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【IT事件簿】著名人もはまる出会いサイトの甘いワナ


2002年9月2日

携帯電話の出会いサイトで知り合った女子中学生に現金を渡し、みだらな行為をしたとして神奈川県警は、日本経済新聞社の関連会社の出版企画会社、日経BP企画の副社長(56)=東京都港区=を児童買春処罰法違反の疑いで8月5日逮捕。横浜地検は8月15日、同罪で起訴した。一方、携帯の出会いサイトで知り合った女子高校生に現金を渡してみだらな行為をしたしとして同県警は、集英社の漫画雑誌『週刊少年ジャンプ』に連載している人気漫画家(27)=東京都世田谷区=を同容疑で8月7日逮捕した。副社長は8月15日付で懲戒解雇され、漫画家は連載が打ち切られ単行本発売も中止された。(各紙の8月6〜15日の報道から)

日経BP社のサイト
日経BP企画副社長の逮捕についてお詫びする日経BP社のサイト

夏休みに合わせた?逮捕のタイミング

著書もある日経新聞社系の副社長と人気漫画家。2人の著名人が相次いで同じ県警によって、女子中高生と買春したとして逮捕された。収入も社会的地位もある2人の著名人の逮捕は、大きな衝撃を与えた。警察にとっては大きな手柄。逮捕の時期はそろって8月初めの夏休み中だが、どちらも半年以上前の昨年11、12月の容疑事実による摘発。女子中高生の自由な時間が増えるため買春が起きやすい夏休みの時期に大物逮捕を発表することで、抑止効果を狙ったことは明らかだ。特に出会いサイトを利用した犯罪としてアピールすることで、警察が目指す出会いサイト規制に向けて世論を盛り上げようという目的もある。

それぞれの逮捕事実は次の通りだ。日経BP企画の副社長は、携帯出会いサイトで知り合った川崎市の中学3年の女子生徒(当時14)に昨年12月16日午後1時ごろ、東京都渋谷区のホテルで現金5万円を渡してみだらな行為をした疑い。漫画家は、携帯の出会いサイトで知り合った横浜市の私立高校2年の女子生徒に(当時16)に昨年11月12日夕、同市神奈川区のホテルで現金8万円を渡してみだらな行為をした疑い。女子高生にはコンピューター会社員を名乗っていたらしい。

副社長は、日本経済新聞社入社後、同社関連の出版社、日経BPのIT系ビジネス雑誌2誌の編集長を歴任。日経BP企画に出向して副社長を務めていた。コンピューター、モバイル関係など情報通信分野で多数の著書がある。逮捕された8月5日に出向先の副社長職を解任され、起訴された15日には、籍のあった日経BPを懲戒解雇された。日経BPは同日、自社のサイトのトップページにお知らせとして副社長の起訴、懲戒解雇の事実を掲載。社として信用回復の努力をしていく考えを記した。

漫画家は、那覇市出身で高卒後上京。建設会社で働きながら漫画家を志し1997年、少年ジャンプに現在まで続く人気漫画の連載を開始。子供たちの支持を得たこの漫画は、単行本となり、これまでに24巻を数える。単行本は累計800万部発行されたという。だが漫画は、8月13日発売号を最後に連載が打ち切られ、9月4日発売予定だった単行本25巻も発売中止。1〜24巻の出荷も停止されることになった。

代償大きい中高生への援助交際

両者とも、出会いサイトで知り合った女子中高生との、いわゆる援助交際。女子生徒に“支払った”5万円、8万円の額はともかく、性風俗店に行く程度の軽い気持ちでしたことかもしれないが、逮捕後の処遇を見ると、あまりに罪の代償は大きかった。

2人が罪に問われた児童買春処罰法とは、正式名称『児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰および児童の保護等に関する法律』。1999年11月に施行された新しい法律だ。新聞報道等で、児童買春禁止法、児童ポルノ禁止法と表記されることもあるが、児童買春処罰法、児童ポルノ処罰法、が正しい表記だ。この法律は18歳未満を『児童』と呼び、買春とポルノの2点を禁止している。

今回2人に適用された買春については、“対償を供与し、又はその供与の約束をして、児童に対し、性交等をすること”として禁止。ポルノは、児童の性的な写真やビデオを配布、販売、公然陳列を禁止している。ポルノに関しても、インターネットで公開したとして多数の摘発例がある。罰則は、買春が3年以下の懲役又は100万円以下の罰金、ポルノの配布などが3年以下の懲役又は300万円以下の罰金。

処罰法には疑問点もあるが‥‥

ただ買春に関しては、法律施行後から疑問点も指摘されている。18歳未満を一律に児童として、小学校に上がる前の子供と17歳の高校生を同一に扱っている点だ。刑法上では性行為に同意できる年齢を13歳以上と認めている(12歳以下は強姦罪)うえ、民法上では女性は16歳で結婚が可能。18歳未満という年齢を引き下げるべきだ、との指摘が法律関係者らからは出ている。

面白いことにこの法律は、カネを払って性行為をすると罪に問われる訳で、カネを払うことなく真面目に交際していれば問題ない。刑法の13歳、民法の16歳のことを考えれば当然だ。2人とも5万円や8万円という、性風俗店の相場から見ても高額な“料金”を支払ったがために罪に問われた、という皮肉な結果になったのだ。特に27歳の漫画家なら、年齢的にも真面目な交際もあり得たのではないか、と見えなくもない。

しかし実際問題として、今回2人が事件を起こすきっかけとなった携帯出会いサイトをのぞいてみると、女子高生側から援助交際を持ち掛けている例が多数見受けられる。大人たちによる性的虐待を防止することがこの法律の主旨でありながら、現実には保護されるどころか自ら進んで大人に買春を要求する女子高生がいる、という矛盾がある。当然のことだが今回の事件でも、5万、8万円を受け取って“売春”させた女子中高生は罪には問われない。

罪の意識ない少女たち

京都府警が今年7月19日にまとめたアンケート結果によると、携帯の出会いサイトを利用した児童買春事件に関係した少女の7割が罪の意識を感じていなかった。今年1〜6月に摘発した事件に関わった15〜17歳の少女40人を対象にした調査で、40人には中学生8人、高校生22人が含まれる。罪の意識では、最多の29人が「最初は感じたが2回目以降は感じなかった」と答え「感じた」「少しは感じた」の計11人の3倍。軽い気持ちで携帯出会いサイトを使って売春している少女らの実態が浮き彫りになっている。動機は「小遣いが欲しかった」とがほとんどで36人。使い道は「飲食・遊興費」「ブランド品購入」がそれぞれ15人だった。

罪の意識なく、遊ぶカネやブランド品ほしさに、自らの体を買ってくれる男を探す女子高生と、それに応えて彼女らに高額を支払って逮捕され、人生を棒に振る男たち。今では、出会いサイトをめぐるこうした図式が明確になってきている。そうした状況になると、にわかに高まってくるのが出会いサイト規制論だ。これこそ警察側の狙い通り。女子高生たちに罪の意識なく売春をさせ、著名人の人生をも台なしにする出会いサイトは、やはり規制するべきだ、という世論が形成され始めている。

規制するべき対象がある場合の世論作りのために警察がすることは、今回のようにインパクトのある事件の摘発と、自らの狙いに合致したデータの公表。警察庁は今年2月28日に、出会いサイトに絡んだ事件の状況を発表している。それによると、昨年1年間に全国の警察が摘発した件数は888件に上り、2000年の8.5倍に急増。このうち児童買春処罰法違反が379件で、前年の10倍近く。同様な容疑での青少年保護条例違反も221件(前年の11倍)あり、合わせると600件になり、出会いサイト関連事件の7割を、少女らの買春事件が占めることになる。

さらに警察庁のまとめでは、今年1〜6月の半年間に児童買春で摘発された事件は850件で、前年同期より200件近くも増えた。買春に関わった子供は4人の小学生を含めて729人となり、前年同期より176人多かった。850件のうち、出会いサイトを利用した買春は400件と前年同期の3倍に増加。一方、テレホンクラブ利用は236件で、前年同期とほぼ同数ながら、出会いサイトの6割程度に過ぎなかった。これまではテレクラが最も多かったが、今年は出会いサイトが急増。買春のきっかけがテレクラから出会いサイトに移行している実態を示している。

警察は出会いサイト規制へ

警察が発表するデータを見ていると、出会いサイトが買春事件の温床になっていることがありありとうかがえる。これこそが警察の狙い、というところだろう。今年4月、風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)が改正され、テレクラを“電話異性紹介営業”とし、業者にはテレクラを利用する女性にも18歳以上であることの確認が義務付けられた。その影響を受けて、少女らがテレクラから出会いサイトに流れてきた、と見られる。そうなると、テレクラの次は出会いサイトを規制するべきだ、と話は単純に進むことになる。

警察は、今年7月には出会いサイトによる美人局(つつもたせ)事件を相次いで摘発し、男性ユーザーに出会いサイトが持つ危険性を強調した。今回は、出会いサイト利用での著名人の児童買春事件を2件続けて発表し、少女を買春すると人生を棒に振ることになる例を示した。いずれも出会いサイト規制に向けたアピールだ。だが仮に警察の狙い通り、出会いサイトが規制されて18歳未満が利用できなくなったとしても、遊興費やブランド品ほしさの少女たちは、また別の手を考えるだけだろう。

もちろん今回逮捕された2人の犯した罪は許されはしない。18歳未満にカネを払って性行為を行うと人生を棒に振ることになるのは当然ともいえる。大人たちにはいくら少女側から持ち掛けられても相手にしないスタンスが必要なのと同時に、少女たちに売春をさせないような教育も重要になる。ただ単に出会いサイトを規制するだけですむ問題ではない。

(麻河紀人)




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