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Printable Version ASCII24 / 松岡美樹の“ネットメディアの心理学” 第1回

ほめる“はてブ”、けなす“はてブ”


2006年11月21日

予想しないことが起こるからおもしろい

おもしろいもので、ネット上に存在するサービスやツールは、開発者が予想もしなかった使われ方をすることがある。特にブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)など、ユーザー自身がコンテンツを作る“CGM”(Consumer Generated Media)の分野でそんな例をよく見かける。

YouTube
YouTubeのトップページ

例えば、米国の動画共有サイト“YouTube”は、もともとユーザーが自分で撮影した動画を公開/共有するためのサービスとしてオープンした。ところが、実際に人気が爆発したのは、2005年12月に米NBCのバラエティー番組“サタデーナイトライブ”(Saturday Night Live)の映像が投稿されてからだ。かくて今や押しも押されもせぬCGMの代表格である。(※1)

「ひょうたんからこま」と言うが、ネット上ではまったく何が幸いするか分からないものだ。まあYouTubeの一件は「ラッキーだったね」と言うと、著作権者から抗議がきそうだが、それにしてもCGMではなぜこんなハプニングが起きるのだろうか?

理由のひとつは、新しいサービスであればあるほどセオリーや慣習が固まっておらず、“あなたまかせ”になっていること。ふたつめは機能的な柔軟性が高く、コンテンツだけでなく使い方にまで“Consumer Generated”な余地があるからだ。

※1 自社のテレビ番組が無断アップロードされた件で、一時はYouTubeに猛抗議していたNBCだが、今年6月に両社は戦略的提携を発表した。口コミで利用者を拡大させる“バイラルマーケティング”を展開する上で、YouTubeの影響力が大きいとNBCが判断したと見られている。





はてなは、はてブの二極化を想像していたか?

例えば、(株)はてなが提供しているサービスのひとつに“はてなブックマーク”(通称・はてブ)がある。気になるブログやホームページの記事をネット上でブックマークし、他のユーザーと共有する“ソーシャル・ブックマーク”(SBM)である。SBMもCGMのひとつだ。

はてなブックマーク
はてなブックマークのトップページ

はてブには大きく分けて“ほめるはてブ”と“けなすはてブ”がある。もっとも、はてな側がそんな決まりを作ったわけじゃない。ユーザーが勝手にやっていることだ。

“おもしろい”“役に立つ”“仕事に使える”と感じた記事があれば、賞賛のコメントやタグを付けてブクマする。これがほめるはてブだ。普通に考えればこっちがノーマルな使い方だろう。

じゃあ、けなすはてブとはいったい何か? 例えばどこかのブログを読み、「この言説はちょっとヘンじゃない?」と感じたとき。その記事をブクマし、タグやコメントで異論を述べるのだ。あるいはいわゆる“痛いニュース”を取り上げる場合など、もっぱら選者から見てネガティブな物件がまな板に乗せられる。

つまり評価の手段に使うという点では同じだが、評価基準はプラスとマイナス、まるっきり正反対なのだ。同じひとつのサービスなのに、これだけ違う使い方がありえるってところが興味深い。



ムラ社会とモヒカン族

ほめるはてブは無難な使い方である。日本的なムラ社会になじみやすい。だがけなすはてブは、そんなナアナアの世界じゃない。他人と軋轢が起ころうが、自分の意見を主張する。アングロサクソンな行為である。ネット上の流行語でいえば、“モヒカン族”ご用達と言えるかもしれない。

ただし、けなすはてブには欠点もある。けなすはてブのコメント一覧には、ずらりといくつもの否定的な見解が並んでいる。すると中立の第三者が見たときに、「寄ってたかって叩いてる」とか「みんなで晒し上げてるなあ」みたいな印象を与えてしまうのである。情緒的な表現をすると、あんまり“いい感じ”がしないのだ。

ただし異論を述べてる人たちは、事前に示し合わせたわけでも何でもない。粛々と自分の意見を書いたら、一覧画面で見ると結果的に“集団”になってるだけだ。ではなぜこんなふうにコメントスクラム的に見えてしまうのか? それは恐らく、はてブ上では“議論が成立しない”からである。

反対意見に対してまとまった持論を書くには、はてブで使える文字数は少なすぎる。また、取り上げられた記事の筆者がはてなユーザーでなければ、そもそもコメント自体書き込むことができない。

もちろん自分のブログで反論エントリを立てれば、モノは言える。だがもともとの異論が寄せられた同じスペース上(はてブ上)で論駁し、双方向の議論ができない点は変わりない。これができない限り、たぶん“言われっぱなし感”“晒し上げ感”はなくならないだろう。

ちなみに私自身は議論が好きな人間だ。自分と違う意見、違う価値観に遭遇すると、「なるほどそんな考え方もあったのか」と新しい発見ができるからである。

ゆえに他人のブログを読んで「これは違うだろう」と感じれば、反対意見を書いて相手にどーんとトラックバックを送る。で、相手がさらに反論すれば、イーブンな議論ができる。だけどはてブ上ではそうは行かないね、って話だ。

そもそも議論するのが目的で開発されたサービスじゃないんだから、当たり前の話なのだが。

てなわけで私自身は、けなすはてブはあまりやらない。もちろん道具の使い方は人それぞれだから、どっちがいい悪いの問題じゃない。“私は”やらないというだけの話だ。

それにしても果たしてはてなは、はてブのこんな二極化を予想していただろうか? ……やっぱり“道具は勝手に走り出す”のである。

松岡美樹(まつおかみき)

新聞、出版社を経てフリーランスのライター。ブロードバンド・ニュースサイトの“RBB TODAY”や、アスキーなどに連載・寄稿している。著書に『ニッポンの挑戦 インターネットの夜明け』(RBB PRESS/オーム社)などがある。

(松岡美樹)

【連載】松岡美樹の“ネットメディアの心理学”

2006-12-05

ネットコミュニティーを動かすのは何だろうか? それは人の心理だ。ネットという文明の交流点で、異なる趣向やバックグラウンドを持つ人々が集まり、そこに摩擦が生じる。それは刺激を受け新しいものを生み出すプラスの原動力にもなるし、炎上やあおりあいといったマイナスの方向に作用することもある。本コラムでは、ネットサービスに造詣が深いフリーライター松岡美樹氏が、こんなネットの悲喜こもごもを論じる。


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