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【IT事件簿】“ワン切り”でいちばん儲かっているのは誰?


2002年8月2日

「折り返し率が高いのは、ドコモのユーザーだ」

大阪府全域と兵庫県尼崎市で7月29日午前10時過ぎ、電話やファクスがつながりにくい状態になった。通話量が異常に増大したことからNTT西日本が電話交換機に発信規制をかけたため。516万回線に影響が出て、通じにくい状態は最大で4時間半続いた。NTT西はいわゆる“ワン切り”業者による大量の発信が原因と断定し、大阪市北部のこの業者の回線を切断した。同じ地域では7月15日の同じ時刻にも同様の通信障害が発生。この時も同じ業者による発信が原因だった。さらにNTT西は8月1日、同じ業者に対し、再度大量発信を行ない通信障害が起きる恐れが出たとして、業者の回線を2時間切断。障害が起きる前に切断したのは初めて。(各紙の7月29日、8月1日の報道から)

警視庁のウェブサイト
ワン切り電話への注意を呼びかける警視庁のウェブサイト

単純な仕組みにだまされる

発信者の電話番号を表示する携帯電話の機能を悪用し、誰からの電話だろうと不思議に思ったユーザーに電話をかけ直させて有料の音声サービスに誘導する“ワン切り”。昨年秋ごろからトラブルが表面化した。通信事業者などが注意を促した結果、かけ直して被害に遭うユーザーは減少しているとみられるが、ワン切りの電話そのものは減る気配がない。ここに来てついに、他の電話利用者に大きな迷惑を及ぼす通信障害を、2度にわたって引き起こした。

ワン切りの仕組みは単純だ。(1)パソコンなどから機械的に無作為に電話をかけてワンコールですぐに切る(2)ユーザーがかけてきた折り返しの電話に音声情報を流す(3)電話してきたユーザーに料金督促の電話を繰り返しかける――。ただこれだけ。着信履歴に残る見知らぬ電話番号。つい折り返し電話したくなる携帯電話ユーザーの心理を巧みに突いている。しかし決済手段は、電話で料金を請求して口座に振り込ませるという極めて原始的な方法。折り返しの電話に流す情報の中で、これを聞くと1分100円かかる、などとアナウンスしたことだけをとらえて、カネを払え、と要求しているのが実態だ。

こんな子供だましのようなシステムなのだが、引っ掛かってしまうユーザーが続出した。確かに深夜早朝にかかってきた電話は、何か緊急な要件かも知れないと思うだろう。日中だと、仕事の取引先かもしれない、と感じてしまいがち。デジタル系の事情に詳しくないユーザーなら、条件反射的に折り返してしまうこともあるだろう。しかも、音声を聞いたからと言って料金を支払う必要もないのだが、督促の電話は「払わないと訴えるぞ」などと脅すこともある。ついつい銀行に振り込んでしまうのだ。

ドコモユーザーを狙い打ち?

あるITコンサルタントは、ワン切り業者の話としてこう証言する。「ワン切りは家庭の固定電話あてにかけてもいいのだが、発信者表示の利用は有料なため導入している家庭が少ない。携帯電話だと今ではほとんどの機種に最初から発信者表示機能が付いている。まず狙いは携帯電話」と前置きして「携帯電話の中でも最も折り返してくる割合が高いのがNTTドコモのユーザー。ドコモの携帯電話に絞って発信するワン切り業者も多い」と言うのだ。ドコモユーザーの折り返し率が高い理由としては「auは、学生割引があって若いユーザーが多い。J-フォンは都市部のユーザーが中心。どちらもワン切りを知っているユーザー層になってしまう」と言い、「その点ドコモは地方のお年寄りや、あまりIT事情に詳しくないユーザーが少なくないから、業者としては最適らしい」

確かに、感覚的にではあるがワン切りはドコモユーザーあてが他の事業者の携帯電話あてより多いように感じられる。携帯電話の通信事業者別の番号情報は、容易に手に入れることができる。携帯電話のメモリー編集ソフトにすら、電話番号を登録すると自動的にその番号の通信事業者を自動的に表示する機能が搭載されている。ドコモユーザーはなめられたものだ。

と、ここで、迷惑メール受信料でばく大な収益をあげたのと同じように、ドコモはワン切りによる折り返し電話によって、相当もうけていることに気付くだろう。ワン切りは、着信した側が受ける前に切れるため、NTT東西は発信者から電話料金を徴収できない。そのうえ、今回のように自らの交換機をパンクさせられてしまう。ところが、ドコモは折り返し発信による通話料を、ユーザーから全額徴収しているのだ。

ドコモのもうけがどの程度になるのか、を考えてみる。ネット調査会社のマクロミルが6月に発表したアンケート結果によると、ワン切りを受けた経験者は92.2%で、そのうち66%は週に2回以上かかっていた。調査実施は5月。横浜国立大付属横浜中学の生徒らが総合学習の時間に街頭で調査した結果によると、9割がワン切りを受け、2割は折り返してみた、という。

ドコモの携帯電話ユーザーは6月末で4146万人。4000万としてその9割は3600万人。その2割がかけ直したとすれば、720万人。折り返した電話をすぐに切ったとしても、10円の通話料がかかり、最低でも7200万円の通話料がドコモにころがりこむ計算だ。何度も引っ掛かるユーザーはさほど多くないとしても、簡単に見積もってもこれまでにドコモはワン切りのかけ直しによって1億円以上は手にした、と推測できるのではないか。


“魔の月曜午前10時”がやってくる

さて、今回の通信障害については、起こるべくして起きた、と言える。逆にこれまで起きなかったことが不思議なくらいだ。今回の業者はNTT西のINS1500を引き、光ファイバー回線によって216回線分を使って、3分間当たり2500〜4000回の発信を、一日中繰り返していたという。そして7月15日の午前10時過ぎ。週明けで、大阪に残る商習慣の集金や支払いを行なう“5・10日(ごとうび)”にあたっていたため、一般の通話が増加、通信障害となった訳だ。その後、NTT西は、この業者に発信を控えるよう警告し、通信状況を監視していた。しかし業者は大量発信を止めなかったため、2週間後、7月29日の月曜午前10時過ぎ、同じことが起きた。

一般の電話回線は、回線の容量を超える通話が発生すると、回線がパンクしないよう交換機が規制機能を働かせて、通信量を抑える仕組みになっている。15、29日とも、業者による大量のワン切りコールで通信量が増大したため、通信を規制。他の電話がかかりにくくなったのだ。NTT西は、業者の回線を切断するという異例の措置を採った。15日の際は、NTT西の約款にワン切りを規制する条項がないため、回線切断はできなかった。だが、NTT西はその後の警告で、回線中止もありうることを通告。29日に再度同様の事態を引き起こしたことから、回線を切断した。

とはいえ、NTT西はこの業者との電話の契約を解除することはできない。回線切断が解かれればこの業者は再び、大量発信が可能になる。29日も9時間で切断は解かれた。再び回線が利用できるようになった業者は、再度大量発信を行なった。そのためNTT西は8月1日午前10時25分、通信障害が起きる恐れがあるとして、実際に障害が発生する前に回線を切断した。

29日の通信障害を受けて、NTT持ち株会社の和田紀夫社長は同日の会見で、ワン切りに対応するよう約款を改定する指示をNTT東西に出したことを明らかにするとともに、総務省に対して、法整備を求めた。総務省は片山虎之助・総務相が30日、早急に約款を変更して対応するよう通信事業者に求めたほか、それでも被害が多発する場合には法整備を検討する、との考えを示した。NTT東西は8月1日、通信障害の恐れがある場合に事前警告なしで回線を切断できるようにするよう約款改定を総務省に申請した。対策に向けて着々と進んではいるようだ。また保守党は7月31日、ワン切り業者の利用停止や、規制する法案の秋の臨時国会提案を求める党の決議文を、片山総務相に提出した。

わいせつ物陳列罪で摘発

ワン切りには、それを規制する約款も、法律もない、というのが実情。もともとワン切り自体は、通信料を減らしたい若者の間で、簡単な連絡用に利用され始めた。例えば、これから家を出て待ち合わせ場所に向かう意味だったり、いわゆるカエルコールの代わりに、夫が妻の携帯あてに1回コールして切る、といった利用法だ。ワン切りそのものをとらえて法律で規制することは、これまでの電話利用実態から見て合わない。今回の業者のように大量に発信して他の通信に影響を与えた場合、が想定されるだろう。

これまでもワン切り業者の摘発はあった。しかしこれも、この種のIT系犯罪の摘発手法として警察が得意とする、別の法律による検挙。警視庁は、ワン切りによって電話をかけ直したユーザーにわいせつな音声を聞かせていたとして東京都目黒区の情報提供会社の男の経営者(33)ら3人を、わいせつ物陳列の疑いで逮捕した、と4月19日発表した。男らは、ワンコールで切り、折り返してきた電話にわいせつな音声を聞かせ、料金督促の電話をかけるプログラムを開発。昨年6月以降、1日20万件の発信を行い、かけ直してきたユーザーに1分100円の料金を請求。1ヵ月以内に支払われないと、3万円の延滞料金を要求し1人当たり最高10万円を振り込ませ、計数億円を売り上げたらしい。

しかし、罪状はあくまでわいせつな音声を聞かせたこと。聞かせた音声がわいせつではなく、例えば、ニュースや天気予報だったら逮捕されてはいなかった。逆に考えると、この事件の本質は、違法なわいせつなテープを広く聞かせていた業者がいて、その宣伝の方法がワン切りだった、ということに過ぎない。

ワン切りを法律で規制することは簡単ではない。例えば、ストーカーやいたずら電話のように同じ所に何度も繰り返し電話をかけた場合、かけた先が事業所だったら威力業務妨害罪が適用される。実際にこうした摘発例は少なくない。しかし、1回呼び出し音が鳴るだけですぐに切れる電話に、威力業務妨害は適用できないだろう。法規制するとすれば、どんな内容の法律になるのか。少なくとも、一般ユーザーが普通に行なっていることを規制することのないよう配慮するべきだろう。

チケットゲッターも違法か

もし、法規制されたら、チケットゲッターと言われる大量の電話回線を使用してチケットの予約電話をかけ、コンサートチケットを入手、転売する業者も違法になる。NTT東西の約款改定によってチケットゲッターは電話回線を使用できなくなる可能性もある。チケットゲッターの是非はともかく、1度に大量の電話をかけるチケットゲッターを、ワン切り業者と同様に区別することは難しい。ただ、チケット予約は、W杯サッカーの際も通信障害は起きたが、1ヵ所に集中して着信があるパターン。今回のケースは1ヵ所から大量に発信があるケースで、これまで想定されていなかったことだった。

新しい技術、通信手段が普及してくると、必ずそれを悪用し、法律の盲点を突いてもうける業者が出て来る。迷惑メールがいい例で、問題視されて1年以上たった今年7月、ようやく業者を規制する法律が施行された。迷惑メールをどう規制するか、法整備を行なっている最中、ワン切りが社会問題化してきた。確かに迷惑メールは新法施行で減少したようだ。しかし、規制する法律ができたり、通信事業者の約款が変更されても、ワン切りに変わるユーザーにとって迷惑このうえない新しい手口が登場することに疑う余地はない。ただ、こうした業者が元凶であることは当然だが、新しい手口でも、ドコモに代表される携帯電話会社だけは、被害者のような顔をしながらも、したたかに収益をあげていくことになるのだろうか。

NTT西は7月31日、今回通信障害を引き起こしたのとは別の業者に対し、大量に発信を繰り返しているとして、障害が起きる可能性があれば回線を切断する、と警告したことを明らかにした。実際に障害が起きる前に、このような警告を行うことは初めて。8月1日には、今回問題となった業者の回線を、初めて障害発生前に切断。NTT西は強い姿勢を見せ始めてきている。しかし、また次の月曜、午前10時はやってくる。

(麻河紀人)




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