆剤になるかといえば、かなり怪しい。Tモバイルはウェブサイトで「今後2年間に5万人の加入者を目指している」とコメント。また同社のマーケティング担当、フランク・ラミレズ(Frank Ramirez)氏は、ボストングローブ(Boston Globe)紙の取材に「サービスの主なターゲットは、車で移動するビジネスマンだ。それから不動産業者のように、地域でモバイルコンピューティングを駆使して仕事をしている人も。こうした人たちはスターバックスで、顧客と一緒にパソコンでさまざまな情報を見たいと考えているはずだ」と話している。
しかし複数の米メディアは「スタート後にスターバックスに行ってみたが、無線LANを使っている人などほとんど見られなかった」と揶揄している。また、コストの問題を指摘する声もある。全米2000ヵ所もの店舗にT1接続を張り巡らせるのは、かなりのコストがかかる。どの程度の利用者数が損益分岐点になるのかは公開されていないが、果たして高コストなネットワークを維持できるほど、会員が集まるのだろうか、というわけだ。
そこで再び注目が集まっているのが、“フリーネット”“ワイヤレス勝手連”などとも呼ばれるフリーな無線LANのネットワークだ。ADSLやCATVのブロードバンド接続を利用している市民が、みずからの回線を無線LAN経由で開放し、不特定多数の人に使ってもらおうという市民運動的ムーブメント。以前“無線LANでインターネットに自由を”という記事でもお伝えしたが、米国ではこのムーブメントが大きなうねりとなって広がりつつある。
現地の事情に詳しいあるアナリストは、次のように語る。
「フリーネットの影響で、都市部では無線LANを自由に使おうという意識が高まりつつある。特に注目すべきは大学生の層。彼らは学内では大学が用意したアクセスポイント経由で、無線LANを無料で自由に使うのに慣れきってしまっている。そうした人たちが卒業後、いきなり月額6000円も払って無線LANを使うことに抵抗がないはずがない。今後、相当の数の人たちがフリーネットに流れていくことが予想できるのではないか」
しかしフリーネットが普及することは、必ずしも善とは言い切れないという。このアナリストは「インターネット上のコンテンツは無料であるという常識が蔓延してしまったことで有料化が阻害され、結果的に質の良いコンテンツの出現を阻むことにもなってしまっている。無線LANビジネスの将来を考えれば、ある程度は有料化を進める必要もある」と指摘するのだ。
「日本は無線LANの囲い込み競争に走っている」
さて、そうなると日本では今後どうなるのだろうか。
スターバックスコーヒージャパン(株)はソフトバンクグループと組み、全国29店舗で無線LANサービス“Yahoo! BBモバイル”の実証実験を始めている。だが米国と同様のサービスを始めるかどうかに関しては、「社内の検討議題には上がってはいるが、実際にスタートさせるかどうかでさえ現状では完全な白紙。まだ何も決まっていない」(広報担当)という状態だ。NTTコムやモバイルインターネットサービス、NTT東日本のMフレッツといった商用無線LANサービスもまだ端緒についたばかりで、まだ普及しているとは言い難い段階だ。
フリーネットについても、“無線LANでインターネットに自由を”の記事にもあるように、散発的に活動をしているグループはあるが、まだ組織的にはなっていない。ただ、そんな中で周辺機器メーカーのメルコが“FREE SPOT”というコンセプトを打ち出し、注目を集めている。このFREE SPOTは、同社の無線LANアクセスポイント『WLAR-L11G-L-FS』と訪問設定サービス、ステッカーやポスターなどをセットにして3万9800円で販売し、買った人に自由にフリーネットを作ってもらおうというビジネスだ。『WLAR-L11G-L-FS』は市販の同製品のファームウェアを書き換え、接続している他のユーザーとの間の通信を禁止したり、接続できる時間をタイマー設定できるなど、フリーネットに特化した機能を追加している。ただ、ADSLやCATVなどのブロードバンド回線は、ユーザー側が自分で用意する必要がある。
無線LAN機器のメーカーであるメルコとしてはもちろん、自社製品の販売促進の狙いもあるのだろう。だがメーカー側からこうした動きが出てきたことは、市民にとっては歓迎すべきできごとではないか。FREE SPOTを推進している同社新事業推進室の青木洋之氏に、話を聞いた。
[ASCII24] FREE SPOTを始めた背景には、やはり米などで高まっているフリーネットの機運と関係があるのでしょうか。
[青木氏] どこの国でも無線LANの有料化を考えているけれど、有料が成功するかどうかは微妙だと思います。ローミングの問題もある。各無線LANキャリアー同士で課金した取り分を、どうやって配分するか。仲介の企業も含めれば、3社でユーザーから集めた金を一定比率で配分しなければいけない。いろいろ考えていくと、たいへんなわけです。
そんな中で、メルコでFREE SPOTというのをスタートさせたわけです。これはわたしたちとしては、サービスでも製品でもなくコンセプトだと考えています。もちろん、会社のビジネスですから販促効果も考えています。しかし本当の目的は、無線LANのフリーな環境を世の中に早く作りましょうということ。だからメーカーや通信会社に参加していただいて、FREE SPOT協議会という団体も作りました。
[ASCII24] 日本ではホットスポットの普及はこれからですね。
[青木氏] 日本ではISPや通信会社の主導で無線LANのサービスが始まっていますが、顧客の囲い込み競争に走っているのが現状です。お互いのサービスに互換性もなく、今後ローミングも難しいのではないかと感じている。それに値段も高いですよね。わたしは月額2000円といった値段はやはり高いのではないかと思っています。
[ASCII24] 適正料金があるとしたら?
[青木氏] ISP料金に加えて、月額300円ぐらいじゃないですか。これは単純な計算ですが……。たとえばいま、1ヵ月常時接続で5時間ぐらい使う人がいると仮定します。こうした人は、外出先でネットを使うのは30分前後。現在、ADSLが月額3000程度ですから、30分/5時間と考えると、外出先で使う無線LANは300円程度が適正なのでは。そういう意味で、NTT東日本のMフレッツはユーザー側の料金が月額200円でちょうどいい感じですね。ただMフレッツの場合、導入する側にたいへんなコストがかかります。アクセスポイント代や工事費を含めると、20〜30万円。集客効果が見込める店舗はともかく、個人で導入できる金額ではありません。
[ASCII24] となると、FREE SPOTは先行する無線LANキャリアと対決する存在になるのでしょうか。
[青木氏] キャリアの有料サービスと真っ向から対決するつもりはありません。共存して、使える場所がそれぞれにたくさんあれば、人々にとってはいちばん良い結果といえるのではないでしょうか。
[ASCII24] 米国のISPの多くは、会員が回線を不特定多数に使わせることを禁じており、これがフリーネット実現の障壁のひとつになっています。日本ではまだそこまで問題になっていませんが、今後は問題が顕在化してくる可能性もありますよね。FREE SPOTはユーザー側がブロードバンド回線を別途用意するわけですから、いつかISP側から抗議されるかもしれない。
[青木氏] そこは難しいところです。現状では導入する人に判断していただくしかない。ただ、FREE SPOTを導入することでブロードバンド回線がさらに売れる、というビジネス的な計算もISPにとっては成り立ち得るのではないでしょうか。
[ASCII24] FREE SPOTを推進していくうえでの課題は?
[青木氏] 難しいのは、無料で自由に使えるというユーザーの利便性と、犯罪の誘発などの相反する問題にどう対応していくかということ。たとえばFREE SPOTから、ネットの匿名掲示板に名誉毀損にあたる書き込みをされた場合、どう対応するか。そうした問題も模索して考えていかなければなりません。そうした点を今後、協議会で検討していこうと考えています。
[ASCII24] 有料無線LANとフリーネットはどう共存していくのでしょう?
[青木氏] 基本的に、ビジネスなどで使うハイクオリティーのものは有料でもいいと思います。ただ、有料を日ごろ使っている人も、無料の場所に行けば無料で使えるという自由な環境の実現が理想的だと考えています。
FREE SPOTを実際に導入した東京・西新宿の喫茶店“カフェ ラ ヴォワ”にも聞いてみた。
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カフェ ラ ヴォワの山本利男副店長 |
同店は老舗の“かどやホテル”の直営で、利用者は新都心のビジネスマンのほか、新宿西口電気街の客も多い。客席の一部には電源コンセントも用意されており、パソコンを使っている人を見るのは日常茶飯事だ。
フリーネットに限らず、ホットスポットの導入は店舗側にとっては集客を期待できるのと同時に、「客が無用に長居してしまうのでは?」という心配も生じさせる、とはよく言われることだ。だが同店の山本利男副店長は、「うちの店はもともと電源コンセントのあるテーブルが6席あり、その席が空いていれば、何時間でもパソコンを使っていただいてけっこう、というスタンス。そもそもパソコンを持っていなくても、うちのお客さんには長居する人が多いので、パソコンユーザーだけが目立つことはないですね」と言う。FREE SPOTの導入はおおむね好評で、利用者層としては日中は30〜40歳代の自由業風、夜間は50歳代ぐらいのビジネスマンが目立つという。
こうした店が今後、増えていけば無線LANが日本で爆発的に普及する原動力になっていく可能性もある。さて、どうなるだろうか。
(編集部 佐々木俊尚)
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