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ASCII24 / インサイドストーリー

暗礁に乗り上げる無線LANのホットスポット 有料化への長く遠い道


2002年11月14日

ホットスポットのビジネスが、大きな壁にぶつかっている。
ホットスポットとは、無線LANを使ってインターネットアクセスを提供するサービスのことだ。無線LANの基地局となるアクセスポイントは、ホットスポット会社が提携した飲食店やホテル、空港などに設置される。この種のサービスは、無線LAN機器が価格破壊を起こしはじめた昨年ごろから急激に注目を集めはじめ、今春にはNTTコミュニケーションズ(株)や有線ブロードネットワークス系列のモバイルインターネットサービス(株)などが有料サービスを開始。その後、通信キャリアやソフトバンクなどの参入も相次ぎ、次世代の通信インフラとして期待されている。

――と書いたが、実はそれほど楽天的な未来は今のところ開けていない。大半のホットスポットキャリアが、サービスの有料化を軌道に乗せられずにいるからだ。

経営さえも危うくなっている企業もあるという。
たとえばあるホットスポットキャリアのケース。内部の事情に詳しい関係者によると、同社はホットスポットの有料サービスをスタートさせたものの、会員数が数百人程度にとどまり、収益の面で厳しい状況に陥っている。資金繰りにも行き詰まり、親会社が売却先を探している段階だという。すでに一度、とある企業から買収の申し出を受けたこともある。このときは結局ご破算になったものの、会員数が今後増える見通しもほとんど立っていない現状では、どこかに売却するか、あるいは清算するしかないという。

この企業はかなり深刻なケースだが、他も似たり寄ったりと言ったら言い過ぎだろうか。
初期契約料1500円、月額利用料1600円で、その名もずばりの“ホットスポット”サービスを今年5月15日にスタートさせたNTTコミュニケーションズは、当初の記者会見で「2004年3月末までに加入者数10万人を獲得し,2004年度に単年度黒字を目指す」とぶち上げた。現在の加入者数は公表されていないが、状況はかなり厳しいらしい。実際、有料化前にHi-FIBEの名称で無料の実験サービスを行なっていた際は約8000人いた加入者数は、有料化で一気に1000人台にまで落ち込んだという。

NTTコミュニケーションズのホットスポットのウェブサイト
NTTコミュニケーションズのホットスポットのウェブサイト

同社のアクセスポイントの設置先のひとつになっているモスバーガー。Hi-FIBEのころは「近くの店舗に比べて2〜3%も客数が増加し、男性客も増加した。かなりの効果があった」((株)モスフードサービス広報室)と同サービスの集客効果に大きく期待していた。だが有料化してみると「各通信会社からさまざまなサービスが出てきているためなのかもしれないが、目に見えるような集客効果は出ていない。これから加入者数が増えるといいのですが……」(同)という有様だ。

アクセスポイントの展開についても、スタート時の150ヵ所を2002年度内に1000ヵ所にまで増やすとしていた。だが本サービス開始後、約5ヵ月経った今年9月末でのアクセスポイント数は約250。「年度内に1000アクセスポイントという数字はまだ旗を降ろしていない」(同社広報室)と言うものの、これから約6ヵ月の間に750もアクセスポイントを増やさなければいけない。これまでの2.5倍のペースが必要だ。厳しいのは間違いない。

こうした状況について、同社はどう考えているのか。NTTコミュニケーションズ広報室は「無料でホットスポットサービスを提供しているところが増えており、有料で勝負しているわれわれと競合してしまっている。しかし今後は、各社が提供している無料の実験サービスは実験終了後に有料化していくのではないか。その段階で初めてわれわれと同じ土俵で勝負できることになるのでは」とコメントする。

しかし、本当に有料化の波はやってくるのだろうか?

Tモバイルのホットスポットのウェブサイト
ドイツテレコムの子会社、Tモバイルのホットスポットのウェブサイト

米国での例を見てみたい。
米国では先ごろ、ドイツテレコム(Deutsche Telekom)社の携帯電話子会社、Tモバイル(T-Mobile)社が全米1200のスターバックス店舗でホットスポットサービスをスタートさせ、話題を呼んだ。今年中には2000にまで対応店舗数を増やすというから、相当な規模である。同社は「今後2年間で5万人の加入者を目指す」とコメント。車で移動するセールスマンや、不動産業者など地域密着型の営業マンをターゲットにしているという。しかしこれだけの規模にネットワークを張り巡らすのは、生半可なコストではない。

実際、Tモバイルより前にホットスポットの全米展開を仕掛けたベンチャー企業、モバイルスター(MobileStar)社は昨年秋に経営破綻している。基地局を急ピッチで増やしたものの、利用者増が投資負担の増加に追いつかなかったとされている。果たしてTモバイルはこのハードルを越えることができるのだろうか。

そして日米のホットスポットサービスを比較する場合、もうひとつ忘れてはならない要素がある。それは携帯電話データ通信サービスの普及度だ。その種のサービスが非常に乏しい米国では、無線LANのホットスポットサービスの魅力度はきわめて高い。しかしそんな米国でさえも、有料化のハードルはきわめて高いのが現状だ。

それに比べると、日本ではAirH"を代表とするPHSのデータ通信が充実している。ヘビーなモバイルユーザーの大半は、こうしたサービスを利用していると言っていいだろう。こうした携帯電話系のデータ通信サービスに比較すると、ホットスポットは実効速度や料金体系では大きなアドバンテージがあるものの、現状ではエリアが非常に狭く、魅力のあるサービスにはなっていない。そう考えると、日本でのホットスポット有料化のハードルがどれほど高いかが想像できるのではないだろうか。

もちろん日本のヘビーなモバイルユーザーも、多くは「使えるものなら、是非使ってみたい」と考えている。とは言っても、現状のエリア展開では「無料で遊び程度なら」という条件つきだろう。結局のところ、エリアが充実しなければユーザーは有料化についてきてくれない。しかしキャリア側から見れば、有料化しなければエリアが充実できない。タマゴが先か、ニワトリが先か――なんだかそんな悪循環にはまりこんだ趣さえある。しかしITバブル時代のように、遠い未来の収益を期待して莫大な投資をするほど企業には余裕はない。そもそも「まずは無料で実験的に提供し、勝算があると見れば有料化へ」といっニューエコノミー型モデルには、もう皆が辟易しているのだ。

そう考えていくと、ホットスポットの有料化にはかなりの暗雲が立ちこめているようにも見える。あるITアナリストは、こう分析する。「インターネットのコンテンツビジネスは立ち上がり段階で何でも無料化にしてしまった結果、ユーザーは誰も有料コンテンツを許容しなくなってしまった。ホットスポットも同じように、無料サービスがあまりにも普及してしまうと、有料化を阻害してしまう可能性は限りなく高い。しかし無線LANの健全な発展のためには、どこかの段階で有料サービスがきちんと認められ、普及していく必要があるのではないか」。
果たして有料ホットスポットは、無事に立ち上がるのだろうか。

(編集部 佐々木俊尚)




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