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【IT事件簿】“2ちゃんねる”が衰退していく?
2002年7月1日
掲示板サイト“2ちゃんねる”への書き込みで名誉を傷つけられたのに、管理者が削除に応じなかったとして、東京都内の動物病院と経営者の獣医師が管理者に500万円の損害賠償などを求めた訴訟の判決が6月26日東京地裁であった。地裁は管理者に、400万円の支払いと書き込みの削除を命じた。問題になったのは、2ちゃんねるの“ペット大好き掲示板”内の“悪徳動物病院告発”という書き込み。原告の病院名や住所とともに「ヤブ医者」「えげつない」「過剰診療、詐欺」などと書かれた。病院側は書き込みの削除を求めたが、管理者は応じなかった。判決では、管理者は問題のある記載を知った場合、直ちに削除などの措置を採る義務が生じる、と判断した。管理者側は控訴する方針。(6月27日付朝刊各紙の報道から)
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管理者が400万円の支払いを命じられた2ちゃんねるのトップ画面 |
同様の訴訟が続けば、2ちゃんねる存続の危機も
約330のカテゴリーに分かれ、1日あたり80万件の書き込みがある人気サイト、2ちゃんねる。今さら説明するまでもなく、「ハッキングから今晩のおかずまでを手広くカバーする巨大掲示板群」との触れ込みの国内最大級の掲示板サイトだ。開設は1999年5月。わずか2年余りで社会的にも大きな力を持つまでに成長した。しかし今回の東京地裁判決によって、2ちゃんねるの力が後退していく可能性もある。判決の持つ意味は極めて大きい。
そもそも2ちゃんねるの人気の理由は、誰もが匿名で好きな書き込みができることにある。匿名だからこそ書き込みの内容は本音になる。既存のメディアが決して書かないような本音や裏話だからこそ、面白い。ただ既存のメディアが裏付けを取ってから客観的に記事するのとは違い、裏付けがないまま個人的な思い込みや恨み、反感などから悪意のある書き込みも行われる。それが多くのユーザーの目に触れることになるだけに、今回のように裁判になったり、犯罪につながることにもなる。
実際、2ちゃんねるの書き込みをめぐってはこれまでも法的な問題は起きている。日本生命が会社を中傷する書き込みをされたとして、管理者に削除を求めたが応じなかったため、削除を求める仮処分を東京地裁に申請。2001年8月に地裁は削除を命じる決定をした。
さらに、2ちゃんねるに勝手に書き込まれた茨城県の女子中学生のIDとパスワードを閲覧、悪用してオークションサイトに不正にアクセスしたとして、2001年9月から10月にかけて全国各地に住む計8人が、不正アクセス禁止法違反の疑いで逮捕された。この事件では警察側が管理者に関連資料の提出を求めたが、管理者は拒否している。判決は、日本生命の削除要求に応じなかったことや、警察の捜査への協力拒否といったこれまで管理者が採ってきた態度が裁判官の心証を悪くした結果、ともとれる。
裁判の中で管理者側は、発言の真実性が分からない場合は削除義務はない、と主張。しかし判決では、2ちゃんねるの特性として、書き込みが匿名なため責任追及が困難で掲示板が膨大なことから管理者が常に監視することは不可能、などと指摘したうえで、名誉棄損の記載を知った場合は削除義務がある、と判断。さらに問題となった書込みについても、真実とも公益目的とも認められない、と認定した。簡単に言うと、書き込みを削除してほしい、という要請が書き込まれた側からあった段階で、管理者は削除しなければならないという訳だ。
となると、企業や個人は、自らが非難されたり中傷されたりする書き込みを見付けたらすぐに管理者に削除してほしい、という要請をすればいい。匿名であるがゆえ人気のある2ちゃんねるに、非難、批判、誹謗、中傷はあふれている。嫌がらせ的な書き込みをされながら泣き寝入りしてきた企業、個人も少なくない。
2ちゃんねるでは「××××(実名)逝ってよし」といった書き込みが多く見られるが、このように実名を挙げて中傷された場合、管理者に削除を求めれば、管理者は削除しなければならない、と今回の判決で明確に示された。削除要請が殺到し、それに応えていなければならなくなると、2ちゃんねるは存続できなくなる。書き込みに本音や裏話的な面白味がなくなるうえ、管理者側は削除作業に追われることになるからだ。
2ちゃんねるの書き込みを監視して悪質な書き込みがあった場合、企業に連絡するサービスをビジネスとして始めた広報会社もある。サービスは月額25万円で専門スタッフが毎日書き込みを調べ、企業に報告。誹謗、中傷にあたる書き込みについては、管理者に削除を求めるメールを送る対応を採るといった内容だ。こうしたサービスがビジネスとして開始されるという事実は、2ちゃんねるへの書き込みで困っている企業が多数あることの証明に他ならない。
存続がかかっているのだから、当然2ちゃんねる側は控訴するだろう。しかし今後、今回の判決によって、削除要請は一気に増えることだろう。それに対して管理者側はどのような対応をするのだろうか。判決が確定した訳ではないことを理由に、裁判で主張してきたように、発言の真実性が分からない場合は削除義務はない、として削除しないかもしれない。しかし今回の判決に勇気付けられた企業や個人から、次々に訴訟を起こされる可能性もある。
あるネット関連会社の社長は、「いずれにしても2ちゃんねるは資金が底をつけば終わり。あまり知られていないことだが、2ちゃんねる内部関係者によると今、大手通信会社系が調査費名目で資金提供している。だが、それが止まれば続けてはいけないだろう」と証言する。2ちゃんねるが判決によって力を失った場合、資金提供の打ち切りも予想される。
ただ、実際に管理者側が控訴した場合、勝訴してもおかしくない判例もある。パソコン通信時代のニフティの電子会議室をめぐる裁判で、会議室に書き込まれた文書で名誉を傷付けられたとして、ニフティと会議室の運営責任者、書き込みをした相手に対して起こされた1000万円の損害賠償訴訟。東京地裁は1997年、名誉を棄損する書き込みを知った場合に運営責任者は削除する義務がある、として運営責任者、ニフティ、書き込みをした相手に計10万円の賠償を命じた。しかし、ニフティと運営責任者らは控訴。2001年9月に東京高裁は、運営責任者とニフティに文書削除の義務はない、として地裁判決を取り消した。
今回の裁判も高裁で逆転があるかもしれない。とはいえ、ニフティ裁判の場合は、名誉を傷付ける発言をした相手が特定されているうえ、判決では運営責任者が削除しなかった理由として、会議室の中で議論の積み重ねによって発言の質を高めるとの考えがあり、書き込みをした相手にも注意を促した、と認定している。今回のような誰とも知れないユーザーが勝手に書き込んだ内容で注意もしていない、というのとは根本的に状況が異なる。管理者側は控訴したからといって、決して楽観はできないだろう。
(麻河紀人)
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