ASCII24 / Specials
【2.0企業インタビュー】clip.eventcast/市場博昭氏に聞く
2006年9月22日
Web 2.0と聞いてすぐに思いつくサービスといえば、“ソーシャル〜”と呼ばれるものではないだろうか。ここで言うソーシャルとはもちろん「社会的な」という訳語的な意味ではなく、例えば「自分だけが持っている情報を他者に広めることで価値を高めたい」、平たくいえば「多くの人に知ってほしい」「共有したい」という意味である。ソーシャルネットワーク、ソーシャルブックマーク、ソーシャルニュース……などなど、さまざまな企業や個人が新しいソーシャルサービスを考案しては日々リリースしている。
 |
clip.eventcastのトップページ。映画やDVD、ゲームの発売日、TV番組のオンエア日時などを中心に日々情報が集まっている。URLはhttp://clip.eventcast.jp |
さて、もしあなたが大好きなアーチストのイベントの日程を忘れないようにメモしておくとしたら、どんな手段をとるだろうか。カレンダーに赤丸を書いたり、付箋紙にメモしてディスプレーに貼っておく? それもいい方法だ。では、一歩進めてそのアーチストのイベントをより多くの人に知ってもらいたい。インターネットを通じてファンを増やしたい、と思ったらどうするだろう。自分のブログから情報発信する? それはイマドキの手だが、多くの人に見てもらえるとは限らない。
そんな要望に応えるべく今年4月に登場したのが“ソーシャルイベント情報サイト eventcast(イベントキャスト)”だ。主催者は市場博昭(いちばあきひろ)氏という個人だが、9月に大幅なリニューアルを行なって、参加者同士が気軽にイベント情報を交換しあえる“C2Cサービス”(広告モデルで利用料は無料)の“clip.eventcast(クリップ・イベントキャスト)”と、企業や個人が販売・イベントなどの情報を告知し、さらにユーザーとのコミュニケーションの場にもなる“B2Cサービス”(掲載料での運営、現在準備中)の2本立てに切り替え、同時に法人化を目指しているという。今回は、そんな時代の追い風に乗っている市場氏に話を聞いた。
前職ではケータイやウェブと連動する
企業向けカレンダーソフトを開発
市場氏は現在32歳。フリーでウェブサイト制作を請け負いながら、eventcast/clip.eventcastの運営・管理を行っている。10年ほど前にウェブ制作会社に入社して、CD-ROMやウェブサイトの制作に携わった経験があり、2000年にフリーになるが、知り合いが立ち上げた(株)アイフェイスに参加し、そこでWindows/Mac OS用カレンダーアプリケーション『PIM-face』を開発した。これは企業が販促品として配布するデスクトップツールで、ウェブ/ケータイを通じてキャンペーンなどの日程を配信。そのユーザーの行動(既読/未読、リンクのクリックなど)に応じて趣味・嗜好にあった広告を配信するというサービスだ。しかし、カレンダーに広告を関連づけて配信するというビジネスが定着するには「まだ時代が早すぎた」ようで、現在このサービスは終了している。このとき市場氏はサービスの企画・立案といったディレクションを行ない、自身でプログラミングを行なった経験はないという。
市場氏がeventcastのサービスを思いついたきっかけは、このころの社会人経験にあった。当時、会社の周囲では紙の手帳を使ってスケジュール管理している人が多かったが、公私のスケジュール(仕事だけでなく個人的な情報)を簡単に管理できないかと思い、iEPGのテレビ番組情報をPIM-Faceに取り込むアプリケーションを試作してみた。さらにテレビ番組だけでなく、時間のある情報を手軽にカレンダーに取り込めないかと考えたのがeventcastの発想の原点になっている。
今のインターネット上の情報を時間軸に沿った形で共通化、集約ができないかと考えて、今年1月に開発を始め、2月にクローズドな形で友人らを対象にサービスを提供。安定提供できるめどが立ったため、4月に公開した。このときに個人で出したプレスリリースが各所に掲載されたのも、「その1週間前に米国でグーグル(Google)が“Google Calender”を提供開始したので、タイミングがよかったんでしょう」と振り返る。
開発に当たってはゼロからウェブプログラミングに関する書籍を購入して独力で勉強し、自分が使ってみて便利に感じたサービスを参考にしながら開発した。特に注目したサイト/サービスは“mixi”や各種ブログのほか、写真共有サイト“flickr”から使いやすいインターフェースを学び、海外のスケジュール共有サイト“Upcoming”、“eventful”なども大いに参考になったという。ただ、「海外のソーシャルイベントサイトではリアルで行なわれるイベントの情報がほとんどなのですが、私自身はめったに映画にも出かけないくらい面倒くさがりなので、リアルのイベントにはこだわらずおすすめのTV番組を気軽に共有できる、好きな歌手のCD/DVDが発売される、話題の商品がいつ店頭に並ぶといった身近なスケジュールをメモしておいて、ついうっかり買い時を逃さないように使える気楽なサイトを目指しています」と述べ、肩の凝らないサービスの提供を目指しているようだ。
ネット上にある“時間”を持つ情報を
集約・整理して再構築するのが究極の目的
4月から運営されてきた“eventcast”(http://www.eventcast.jp/)だが、9月上旬に“clip.eventcast”(http://clip.eventcast.jp/)へと生まれ変わっている。実際は従来のサービスも終了したわけではないが、徐々に新サービスへ統合していくことが表明されている。
 |
4月から開始されているeventcastの画面。色使いなどはclip.eventcastに近いが、機能的には多くのイベント情報において手入力が必要など、違いは歴然。なおログインIDなどは共通化されていないので、clip.eventcastに参加するには、従来のeventcastの登録者でも、改めての登録が必要 |
見た目の印象や細かい機能はあまり変わらないが、インターフェースが大幅に変わって、ほぼ新生サービスといえる内容になっている。おおざっぱに言えば、従来のeventcastがブログやSNSをベースにしたサービスだったのに対して、clip.eventcastはソーシャルブックマークをベースにしたサービス、という違いがある。具体的には、従来のeventcastは記入者が登録情報をいちいち書き込む必要があるのだが、clip.eventcastでは公式情報やニュース記事などで気になる情報を見つけたら文字通り“すぐクリップ”するだけ(1クリックで登録できるBookmarklet(ブックマークレット)が提供されている)。タイトルやリンク(URL)などの情報は自動取得される。記入者は日付やタグ、詳細情報などを必要に応じて埋め込むだけで手軽に情報を管理できる。
この大幅な変更の理由について市場氏は、「従来のeventcastは主催者が告知するにはいいサービスなのですが、書き込まれる情報量が少なくイベントの詳細を知りたい人には物足りない印象でした。もちろん、主催者以外の方からも『みんなに知らせたい』という気持ちで登録していただいているのですが、それだけでは大きなモチベーションにはならないことが4ヵ月間の運営でよく分かりました。clip.eventcastはネット上にある“時間”を有するあらゆる情報を、時間軸をで整理・再構築することを目的に、より情報が集めやすいソーシャルブックマークを参考に開発しました」と語る。
記入した情報は、ほかの参加者が書き換えることも可能で(変更履歴が保存される)、誤字の修正や発売日変更などがあっても対応できる。登録されたデータは、RSSで更新情報の即時配信やmicroformatsの“iCalender”形式での出力も可能で、ほかのカレンダーアプリとの連携もしやすい。住所を記入すると自動的にGoogle Mapsから所在地の地図をリンクしてくれるのも便利だ。
 |
clip.eventcastをブログパーツとして自分のサイトに貼り付けるための手順。設定メニューをクリックすると、ブログパーツのほか表示中のページをクリップ(clip.eventcastに登録)するためのbookmarkletなど、便利なツールが配布されている |
こう聞くと「今あるソーシャルブックマークやソーシャルニュースサービスとどう違うの?」と疑問に思うかもしれない。いわゆるソーシャルブックマーク/ソーシャルニュースは、報じられた日時が最も重要な要素であり、いずれはほかのブックマークやニュースに埋もれてしまう。しかし、例えば先日の“mixiのマザーズ上場”のように、報じられた当日や数日間は誰もが注目しているが、1週間も経つとmixiのマザーズ上場が“いつ行なわれるのか”を確実に思い出すには元のニュースを検索するしかない。その点が、時間軸(実施/開催日)で情報を管理するeventcastとの大きな違いだ。
また、Yahoo! Calender/Google Calender/iCalなど他社オンラインカレンダーサービスとの連動は従来のeventcastにもあったが、より手軽に実践するため、イベント一覧のタイトル脇に1クリックで登録できるショートカットを用意したり、新着イベントをリアルタイムで配信するRSSの中に各カレンダーサービスに登録するためのリンクが用意されている。従来はイベント名(リンク)をクリックして詳細情報から登録する必要があったが、1階層分の移動が減るだけで好きなアーチストやグループのイベントを集めるアクションが格段に楽しいものになる。
法人化の目的とは?
――受信者と発信者に特化した2つのサービスに分けていく
最初にも述べたとおり、9月に実施した大幅なリニューアルは法人化を目指しての行動だという。その目的を市場氏は「サービスとしてきちんと責任を持って提供し続けるためです。もし一緒にやっていこうという方がいらっしゃったら、ぜひ声をかけていただきたいですね」と語る。
 |
試しにclip.eventcastをASCII24の記事をクリップしてみたところ。Ajaxによって画面遷移なしに編集・更新が可能。タイトルは自動取得されるが、このままではわかりにくいので、タイトル部分を1クリックして製品名などに編集した方がいいだろう |
その点をもう少し突っ込んでみると、「イベント情報には受信者側(いわゆるコンシューマー)が情報を効率的に集めたい、同好の士を捜したいという欲求のほかに、企業やグループがサービスやキャンペーンをアピールしたい、より広く告知したい、人を集めたいという欲求がある。これをきちんと区別することで、コンシューマー側の情報受信がメインなサービス(C2C)は従来通り無料(広告モデル)で運営し、企業やグループ側の情報発信がメインのサービス(B2C)からは掲載料を受け取ってビジネスになるのではいか」と考えたそうだ。
確かに、個人が自分の好きなアーチストの情報をまめに集めて一生懸命登録していっても、ある時イベント情報を大量に持つ企業が絨毯爆撃的に登録してしまうと、せっかく個人が登録した情報が埋もれてしまう。これでは情報提供してくれる個人の熱意も冷めてしまうというもの。
かといってB2Cサービスでも情報提供側に雑誌やテレビのような掲載料を求めるつもりもないという。「個人商店や学生が、週末の売り出し情報やサークル活動を新聞の折り込みチラシに載せるような感覚で出せるようにしたい。もちろん、折り込みチラシだと配布される範囲は限られますが、インターネットだと日本だけでなく世界各地に配信できます。そうして情報を厚くしていきたいんです」
市場氏は今後の機能拡張にも積極的で、「情報を日時で整理することが便利だということを知ってほしいので、次はケータイの位置情報検索機能を使って、地域別のイベント表示機能などを追加するつもりです。それから、イベント情報を発信する人が自分のウェブサイトを持っていない場合でも、その情報を発信できるような仕組み、さらにはイベント開催の前後を参加者(クリップしているユーザー)にフォローできるようなコミュニケーション機能を作りたいと思っています。グーグルが今“Google Base”で情報の集約を図ろうとしていますが、それをイベントに特化した形でサービスできれば、と考えています」と熱く語った。法人化は市場氏の目下の目標ではあるが、必ずしもそこにこだわるわけではなく、日本にはまだあまり例がないソーシャルイベントサイトなだけに、今後もユーザーの意見を取り入れながら誰もが便利に使えるサービスに成長させていきたい、と将来に向けた抱負を語った。
(編集部 佐久間康仁)
|