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米iTunes Storeで映画を買ってみた――オンライン配信のメリットは“即再生”にあり


2006年10月20日

iTunes StoreでDVDジャケットをパラパラ……

秋の夜長は、やっぱり映画。現在ちょうど19時。夕食が終わったこの時間からDVDを買いに(借りに)行くのはちょっと億劫だ。でもここはカリフォルニア。外に出る必要はない。9月12日から米アップルコンピュータ社のオンライン配信サービス“iTunes Store”で映画を買えるようになったのだ。今日はそれを試してみよう。

新しくなった『iTunes 7』を開いて“iTunes Store”に移動し、“Movies”をクリック。ほどなく“Cover Flow”が画面中央に現れる。iTunes 7で盛り込まれた目玉のひとつだ。CDやDVDのジャケットをパラパラとめくるような滑らかなインターフェイスで、目的のタイトルを探せる。ここに最新リリースの話題の映画、『キンキー・ブーツ(Kinky Boots)』から『リトル・マーメイド(The Littel Mermaid)』まで14タイトルが並んでいる。

Cover Flowでジャケットをめくるのは至極快適だ。360度スクロールできるアップル純正の『Mighty Mouse』であればスクロールボタンをくるくる回すだけでジャケットをめくれる。また、『MacBook Pro』や『MacBook』といったノート型Macなら、トラックパッドを2本指でなぞるだけで同じ操作を実現できる。ハードウェアとソフトウェアのコンビネーションがもたらす、絶妙な操作性だ。

画面中央の“Cover Flow”でジャケットをめくりながら見たいタイトルを探せる

さてひととおりジャケットをパラパラめくってみたところ、目についたのは『カサノバ(Casanova)』だ。日本でもつい先日まで上演していたし、秋の夜にじんわり観るには最適だろう。今回は初めて映画をダウンロードしてみるわけだから、画質や音質もチェックしたい。アニメーションよりも実写映像のものが適していると思ったのだ。

でも念のため、Cover Flowに表示されている14本以外も見ておこう。画面左側には5つの“CATEGORIES”が並んでいる。それぞれクリックすると、“New Releases”にはCover Flowと同一の14本、“Comedy”に17本、“Drama”に14本、“Kids & Family”に23本、そしてすべてが表示される“Library”には66本が掲載されている(一部タイトルは重複)。

これに『カーズ(Cars)』のような予約購入(Pre-Order)可能な4本を加えると、現在iTunes Storeで購入可能な映画は合計70本となる。この数は9月から増えてはいないようだ。

全部をブラウズしてみた結果、やっぱり『カサノバ』に決定。解説ページで確認すると、価格は14.99ドル(約1800円)、上映時間は1時間51分36秒、ファイルサイズは1.26GBだ。ファイルサイズがいささか大きいが、これも実験。“BUY MOVIE”をクリックし、パスワードを入力すると、すぐにダウンロードが開始された。iTunes Storeではときどき音楽を買っているので、ワンクリックで購入できるようにセットしてあるのだ。

『カサノバ』の解説画面

映画を楽しむ手段が充実している米国

19:30、ダウンロード開始。“あと42分”と表示される。日本に住んでいた頃は光ファイバーでインターネットに接続していたけれど、こちらはDSLかケーブルがほとんどだ。回線の実効速度も3〜5Mbps程度がいいところ。時間がかかるのはしかたがない。ダウンロードを待つ間に、カリフォルニアのDVD事情にも触れておこう。

カリフォルニアでDVDを手に入れるのは簡単だ。専門店では品揃えが充実しているし、メジャーなタイトルならあちこちにあるスーパーでも売られている。価格はだいたい10〜25ドル(約1200〜3000円)。もちろん“amazon.com”のようなオンラインストアでも購入できる。

一方、レンタルCD/DVD店も結構あり、こちらは3ドル前後で2日ほど借りられる。画期的なのはオンランインレンタルの“Netflixだ。いくつかのコースがあるけれど、例えば月額15ドル(約1800円)ほど支払ってレンタル希望タイトルのリストを送ると、その中から2枚が送られて来て、好きな期間だけ借りられる。

飽きたら添付の封筒に入れて送り返せば、また別の2枚が送られてくるという仕組みだ。Netflixを利用すれば、固定額でDVDを何回でも好きなだけ借りられる。日本では(株)ツタヤ・ディスカスの“TUTAYA DISCAS”や(株)ゲオの“GEOLAND”が同様のサービスに当たるだろう。

この他、多くの家庭が契約しているケーブルテレビには映画専門チャンネルがあるから、“TiVo(ティーボ)”のようなHDDレコーダーを組み合わせれば、観たい番組が自動的に蓄積されて、好きなときに楽しめる。

ここカリフォルニアでは、一般の人々がコンテンツを快適に視聴するための環境がいろいろと整っているのだ。ではそんな状況の中にあって、iTunes Storeで映画を買うメリットは何だろう。


見たい本編のみをすぐに再生できる

ムービー情報画面
購入した『カサノバ』のムービー情報画面

20:15、ダウンロードが終了し“ファイルを処理中”と表示されて、20:16にすべて終了した。46分ほどかかったことになるが、これでカサノバを好きなだけ観られる。画面のサイズは640×272ドット、データレートは1645.74kbpsだ。

さっそく再生を開始すると、広告なしですぐに本編が始まった。DVDでは、ディスクをDVDプレーヤーにかけてもすぐには本編が始らず、しばらくほかの映画の予告編や違法コピー防止の警告などを見させられる。でもiTunes Storeなら、観たい映画だけをすぐに堪能できる。スッキリしていて、非常に気分がいい。これこそiTunes Storeで映画を買うメリットだろう。

一方、残念なこともひとつある。せっかくiTunesを使って映画を観ているのに、『AirMac Express』に接続したオーディオシステムに音を出力できないのだ。

わが家の無線LANはAirMac Expressを使っているから、家庭内のどのMacであっても、iTunesに入っている音楽をオーディオで鳴らすことができる。しかし、映像のファイルを再生するときは、音はそのMacからしか出すことができない。

もし外部スピーカーを使いたければ、スピーカーシステムをそのMacに直接接続する必要がある。これは非常に不便だ。やっぱり来年アップルから発売されるという『iTV(仮称)』が欲しくなる。




画質、音質ともにパソコンでは必要十分なクオリティー

さて、Macで上映するカサノバの画質だが、“十分にきれい”と言うべきだろう。当然のことながら、“美しい”わけではない。“芸術作品としての映画”を鑑賞したかったら、やっぱり映画館に足を運ぶべきだ。

けれども、“コンテンツとしての映画”を視聴するにはこれで十分。そのうえ、自分のライブラリーとして保有することができて、好きなときに、好きな場所で、好きなシーンを観られる。もちろん広告はなしだ。これがファイルとして映画を買う最大のメリットだろう。

なお、MacBook-2GHz(CPUはCore Duo)でフルスクリーン再生している際のCPU使用率は、2つのコアとも均等で、おおむね30〜40%といったところ。動きの速い場面では90%程度になることもあった。

CPU使用率
画面左下に表示したムービー再生中のCPU使用率は、おおむね30〜40%(画面にはモザイクをかけています)

画質とともに気になる音声は、AAC/128kbpsのステレオ2chだ。今回はMacBook内蔵のスピーカーではなく、ソニー製のモニターヘッドフォンを接続して聴いた。カサノバの舞台は1753年、現代より半音低いバロックピッチで奏でられる室内楽の甘美な響きが非常に美しい。“時代の音”を全編にわたって堪能できた。

5.1chではないけれども、現状ではMac/PCやiPodで再生する人が多いだろうし、ファイルサイズのことも考えれば、画質同様、割り切りが必要なところだ。


タイトルの充実、日本での展開が待ち遠しい

今後の展開を考えると、字幕を表示する機能の搭載が望まれるだろう。米国内を考えても、英語字幕は英語を母語としない人や聴覚に障害のある人たちが、スペイン語字幕は英語を話せないヒスパニックの人々が必要としている。

さらにiTunes Storeの映画販売を世界各国に広げていくなら、それぞれの言語の字幕が必須だ。iTunesのファイルのフォーマットには“テキストトラック”が規定されているから、将来、字幕入りの映画がiTunes Storeで販売されるようになることを期待したい。

美しいヴェネチアを舞台にした映画を見たら、20年ほど前に観た『眺めのいい部屋(A Room With a View)』を思い出した。舞台は同じくイタリアのフィレンツェ。衣装はカサノバと同じジェニー・ビーヴァン(Jenny Beavan)が担当している。久しぶりにもう一度観たいな、と思って念のためiTunes Storeを検索したところ、やっぱり映画はない。

代わりに、E・M・フォースター(E.M.Forster)の原作を朗読したオーディオブックが見つかった。18.95ドル(約2300円)で7時間23分の長編だ。あの美しい映像を観るには、いまのところDVDを買いに行くしかないようだ。iTunes Storeの充実が待ち遠しい。そして日本での映画販売の開始も。


塩澤一洋(Kazuhiro Shiozawa)
成蹊大学法学部助教授。東京大学先端科学技術研究センター特任助教授。政策研究大学院大学客員教授。2005年から、スタンフォード大学ロースクール(米国カリフォルニア州)にあるインターネット社会センターにて客員フェローとして在外研究中。専門は民法と著作権法。『月刊アスキー』『MacPeople』に連載執筆。1988年から研究、教育、写真、音楽、その他創作活動にMacを利用している。自身のBlog“shiology”も更新中。



(塩澤一洋)




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