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【IT事件簿】goo訴訟で浮き彫りになったドメインの“大企業優先ぶり”


2002年10月22日

ポータルサイトのgoo(goo.ne.jp)を運営する(株)エヌ・ティ・ティ エックス(NTT-X)に対して、岡山県倉敷市のカラオケ業、ポップコーンが先に取得したドメイン“goo.co.jp”の使用権がポップコーンにあることの確認を求めた訴訟の控訴審判決が10月17日にあり、東京高裁は一審の東京地裁判決に続き、ドメインの使用権はNTT-Xにあるとの判断を下し、ポップコーンの控訴を棄却した。(各紙の報道から)

ポータルサイトのgoo(goo.ne.jp)のウェブサイト
ポータルサイトのgoo(goo.ne.jp)のウェブサイト
ポップコーンが運営するgoo.co.jpから転送されるアダルトサイト
ポップコーンが運営するgoo.co.jpから転送されるアダルトサイトには、「当社はgoo.co.jpを不正な目的のために登録したのではありません」というメッセージが掲げられている

先願主義は有名無実に

“goo.co.jp”をめぐるこの訴訟は、ポップコーン側が、NTT-Xがgooの商標登録をするよりも先にドメインを取得していたため、ドメインの先願主義が法廷でどう判断されるか、注目されていた。その意味では他のドメイン訴訟とは趣が異なる。

高裁判決は基本的に一審の地裁判決を追認した内容。判決は、ポップコーンが取得したドメイン“goo.co.jp”とgooのドメイン“goo.ne.jp”を比較し、「誤認混同のおそれがあるほど類似している」と判断。ポップコーン側が当初“goo.co.jp”のドメインでアダルトサイトを開設していたにも関わらず、gooが開設されてインターネットユーザーの間で有名になった後になって、自動的に別のアダルトサイトに転送するよう改造したことを指摘。「転送の対価としてアクセス数に応じた利益を転送先サイトから得るようになったとの事実をも併せて、類似ドメインの不正での使用」と認定した。

ポップコーン側は訴訟で、先にドメインを取得したにも関わらず、NTT-X側が日本知的財産仲裁センター(旧工業所有権仲裁センター)に提訴し、仲裁センターが2001年2月5日にドメインをNTT-Xに移転するよう命令する裁定を出したことについて「ポップコーンはJPNIC(日本ネットワークインフォメーションセンター)のルールに従ってドメインを取得した。商標などと関連付けてドメインの不正使用の目的を判定するなど、仲裁センターの紛争処理方針は従来のドメイン名取得ルールと矛盾する内容で、インターネット利用者を混乱に陥れる」と、一貫してドメイン取得の先願主義の原則を主張してきた。

高裁判決はこうしたポップコーン側の訴えに対して、「インターネットの利用態様が多様化し、商取引がそれを介して行われることも多くなった以上、一般の商取引を規律する決まりをインターネットの使用にも適用しなければならなくなることは避けられない」として「紛争処理方針の実施が、従来のドメイン取得の決まりと異なる部分があったとしても、何ら不当にインターネットの利用者を混乱に陥れるものではない」と指摘。先願主義がすべてにおいて適用されるとは限らない、と決め付けた。

判決はさらに仲裁センターとJPNICが定めた紛争処理方針について、(1)ドメイン移転を求める申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と、登録者のドメインが同一または類似していること、(2)登録者がドメインの登録について権利または正当な利益を有していること、(3)登録者のドメインが、不正の目的で登録または使用されていることの3つである、と改めて指摘。「紛争処理方針を不合理なものであるとすることはできない」として、ポップコーン側の主張を退けた。

また、ポップコーン側が「大企業がドメインを取得していなくても、後から宣伝、広告費を注ぎ込みさえすれば、第三者のドメイン名の移転を受けることができるということになり、弱肉強食の世界を肯定する」と地裁判決を解釈したことについて、控訴審判決は「大企業が多額の広告、宣伝費を費やし、著名性を獲得しただけで、3つの紛争処理方針が充足されるものでないことは、文言上明らか」と指摘。「強者を不当に優遇する結果となるとの主張は当たらない」として否定した。

控訴審判決でポップコーン側の控訴が棄却されたことについてNTT-Xは「ドメイン名を先に登録していたとしても、その利用方法に不正な目的がある場合にはドメイン名の利用は認められないという判断が再度確認された。インターネットの健全な発展に資する正しい判決」とコメント。ドメイン名移転の申し立ては、ドメインを入力し間違ってポルノサイトにアクセスしてしまったユーザーの声に応える形で行なったことを強調し「今回の判決が確定すれば、サイトが誤認混同される状況も解消され、より快適に利用できるようになる」と述べた。

ポップコーン側の弁護人は「上告するかどうかは未定。ポップコーンと話をして決める」と述べた。

“goo.co.jp”のドメインはポップコーンが1996年8月16日にJPNICに登録。NTT-Xは1997年2月12日に“goo.ne.jp”のドメインを登録し、gooを開始すると3月6日に発表。3月27日にサイトを開設した。NTT-Xがgooの商標登録を出願したのは1997年1月28日だった。NTT-Xはドメインの移転を求めて、2000年11月20日に日本知的財産仲裁センターに申請。仲裁センターは「ドメイン名が不正の目的で使用されている」などとして移転を命じる裁定を2001年2月5日に出した。

裁判では解決しないドメイン問題

ポップコーンが訴訟で主張したように、ポップコーンがドメインを取得した流れにはまったく問題がない。それでも、NTT-Xにドメインを奪われることになってしまう。ポップコーン側から見れば、ルール通りに手続きをしたにも関わらず、ドメインを取られてしまうことには納得できないだろう。判決をそのまま解釈すれば、ドメインを取得してサイトを開設した個人が、後から大企業が類似のドメインを取得して有名にした場合に、ドメインを取り上げられるということになるのだ。

いっぽう、NTT-X側から見ても、納得できないことが多かっただろう。多くの宣伝費をかけてサイトを有名にしたものの、間違ってURLを入力したユーザーがアダルトサイトにアクセスしてしまい、NTT-Xにクレームが寄せられることもあった。学校の先生が授業の一環でインターネットを使っている際に、間違って“goo.co.jp”にアクセスしてしまい、生徒が見ているプロジェクターの画面にアダルト画像が表示されてしまったこともあったという。“goo.co.jp”のドメインは以前、一瞬表示されるだけで、すぐに別のサイトに転送されていた。ポップコーンが営業妨害をしているように思えたこともあっただろう。

しかし、裁判によるドメイン問題の解決が最適とはとても言えないのが現状だ。裁判で1つのドメイン移転を勝ち取っても、類似した別のドメインでも同様な問題が発生するリスクが企業にはある。そのためインターネットでサービスを行なおうとする企業は、類似のドメインがないかどうか、常にチェックする必要がある。ドメインは類似の名称のものや、世界各国の国別ドメイン(ccTLD)まで含めれば、企業が掌握しなければならないものは無数と言っていいほどにまで広がってしまう。実際、悪用されることを恐れて、サービスに関係すると思われるドメインを大量に登録している企業もある。企業にとってはまったく無駄なコストと言わざるを得ない。さらにドメインの移転を求めて裁判をすれば裁判費用もかかる。担当者の業務増大など人的リソースの消費も大きい。

JPNICは裁判外でドメイン問題を解決するために、仲裁センターに紛争処理を依頼している。仲裁センターは2000年10月から仲裁を開始。しかし、仲裁センターでの裁定には法的な強制力はない。移転が命じられても、不服としてドメインの登録者が提訴すれば移転の実施は停止される。仲裁センターが裁定を出したケースはこれまで19件あるが、提訴により移転が停止しているケースが“goo.co.jp”を入れて3件ある。例えドメイン移転が命じられても提訴すれば、裁判で結果が出るまでは、元のドメインでサイトを運営し続けることができる。移転を求めた企業にとっては苦々しい思いをしながら、裁判をしなければならないことになる。実際、“goo.co.jp”のドメインはポップコーンが現在も運営していて、サイトも開設されている。

疑問が残る仲裁センターの決定

仲裁センターの裁定内容自体を疑問視させるようなケースも起きている。仲裁センターはパソコン機器開発会社(有)システム・ケイジェイに対してドメイン“mp3.co.jp”を米ネット音楽配信会社MP3.comに移転するよう命じる裁定を2001年5月29日に出した。裁定ではMP3.comが著名であること、システム・ケイジェイが“mp3.co.jp”のドメインで音楽配信などのサービスを提供していないことなどを指摘して「登録者ドメイン名は、不正の目的で登録又は使用されているものといわざるを得ない」として移転を命じた。

しかし、システム・ケイジェイがMP3.comを相手取って行なった訴訟では、仲裁センターの裁定とまったく逆の判決が出た。今年7月15日の東京地裁判決では、システム・ケイジェイが“mp3.co.jp”のドメインを登録した時点で、ドメインを不当に高額な値段で買い取らせたり、MP3.comの知名度を利用して事業を行なうなどの不正の利益を得る目的がなかったことと、システム・ケイジェイがMP3プレーヤーを開発し、販売を計画していたことなどを認定。ドメイン移転を求めるMP3.comの主張を退けた。

この裁判は、図らずも仲裁センターの無能さを露呈した格好となった。仲裁センターの決定には、これまでも大企業優先主義が目だっている。著名という極めてあいまいな根拠を頼りに、大企業側に有利な決定が次々に下されてきた。確かに、大企業有利の裁定を出せば一般的には納得されやすい。しかし、ドメイン登録は、早いもの勝ちの先願主義を基本に運営されてきている。大企業優先の仲裁センターの決定では、この先願主義がまったくおろそかになっているようだ。

裁判になった場合でも、実は同様のことがいえる。今回のgooの件で、ある法律関係者はこう指摘する。「NTT系対アダルトサイトとなれば、裁判官の心証としては、いくら法的にアダルトサイトが正しと思っても、道義的にアダルトサイトを勝たせるわけにはいかないだろう」。結局は先願主義よりも大企業優先になってしまうのだ。

NTT-Xの関係者は「gooを立ち上げる時にもっと綿密に調べるべきだった。当時ネットワークサービスのドメインとしては、co.jpよりne.jpが一般的になると思った」ともらしている。ドメイン登録をする側から見れば、NTT-Xは明らかに失敗だった。ネット上で新サービスを始めるときには、類似のドメインが取得されているかいないかを調べるのは、常識的なことだ。それを怠ったがために、今回のような結果を招いた。

ドメインをめぐる混乱の根本は、文字列に過ぎないドメインを商品として扱っているドメイン登録業者の姿勢にもある。gTLDやjpドメインだけでなく、さまざまなベンチャー企業が世界各地のccTLDの販売も行なっている。こうしたドメインの“乱立”は、ドメイン使用権の問題を今後さらに複雑化させるのではないかと危惧せざるをえない。こうした企業は「自分のドメインを持とう!」といったキャッチコピーで個人向けにもさかんに宣伝しているが、個人がをせっかく取得しても、後に企業に移転を迫られるかもしれないのだ。マッチポンプという批判も聞こえてきそうだ。

(麻河紀人)




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